妨害電波を解除するために
「それで、妨害電波を解除すると言ってもどうするんだい?」
コンピューターをいじっている東夜に向かって諒が質問した。
「一つだけ、成功する可能性は低いが案はある。」
「どんな?」
「奴らテロリストの装甲車を一台確保するんだ。それで、奴らの装甲車内にあるコンピューターから情報を探ろうという考えだ。あいつらの通信装置系統は使えることは一度確認してるからな。」
諒はなるほどという感じに頷いた。
「何はともあれ、そうするならテロリストの装甲車を見つけないとな。」
俺は二人を見て喋った。
「そうだな。とりあえず近くにあるP.K.D.Fの基地に行ってみようと思う……ってことだ安奈、頼んだ。」
「了解。」
装甲車はスピードを上げて最短距離にある基地へと走り出した。
あれから10分程、車内で銃の弾倉へ弾薬の補給をしているうちに一番近くのP.K.D.Fの基地にたどり着いた。
東夜は装甲車から降りると姿勢を低くして、双眼鏡で基地の入口付近を見渡した。
「基地の入口は4人のテロリストが警備してるな…。」
「肝心の装甲車は?」
諒が東夜の隣にしゃがんで質問した。
「んー、あったぞ。車両とか格納しているガレージの前だ。3台も停まってる。」
「ここを警備している連中の装甲車だろうね。」
「ああ、間違いない。俺の予想だとあの装甲車にあるコンピューターを経由して、他の場所にいるテロリストと連絡を取り合っているはずだ…。」
「とりあえずは、あれをどうやって確保するかだね。」
東夜はその質問に沈黙して考え始めた。装甲車の周りはそれなりに警備が厳重だ。
「東夜、俺と黒雨に任せてみないか?」
俺は東夜の後ろに立って言った。
この発言には東夜達の信頼を少しだけでも獲得しておきたいという気持ちがあった。
「常田……。何か良い案でも?」
「少しだけな。まあ、ここから見ててくれ。」
俺はそう言うと、黒雨についてくるよう手で合図をした。
黒雨は合図を受けると車内の座席からひょこっと立ち上がり、弾を補充したばかりのM4を手に持って装甲車から出てきた。
「任せたぞ。」
東夜はそう言って双眼鏡で再び敵の装甲車を見つめた。
「行こう。」
俺と黒雨は姿勢を低くした状態で建物の残骸や壊れた車などに身を隠しながら、ガレージから15メートル手前くらいの場所まで移動した。
「黒雨、光学迷彩はまだ使えるか?」
黒雨は左腕の端末を軽く見ると頷いた。
「…よし。黒雨は光学迷彩を起動した状態で一番左の装甲車に行って、たどり着いたら中を制圧してくれ。黒雨が制圧している最中に俺はここから外を警備してる奴らを射撃して、奴らの気を引く。もし、中を制圧したなら合図をして欲しい。そうしたら俺も装甲車に向かう。きっと銃声とかで距離のある奴らも集まって来るだろうから迅速に行動しよう。」
正直これ以上の作戦が思いつかなかった。
光学迷彩を使えるのは黒雨だけ。銃のサイレンサーなどの消音器も黒雨しか持ってない。
この状況で隠密行動するには少し厳しいだろう。
でも出来る限りは迅速かつサイレントに済ませたい気持ちがあった。
「行動開始といこうか。」
黒雨は静かに光学迷彩を起動すると装甲車に向かって歩き始めた。
俺は光学迷彩起動中でも姿を確認できる眼鏡を付けて、その姿を黙って見守った。
そして黒雨が装甲車の中へ入って行くのを確認したところで、兵士の気をこっちに向けるため狙撃を始めた。
クライシス用の弾丸なので、銃声と共に兵士の被弾した部位はグチャっと吹き飛んでいた。
正直、あまり良い光景ではない。
それからも銃声を聞き付けてやって来たグリードの増援らにも休まずに狙撃を繰り返した。
気が付けば、黒雨は装甲車を制圧したのか俺の方を見て手招きしていた。
俺は周囲を警戒しながらも小走りで装甲車に向かった。
どうやら付近にいた奴らは片付けてしまったようだ。
「さて、妨害電波に関するデータは……と。」
装甲車の中へ入るとコンピューターの前に座っていた兵士の亡骸を静かに床へ寝かせ、手早くコンピューターを操作した。
しかし、ここまではなんとか来れたものの何を見ればいいのかが分からないという致命的な欠点が俺にはあった。
とりあえず手探りでいろいろなデータフォルダを開いてみたが、これだというのは見つけられない。
そんな感じでコンピューターをいじくり回していると、たまたま開いた地図のデータに目が止まった。
地図には何やら大きな円が描かれてる。
ズームアウトして表示領域を広げてみると、その円は重なるように地図上の隅々まで描かれていた。
さらに、全ての円の中心にはアンテナのような絵にバツ印がつけられたマークが描かれている。
「これは妨害電波の範囲か…? 黒雨、左腕の端末にこの地図情報を取り込んでくれ。」
俺が指示すると黒雨は腰のポーチからケーブルを取り出し、コンピュータと端末を繋げてデータを取り込んだ。
「よし、増援が駆けつける前に東夜達の元に戻ろうか。」
それから俺と黒雨は駆け足でこの場を去った。
「常田、無事でよかった。」
「なんとかな…。」
俺はそういうと装甲車の中に入った。
「諒、テロリスト共の動きを監視しててくれ。」
東夜はそういうと俺のあとを追うように中に入ってきた。
「それで、妨害電波に関する情報はあったか?」
「妨害電波に関係するかは分からんが、これを見てくれ。」
俺は取り込んた地図のデータを東夜に見せるよう黒雨に指示した。
黒雨は右腕を前に出してホログラムモニターを展開させて、そこに例の地図を映し出した。
「これは…?」
「確証はないが、たぶんこの地図に移っている円の中が妨害電波の範囲だと思う。地図の表示領域を広げてみれば分かるが、円は重なるように日本中を埋め尽くしている。」
「だとしたら、妨害電波を発生させているの機械はかなりあるということになるな。」
「…そうだな。」
「とりあえず、その情報の確証を得るために今いる円の区域の中心に行ってみよう。」
東夜はそういうと外にいる諒を中へつれてきた。
「常田、その地図を諒に共有してくれ。諒はその地図の情報を頼りに安奈へ道案内を頼む。円の中心に向かうぞ。」
諒が黒雨から地図のデータを車内のコンピュータにコピーしてもらうと、俺たちの乗る装甲車は静かに円の中心へと向かって走り始めた。
いよいよ反撃への第一歩を踏み出せるかもしれない。
「地図通りだと、この辺りが円の中心付近になるのかな。GPS関連が使えないから多少のズレはあると思うけどね。」
15分もすると諒がコンピュータのモニターを睨みながらそう言った。
GPSなどが妨害電波で使えないため、さっきいたP.K.D.Fの基地からアナログな方法で地図を辿ってきたのだ。
間違った場所に向かってなければいいが。
諒の言葉を聞いた東夜は銃座から外を覗いた。
「何かそれらしい物は見えるかい?」
諒はモニターから目を離して質問した。
「んー、これと言っては…。」
「やっぱり妨害電波とは関係ないのかな…。」
諒はため息混じりにそう言っていた。
「いや、まてよ。」
東夜はそう小声で言うと、銃座から降りて諒の前に立った。
「電波塔だ。」
「電波塔?」
「ああ。すぐ近くにP.K.D.Fの無線や端末のデータとかを遠くに送受信するための中継用の電波塔があるんだが、あれに何か細工されてるんじゃないか?」
「なるほど、その可能性はあるかも。」
諒はそう言ってコンピューターを手早くいじり始めた。
「ほほお。言われてみて気づいたけど、どの円にも共通して中心付近にはその電波塔があるみたい。」
「なら可能性は高いな。安奈、そこに見える電波塔に向かってくれ。」
「了解。」
目的地が決まったところで俺らは改めて戦闘準備を整える事にした。
あれから数分、車内で揺られていると突然装甲車は減速し始めた。
「ついたのか?」
「ちょっと待って、警備が厳重すぎて近づけないわ。」
安奈はそう言いながら電波塔から数十メートル離れた所に装甲車を停車させた。
「ふむ、こればかりは仕方ないな。安奈はこのまま待機してて、いつでも装甲車を出せるような体勢でいてくれ。」
「わかった。」
「諒もここで待機して、なにかあった時のために備えてくれ。」
「了解。」
「俺も何かやればいいか?」
東夜が淡々と指示を出す中、俺は銃を点検しながら質問した。
「常田とそこの少女には俺と塔に行ってもらう。」
「了解だ。」
俺は返事をしながらM4に弾倉を装填した。
「それじゃ、行動開始と行こうか。」
東夜はそう言うと後部扉を開けて外へと出て行った。
俺と黒雨も銃を構えると、後を追うように外へと出た。
「で、どうやって近づくんだ?」
「ちょいと手荒いが、これを入り口にいる連中に撃ち込んでやろうと思ってる。」
東夜は腰のホルスターに入れていたM79グレネードランチャーを引き抜いた。
「ちょっとどころじゃない気がするが。」
「いくぜ。」
東夜はそう言うと電波塔の入り口に向かって走りだした。
「ん。なんだお前、止まれ!!」
入り口を警備しているグリードの兵士が東夜に銃を構えて警告してきたが、東夜はその返事にグレネードランチャーの弾を発射した。
「さて、俺たちも行くとするか。」
俺と黒雨も遅れをとらないように、急いで入り口へと向かって走った。
背後では爆発音を聞きつけた周りの敵兵士らが駆けつけてくる姿が見える。
「黒雨、東夜、早く中へっ」
最後尾の俺はただひたすらに走るしかできなかった。
東夜は俺たちが来るのを見ると扉を開けて中を素早くクリアリングした。
「中は誰もいない。」
「みたいだな。だが外はテロリストに囲まれたぞ。」
俺はそう言いながら塔の中へ入ると早々と扉を閉めた。
「それで、なにか変わった事は?」
俺は部屋の中を見渡しながら聞いた。
「ここには特に…。上の階にある電波の送電制御室を確認してみよう。」
東夜はそう言うと、小走りで上の部屋へ直通している階段を駆け上がった。
「了解。」
俺はさっき入ってきた扉の鍵を閉めて、上の階に向かう東夜と黒雨を追いかけた。
この電波塔は銃弾などを簡単に通さない壁や扉で作られているが、きっも時間の問題だろう。
送電制御室に入ると、電波やネットワークのサーバーを管理するための機械がたくさん並んでいた。
これらをさっきの下の階で操作して、上の大きなアンテナで送受信しているのだろう。
「二人とも、あれを見ろ。」
東夜の視線の先にはこの電波塔のメインにあたる送電制御装置があった。
その装置にはいかにも後付けされたような機械が取り付けられている。
「常田は何の機械だと思う?」
形や大きさはC4爆弾のようにも見える。
「黒雨、あれと端末をつないで解析できるか?」
たまたま機械の横に外部機器への接続用ポートを見つけた。
俺の言葉に黒雨は静かに頷いて、左腕の端末とその機械のポートをケーブルで有線接続をした。
数秒して、その機械がどういう働きをしているのかを解析した結果が表示された画面を右腕のホログラムモニターに映し出した。
「これは…あれだな。俺たちが使っている通信機器等の“電波を必要とするもの”をすべて妨害する別の電波を作りだす装置みたいだな。それでこの電波塔を使って広範囲にその妨害電波を放ってるみたいだ。」
「じゃあ、通信端末以外にもドローンの遠隔操作みたいなのも妨害されるのか?」
「この数値を見る限りだとな。でも、東夜の話を聞く限りじゃ奴らテロ組織のものは除くだ様だがな。」
「……とりあえずこれをどうにかしないとな。」
東夜はそう言いながら機械の前にしゃがみこんだ。
黒雨はその様子を見て機械のポートから端末と接続しているケーブルを引き抜いた。
「まあ、普通に外すか壊せばいいとは思うが…。」
俺がそう言うと、黒雨はタクティカルベルトの腰辺りに付けているホルスターから拳銃を引き抜いてその装置に3発程撃ちこんだ。
「うわ、っちょ」
突然の銃声と目の前に銃弾が飛んできたことの衝撃で東夜は思わず尻餅をついた。
「と、止まったのか?」
俺は連絡端末をとりだして電波状況を確認した。
アンテナのアイコンは圏外から全てのアンテナが表示されている。
「どうやら…そうみたいだな。諒たちに連絡をして迎えを頼むか。」
東夜は胸のポケットからインカムを取り出して耳に装着した。
「諒、聞こえていたら応答してくれ。」
「東夜っ、ばっちり聞こえてるよ!」
少し間があったが諒からの返事が来た。
しかし、それと同時に下の階から爆発音が聞こえた。
この部屋の扉から階段を覗くと、外にいたグリードの兵士らが下の階をクリアリングしている音が聞こえてきた。
「東夜、急いだ方が良さそうだ。」
俺がそう言った頃には階段の下から銃撃の嵐が始まった。
「常田、どうにか食い止めててくれっ。諒、こっちは時間の問題だ、至急迎えをたのむ。」
「了解っ。直ぐにそっちへ行くよ!」
俺は奴らが上がって来ないように扉越しにゲリラ撃ちを始めた。
「常田、これを使えっ」
東夜はそう言いながら筒上の物体を投げてきて、それを落とさないようにキャッチした。
「これは?」
「催涙ガス手榴弾だ。ガスを吸い込むなよ。」
「オッケっ」
俺は安全装置を外して階段の下へと転がすように投げた。
下の方では慌てて逃げていく連中の声が聞こえてくる。
それからすぐに手榴弾は爆発して、辺りに催涙ガスを撒き散らした。
「で、俺らはどうするんだ?」
「諒たちが迎えに来るまで防衛戦だ。」
東夜がそう喋っていると直ぐに下の方で銃撃戦が始まった。
「っと、もう来たみたいだ、出る準備をしとけよ。」
「了解。」
俺は返事しながらM4の弾倉を交換した。
「待たせたね。」
諒は2分も経たないくらいでこの部屋に到着した。
顔には催涙ガスを避けるためのガスマスクを装備していた。
「ガスはどうだ?」
「マスクなしでも大丈夫そうだよ。それと早くここから移動したほうが良さそうだ。テロリストらが重装甲車でこっちに向かってる。」
「数は?」
「目視で3台。」
「よし、早くここを出よう。」
諒の話を聞いた俺らは小走りで外へと向かった。
外に出ると、東夜達の装甲車は塔の出入口の目の前に停車していた。
東夜と諒が急ぎ足で後部扉から乗車している中、俺は外の様子を軽く見渡した。
100メートル強くらいの距離に、諒が話していた重装甲車が砂煙をあげながらこっちに向かってくるのが見える。
しかし、数は報告より2台多い。
俺は黒雨と目を合わせるとすぐに装甲車の中へと入った。
「まずい、諒の報告してた数より多いぞ。」
「よ、よし、全員乗ったな安奈出してくれ。」
「了解っ」
装甲車が走り始めると同時に、重装甲車の群れから容赦のない銃弾が飛んできた。
車内にいる俺たちはパニック状態になってしまった。
黒雨はとっさに装甲車の後部扉を閉めるボタンを押して、その場に座り込んだ。
「ふ、ふう…、なんとかなったな。」
東夜はため息混じりに喋るとすぐ近くの座席に腰を掛けた。
「全然なってない!」
運転手である安奈から反撃の一言が飛んできた。
車内はどうにかなっても車外では銃撃を浴び続けている。
「わかってるって…。」
「これからどうするつもりだい?」
諒が切実に質問してきた。
このまま銃撃を浴びたまま走行していたら、長くは持たないだろう。
「安心しろ、俺に考えがある。少しそこを借りるぜ。」
東夜はそう言うとコンピューターが置いてある座席に移動した。
「どうするんだ?」
俺が質問すると東夜はインカムを出して見せてきた。
「このコンピューターは俺たちが使っている無線機の親機になっている。」
「ふむ…。」
ちなみに俺や黒雨の様な特殊戦闘員は各自の携帯端末事態がそれぞれ独立した親機となっている。
「これで周波数を調整して他のP.K.D.Fの生き残りに助けを求めるっていう考えだ。」
諒はなるほどっと言う感じに頷いた。
「でも、繋がるのかな。皆、妨害電波のせいで無線機なんて身につけて無さそうだけど。」
「やってみるしかないだろう。とりあえずオープンチャンネルを使ってみる。」
東夜はそう言いながらコンピューターの画面を操作して無線機のチャンネルを設定し始めた。
ちなみにオープンチャンネルとは、一定の地域にいれば全てのP.K.D.F隊員に聴こえるチャンネルだ。
無線はこの他にグループチャンネルとプライベートチャンネルがある。グループチャンネルは各部隊ごとにあるチャンネルで、その部隊の中でしか聴けないチャンネルとなっている。
プライベートチャンネルはその名の通り個人、一対一でしか使えないチャンネルだ。
これで助けてくれそうな人に無線が繋がればいいのだが……。




