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ログレン


 ログレンは『滅興(めっこう)』の観測を担当している。


 あの世界は正直言って『よく分からない』。

 世界がルールを定義しているらしく、決まった文明や時代を持つ事が少ない。

 揺籃や遊天と似通った部分もありその文明進度は非常に早いが、同時に世界のルールによりそれを破壊される周期も早い。

 

 その為極めて変動の激しい世界で、その記録量は他世界の比ではない。

 観測熱量がメンバー内で最も高い彼にしか、この世界は務まらないだろう。



 ――以下、記憶抜粋――



 バァン!と軽快な音を扉から鳴らし、ログレンが入ってきた。


「ネリス!!」

 

 部屋に入るやいなや、僕に近寄り嬉しそうに叫んだ。


「また滅んだぞ!!記録更新だ!!」

「……聞こえてるから、もう少し静かに喋ってくれるかな」


 彼は単純に声が大きいだけでなく、身体の芯まで響くような迫力がある。

 彼と話をしているとたまに僕を難聴にさせたいのかと思うが、悪気のない顔を見るとそうではないのだろう。


 

「観測書に変更を加えないといけないね」

「ああ!また仕事が増えたな!!」


「とりあえず今までの分は目を通したけど、特に問題は無さそうだったよ」

「全部か!?流石だな、ネリス!!」

 

 相変わらず声のトーンは落ちない。

 一応いつも最初に注意するが、半ば諦めてはいる。


『ログレンは小声で喋ったら死ぬ』


 僕達はいつかした話し合いで、そう結論付けた。

 


「うん、全部見たよ」

「そうか…そうかそうか!」


「しかし流石だね、あの滅興をよくこれだけ――」



「それはちょうど良かった!追加分だ!!」


 バン!と机に置かれた追加の記録。

 後ろ手にずっと何を持っているんだろうと思っていたが、これを出すタイミングをうかがっていたらしい。


「まだ見終わってなかったら悪いと思ってな!!だが良かった!!」


「これ……さっき見た分と同じくらい量があるんだけど」

「すごいだろ!!流石俺の担当世界!!」


 ログレンはそう言ってギシィッ!と筋肉を盛り上げた。



 この性格はともかく。

 彼以外にこの世界を担当できる者は決していないと断言できる。


 正直、僕はあそこの観測は出来ないと思っていた。


 異常な速度で文明が発展したかと思うと、その数日後には滅びていたなんて事も良くあった。

 

 破壊される場所も世界中まちまちだ。

 巨大都市がいつまでも残り続けているかと思えば、小規模の研究所が破壊されたとか。

 滅んだ文明の跡地に似たような文明が出来てもそれはいつまでも破壊されないとか。


 滅興のルールが分からない僕達は、ログレンが滅興の担当になるまでのしばらくの間、とにかく起こった事象を記録するだけで精一杯だった。



 ある時どうしても記録が追いつかず、アルヴェラに手伝ってもらおうとした事もあった。

 彼女の机の上に置いた滅興の観測端末は、翌日には僕の机に戻されていた。


『他の事ならいつでも相談に乗るわ』


 メモには丁寧な字でそう書かれていた。

 それから数日、アルヴェラは僕の前に現れなかった。



 そんな癖のある世界に、ある時ログレンが志願した。


「俺ならやれる!!任せてくれ!!」


 彼の熱量――いや、声量に押された僕とアルヴェラは、試しに数日彼に滅興を任せてみた。


 すると――


「いい……凄くいい!!俺が求めていたのは、これだ!!」


 僕達があれだけ苦戦していた滅興の記録を、ログレンは一人でこなしてしまった。


 それ以降、滅興には補助観測員をつけずログレン一人で観測と記録を行なってもらっている。


 

「熱心なのは助かるけど、身体の方は大丈夫?」

「身体?――むしろ漲ってるぞ!!」


「あ、そう……それならいいんだけどさ……」


「それより、例の話――考えてくれたか!?」

「ああ、アルヴェラと話し合ってるけど……多分無理だろうね」



 例の話というのは、ログレンが滅興に介入するという話だ。

 

 現在まで、ログレンが滅興へ介入する事は許可していない。

 ただでさえめちゃくちゃな世界にこの男が介入すると、ノルン以上に世界を混乱させる可能性があるとアルヴェラと判断した為だ。

 

 きっとこれからも許可は下りることはないだろう。

 それが世界の為――ひいては、僕達の為だ。

 


「まあ、こうして観測するだけでも十分ではあるんだけどな!」


 ログレンはニカっと笑って、モリィ!っと筋肉の山を作った。


「悪いね。また定期的に話し合いはするから」

「ああ、期待している!!」


 そう言ってログレンは部屋を出て行った。



「……ふう」


 耳に異常は、多分ない。

 少し湿度が上がってしまったから換気をしておこう。


「それにしても、彼はなんであそこまで……」


 出かけた言葉を止めて、僕は窓枠に手をかけた。


 考えても仕方がない。

 彼はそういう性格なのだ。

 

 何にしても。

 

 彼の観測は純粋な敬意を含んでいる。

 彼がいて良かったと本当にそう思った。


 

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