29-1 ポリタンク(仮)の本気。
またもや差し込みで書いたので管理番号が半端ですが、ちゃんと時系列通りになっています。
気にしないでやってください。
とりあえずもう少し二階を探検しようと決めたんで、ほてほてと歩きまわる。
迷路なんかはよく、左手を壁について歩くといいって言うけど、ここはあんまりそういう事も
ないみたい。
ところどころにろうそくを使った燭台が壁に埋め込まれていたりするけど、そういえば一階にはなかったな。
……火気がやばそうなフロアに限ってろうそくがあるとか、若干作為を感じちゃうのは勘ぐりぎだろうか?
まぁ、考えたところでどうしようもないし、注意しながら進もう。
さっきから何度か浴びた怪しいにおいの液体、本気で石油とかガソリンだったらやばすぎるけ
ど、確かめようもないからなぁ。
確かめるために火に近付くとか、本末転倒すぎるし。
何となくまわりを見回しながら歩いていると、ポリタンク(仮)を発見した。
距離的には三歩分くらい離れてるだろうか。
丁度、少し広くなっているこの部屋から反対側の通路へ一歩出たところにいる。
こういう時、遠距離攻撃できる武器があれば便利なんだけどな。
足踏みで引き寄せるか、一歩踏み出すべきか……。
まぁ、ポリタンク(仮)は多くても二回殴れば落ちるみたいだし、そんなに悩まなくてもいい
か。
ひょいっと一歩踏み出すと……。
「……え?」
私の動きに合わせて一歩進んだポリタンク(仮)の後ろから、またポリタンク(仮)が……。
今まで二匹同時に出てきたことなんてなかったんだけどなぁ。
二階に来たからかしら?
でもまぁ、二匹くらいなら慌てる程でもないだろう。
出てきちゃったものはしかたがないし、一歩足踏みして……って、また出てきた?!
…………。
ま、まぁ、なんとかなるだろうけど……。
一応アイテムボックスから帰還符取り出しておこうかな。
ポケットに入れておけば服の上からおさえる形でも発動できるって言ってたし!
帰還符をポケットに入れ終わると、これも1ターンに数えられたのか、隣接してた二匹からぽ
くぽくと体当たりされちゃった。
でも、体ゲージはまだまだ余裕だし、焦らなければなんてことないだろう。
……たぶん、また一匹増えてるのは幻覚です。
四匹目なんていないです。
ちょっと現実逃避してみたけど、これだけの数になるとにおいも結構しゃれにならないな。
さっさと倒そう。
三匹横並びで目の前にいるうち、真ん中の一匹を思いっきり殴るとぐらりと大きくかしいだ。
何とか踏みとどまろうと頑張ったあと、結局ひっくり返って小銭にリサイクル。
そして、そのスペースに後ろにいた一匹が入ってきて、両脇の二匹から体当たり。
うち、一回はなんか嫌な感じの液体がたっぷんと足にかかる。
うぅ……。臭いよぅ……。
びしょ濡れにされちゃったブーツの敵ってことで、液体をかけてくれた方を左手で殴る。
と、今回は倒せなくて、三回くらってしまった。
外れるって事がないのも嫌らしいところだよなぁ。
体力は……まだ大丈夫そうだ。
倒し損ねたのをもう一回殴ろう。
ぽかん、ぐらぐら……ぱたり。びしゃあ。ちゃりん。
よし、リサイクル完了、と。
そして二回体当たりをくらった。
いつもより少し痛かった気がするなぁ、と思って念のため体力ゲージを見ると、残り三十パー
セントくらいになってる。
……あれ、結構やばい?
かといって、回復アイテムがあるわけじゃないし……。
よし。次殴って一匹倒せなかったら帰還符使おう。
気合いを入れて左手フルスイングで殴ると、うまい具合に一匹リサイクル。
ふぅ、これで一安心。
次の体当たりに耐えて、もう一回殴れば多分、と思ってたら、……あれ? 殴ってこない?
なんでだろうと思って最後に残ったポリタンク(仮)に視線を送ると……。
一歩離れてるんですが?
逃げてくれるんならありがたいけど、側にいられると安心して足踏み回復もできないし、追い
かけたところで体当たりされてもな。
とりあえず様子見、と思って一歩足踏みをする。
するとやっぱり一歩遠ざかるポリタンク(仮)。
でも、私から離れるっていうよりは壁に向かってる?
あれっと思ってポリタンク(仮)が目指しているらしき方向に目を向けると、そこにはろうそ
くが。
…………な、なんだかすごくやばい気がしませんか?
足下の土間はかなりの範囲が怪しい液体を吸い込んで、しめって変色している。
そして、この可燃性らしきにおい。
私にもばっちりとかかっちゃってるという現実。
そして……火の気。
……に、逃げるべき?!
いや、待って。よく考えないと。
ポリタンクはあと一歩でろうそくにたどり着く。
つまり、私はあと二回しか行動できないって事で……。
え、ええと……。
どうしよう?
歩いて逃げたって間に合わなそうだし、ポリタンクを倒そうにも、追いつけないだろう。
というか、自爆攻撃できる度胸とか、知力とかがあったんですね、ポリタンク(仮)。
って、今はそんな事考えてる場合じゃないし?!
うわ、考えがまとまらないっ。
あわあわしてる間にバランスを崩して、ぺたりと尻餅をつく。
……あぁっ?!
もちろん、一ターンにカウントされてポリタンク(仮)が動いた。
ろうそくに近付くのかと思いきや、その場で景気よく弾んで、中の液体をろうそくに向かって
噴射した?!
ここに来てまさかの遠距離攻撃ですかっ?!
怪しい液体を被ったろうそくは、もちろん派手に燃え上が……らない?
……いや、ろうそくは火を噴いたんだけど……。
ろうそくの正面、一歩×三歩分の広さは派手に燃え上がってるのに、それ以上燃え広がる気配
がない。
「……なんで?」
きょとんとして、辺りを見回すけど燃え広がる気配なし。
「……ええと……」
どうしたらいいんだろう?
とりあえず逃げる?
そう思って立ち上がると、燃えていた範囲の周辺に燃え広がる。
「えぇ?!」
さすがに無視できなくなった熱さと火の勢いに驚いたけど、やっぱり一定範囲より先には燃え
広がらない。
大体、一回に燃え広がるのが、最初に燃えていた範囲に接している、一歩×一歩分の広さのマ
ス目ごとってところか。
「……つまり、燃え広がるのもターン制?」
あまりに予想外で、つい驚きを通り越して妙に冷静になってしまった。
仮に、一歩×一歩の広さを一セルとすると、壁を除外してろうそくを中心に最初は三×三セル
が、次に四×四セルが、と一セル分ずつ範囲が広がる計算になる。
……って、次の次は私も燃えちゃうんじゃ?!
ええと、ええと……。
――――――――
目の前に迫る炎と、肌を焦がす熱。
煙が喉と目を焼いて、痛くて痛くて。
――大丈夫、蓮は必ず助けるからね
そう言って、私を抱きしめてくれた人は……。
――――――――
脳裏をちらつく光景に、考えが邪魔されてちっともまとまらない。
ただ、炎が怖くて一歩下がると、空いた隙間を埋めるように燃え広がってくる。
既に天井に届く程になった炎を見上げて、ただ呆然とするしかない。
床には燃え広がらなくても、飛んでくる火の粉とはき出される熱に負けて咳き込む。
もう一度炎に視線を向けると、なんだか妙に近くまで来てる。
あれ、と思ったらいつの間にか折角立ち上がったはずなのに座り込んでいて。
飛んでくる火の粉でブーツやら服の袖やらに火がつき始めていた。
死なないだろうけど、蒸し焼きは嫌だな、なんて妙にさめたことを考えた。
……そういえば、ここで動くなって言われたんだっけ?
ぼんやりとした頭がそんな事を考えた時、
――危ないと思ったら必ず帰還符を……
出かけにしつこくしつこく言われた言葉を思い出す。
……そうだ、ポケットに入れてあるんだから使わなきゃ!
お読みいただきありがとうございます♪
後半、主人公大混乱です。
あわあわしてる感じが出ていればいいんですが。




