初恋-blanc-
男の子の目線で紡いだ物語です。
一輪の薔薇。
その意味を知らずに、僕は君に贈った。
僕のお小遣いで買える、最も綺麗なお花だったから。
意味を知った今も、僕は変わらず君に贈るよ。
君を外で見かける事は、ほとんど無かった。
白い部屋は、君の清純を表している様で、僕は好きなんだ。
でも、それを言葉にすると、君は悲しそうに微笑むから、僕は何も言えずにいた。
今になって思う。
無垢とは、時に残酷だと。
いつだったかな。
君が、3日も目を覚まさなかった時。
このまま、もう起きないんじゃないかって、泣きじゃくったんだよ。
でも、少しだけ希望はあったんだ。
ママに読んでもらったおとぎ話は、僕にとっての教科書だったから。
お姫様は、王子様の魔法の口付けで、目を覚ます。
僕は、どうしても目を覚ましてほしかった。
無機質な電子音が、この部屋に時間が存在している事を教えてくれる。
静かな吐息が、2人だけの世界を彩ってくれる。
これからしようとしている事の重さは、その時の僕にはわからなかった。
でも、それがとても大切な事だって、僕でも漠然と感じる。
だから、戸惑いは隠せない。
それでも、僕は、魔法をかけた。
それが、僕の初めてで、唯一の触れ合い。
気づいていたのかな。
気づいていてほしいな。
指先で、そっと口元に触れると、今も、君の頬の柔らかさが蘇る。
心が喧騒の中に堕ちて、全身が熱くなる。
その背徳感が君を穢している様で、僕には、君が気づいていたかなんて聞く勇気は、生まれなかった。
だから、君の心を知らないまま、君を見送る事になってしまったんだ。
最後の日、僕は、白い薔薇の花束を贈った。
まるで、花嫁を愛でる様に。
もう、君に会えない。
だから、どうしても伝えたかったんだ。
それが、叶わないとわかっていても。
だから、後悔はしていないよ。
さようなら、僕の初恋の人。
あれから、何年経っただろうか。
君が去ってから、あの街は色褪せてしまった。
それでも、僕の初恋は、未だ鮮やかに僕の心を彩り続ける。
小さな街は、僕の新しい生きる場所。
この場所を選んだのは、あの街から逃げたかったからかもしれない。
過去と別離してでも、前に進まなければならないのだから。
これから、多くの事を知るのだろう。
それは、やがて抱えきれなくなり、多くの事が溢れ落ちるのだろう。
初恋の彩りも、いつかは褪せるのかもしれない。
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部屋に飾るお花を買いに、小さな花屋に立ち寄る。
初めて来る店だ。
どこか、懐かしい香りがする。
不意に思い出すのは、君と、熱く燃える心。
それを穏やかに包み込む様に、花束を抱えた店員が顔を出した。
止まる空間。
動き出す時間。
気づけば、僕は泣いていた。
涙を流して佇む君を見て。
今も愛する、初恋の君を見て。
心を満たす、伝えたい想い。
何よりも、ずっと願っていた事。
「会いたかったよ…。」




