2【フルグの異変】
目が覚めると一本の木の下に居た。
空を見ると雲がゆっくりと流れており、そして風が吹いている。
どうやら先程までいた天界ではないらしい。ということはあの後転生し、新しい世界へ問題無く来れたということだろう。
仰向けの体を起こし、ゆっくりと起き上がる。そして周りをグルリと見渡した。
周りには山々や草原が広がっており、まるで田舎のような風景だ。
次に自分の体を見てみると、真っ白でヒラヒラの肩が出たワンピースを着ていた。裸のままではまずいからアマネが服を与えてくれたのだろう、ありがたい。
…さて、転生が済んだら次はここから1番近い街、『フルグ』へ行けとアマネが言っていたな。ここからでも少し見える街…アレがそうだろう。
まずはそこを目指す。
———
…
アマネ「え…?感情を…?」
ルーシェ「はい。お願いしたいのです、どうか」
心の底からの願いだった。俺のこの体を作ったと言うのなら機能の一つくらい止めることもできるだろう。
アマネ「…転生される方の望みを私たち天使は聞き、そして可能な限りなら叶えるのです。そしてその望み、可能なので叶える事はできますが…」
ルーシェ「私の事でしたら問題ありません。過去を全て見たという貴女には説明も不要でしょう。私は…泣いたり憎んだり恐れたりする事に疲れたのです。なのでどうか、お願いします」
アマネにもう一度頭を深く下げ、お願いした。
アマネ「…わかりました。私は貴方に自分の望む生き方をしてほしい。なので感情を無くすという望み、叶えましょう」
———
ルーシェ「……」
歩き始めて20分ほど。フルグの入り口前まで辿り着いた。
だが変だった。門番らしき防具を着た男が門の近くで血を流し、倒れていたのだ。
別に放っておいても構わない…が、まぁもしも助かる命なのだとしたら、ここで助けておいて恩を着せておいた方が今後役に立つかもしれない。
そう判断した私は倒れている男の近くまで駆け寄った。
まずは息の確認。口元へ手を近づける。……微かに息があるようだ。コレはまだ生きている。
ならば救急車を呼び、待っている間に止血を試みる。
ルーシェ「……そういえばこの世界、救急車ないんでしたね…」
ポケットの中に入れていたスマホを探そうとしたが、そもそもこの服にはポケットがなかった。
それで今別の世界に居る事を思い出したのである。
救急車を呼べないとなると、止血をした後にこの男を背負ってこの街の診療所に送る他ない。
血を流しすぎているようなので急いで処置を始める。
まずは門番の腰に差してある切れ味の良さそうなソードを抜き、自分の服の裾を切った。
ふくらはぎの辺りまであった丈が、切った事でミニスカートよりも短くなってしまった。
まぁこれはこれで動きやすいから問題はないだろう。
次は怪我の確認だ。
防具や服を脱がし、見てみると腕や肩、そして腹部などを怪我しており、そこから出血していた。
これは…何かに噛まれた後だろうか?
とりあえず1番出血の酷かった肩に布を使い、硬く縛る。
そうして応急処置ができたところで次はこの男を背負った。が、重い。
これは体が女になったせいだろう、前より力が出なかったのだ。
なので少しでも軽くするためにこの男がつけている防具や装備を全てそこに置き、もう一度試みる。
すると今度はなんとか背負うことができた。歩くのがやっとだったが。
あとは診療所へ向かうだけだ。
この街のどこかにはあるはずだろう。
そう考え、フルグへと入っていった。
だがこの街、割と広く…そして建物がたくさんあるではないか。これではどこに何があるのか全くわからない。
おまけに民家らしいとこに入ってみたが、どこにも人がいないのだ。どうなっているんだ、一体。
…この男、意識はないだろうが一応聞いてみるか。
ルーシェ「…はぁ…はぁ……意識は…ありますか。もし声が聞こえていたら…はぁ……診療所付近にある建物などの…雰囲気を教えてくれませんか……」
「……………」
もちろんだが返事は返ってこない。まずいな。このままでは助けられないかもしれない。私の体力もそろそろ限界が近い。
八方塞がりな状況にどうしようかと考えていたその時。
ルーシェ「…あれは…」
人影が見えた。5人くらいか。私ももう限界が近いので診療所までこの男をあの人たちに任せたいところだ。
そう考えた私は大声を出し、その人影へと近づいていった。
ルーシェ「すみません〜!手を貸してほしいのです…が………」
大声を出した事により、そこにいた5人は一斉にこちらへ振り返る。だが振り返った人間の顔をみた私は思わず言葉が途切れてしまった。
そう、コイツら、まともではなかったのだ。
目は白目になっており、口からは血が流れ、フラフラと左右に揺れながら歩く様はまるで千鳥足だ。
ルーシェ「……」
あれがゾンビというやつだろう。この世界では存在しているみたいだ。
…どうする?この後確実に追いかけられる事になるが、この男を背負ったままでは逃げる事はまず不可能。それならここに捨てて走るか?いやまて、何か活路は…。
「グルアアァァァ!!」
だが私に考えている暇などなかった。こちらに気づいたゾンビ共は一斉に向かってくる。
ルーシェ「ちっ……」