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マスターは帰ってきた。短く、
「どうだった?」
と言った。
「どうって、別に。誰も来なかったし」
「ま、常連たちは、オレが夏のあいだ日本にいないの知ってるからな。そりゃ、そうなるわな」
なんだか、素直にマスターの顔を見れない。
「どうした? なんか不満か? 平和だったろ?」
「でも、まあ、そうだけど」
言って、ポケットから店のカギを取り出し、マスターに渡した。
渡すとき、自然と言葉が出た。
「ひと夏くらいじゃ、さ」
マスターは、すこしきょとんとした表情を見せた。
それから考えるように、受け取った手のなかのカギを見つめ、でも突然、僕を見て、にやりとした。
黒く焼けた顔に、白い歯が、ヘンに眩しい。
多少、構えた僕に、マスターは、あっけなかった。
「そう言うな。コーラでも飲むか?」
カウンターの席に座り、マスターの背中を眺める。
振り向いたマスターが、コーラを置いた手を、そのまま僕の頭に置き、軽くなでた。
くすぐったくなって、僕は、下を向くしかなくなった。
「また、やってみるか? 来年」
視界の外から、マスターの声が耳に飛び込む。
僕は、ほんの少しだけ考えて、顔を上げ、でも、言葉にはせず、ただ、うなずいた。
涼やかな空気に、すこしだけ、日が短くなった気がした。
窓の外には、あの日の、すてき、の欠片は、姿も声もないけれど、波の音が、いまは、不思議と澄んでいる。




