第43話 結婚式
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そして結婚式当日。
ステイフ王国の王宮の敷地内の礼拝堂で、二人の結婚式が粛々と執り行われた。
結婚式の招待客は、両家の両親やロベールの弟夫妻、エマの妹夫妻、国王夫妻と王太子夫妻、また、それぞれの出仕場所の同僚や国の重臣らと、中々滅多には一堂に会することはない面子である。
厳かな礼拝堂の主祭壇の前に、純白のウエディングドレスとベールを身につけたエマと、隣に純白のフロックコートを身につけたロベールが立っていた。
「汝、如何なるときも互いに愛し合うことを誓いますか」
「はい、誓います」「誓います」
低音の神父の声に緊張が高まりながらも、エマは自分の本心を神の前で告げた。
「それでは誓いのキスを」
ロベールはエマのベールをそっと捲し上げ、エマの両肩に優しく手を置きエマの唇に口付けをした。
(ロベールさん、愛しています)
そうして礼拝堂の鐘が鳴り響き、二人はしばらく招待客の祝福の拍手に包まれたのだった。
◇◇
礼拝堂での式の終了後。
中庭では結婚披露パーティーが開かれていた。
現在は立食式のパーティーも佳境を迎え、エマとロベールは二人で招待客へ個別に挨拶をして回っている。
なお、本来ならば王宮の舞踏場で披露宴は開かれるのだが、エマとロベールの意向で招待客に少しでも開放的に楽しんでもらおうとこのような形をとったのだ。
尤も国王への許可はロベールを通して取ってもらったし、警備に関する提案などは王宮の常駐の警備騎士らに意見を聞いた上で出した。
「本日は招待に応じていただき、誠にありがとうございました」
隣に立つロベールの真っ直ぐな言葉は、エマの緊張心を解きほぐしてくれた。
エマの左手の薬指には結婚指輪が、そして右手の薬指にはケイトから託された指輪がそれぞれ嵌められている。
エマはそれらの指輪を嵌めているだけで、自然と勇気が湧き上がってくるように感じた。
そして、半分以上の招待客への対応を終えたとことで、ロベールの補佐官が速やかに近づき、そっと彼に耳打ちをした。
「差出人不明の祝辞?」
「はい。内容に不審な点は見受けられず、閣下のお知り合いの可能性もありましたのでお持ちいたしました」
封筒から便箋を取り出してその書面に目を通すと、ロベールの動きがピタリと止まる。
瞬間、エマに一抹の不安が過った。
ロベールはその便箋を封筒にしまうと、それを懐にしまって口元に手を当てて思案を始め、声をかけづらい雰囲気を醸し出す。
だが、自分たちの結婚式の祝辞であればエマも大きく関わっていることであり、このまま見過ごすことはできない。
「閣下。どのような内容の祝辞だったのでしょうか」
ロベールは、エマに視線を向けると小さく頷く。
「ああ。ただ、おめでとうと。加えて、今日のような日がくるとは思っていなかったが、遠くから私たちを見守っているともあった」
臆することなく訊いたエマに、ロベールは言葉を濁すことなく伝えた。
「左様ですか……」
差し出し人不明の、簡素な言葉での祝福の言葉。
エマは漠然とした不安を抱かずにいられないと思ったが、同時になにかに思い当たったような感覚も抱いた。
( 今日のような日がくるとは思っていなかった。遠くから見守っている……)
一瞬、ロベールを慕っている令嬢からのものかと思ったが、何故かそれは違うと思う。
その人物は、これまでに会ったことはあるが、反面、あまり面識のない人物なのではないかと漠然と抱いた。
「本日は、誠におめでとうございます」
そう思案を巡らせていると、目前に青色の髪の冑を身につけた青年が現れた。
その胸につけている階級と所属を表す紋章から、彼は王宮内の警備を担当している騎士だという判断がついた。
「はい。こちらこそ、本日はご出席をいただきまして誠にありがとうございます、ポール卿」
礼儀として、宰相という立場は据え置き招待者として挨拶を返すロベールに、エマは少し新鮮味を感じた。
「ときに、ご新婦様は」
「はい」
「二年前のご勇姿を、拝見させていただいておりました。誠にご勇敢な方だと感服いたしました」
そう言って微笑んだ彼から、一瞬何か冷たい感情のようなものを感じた。
「ありがとうございます。そう仰っていただきまして光栄です」
エマがカーテシーをすると、ポールも辞儀をしてから立ち去っていった。
(何かしら。ポール卿からは言葉には言い表せないけれど、何かを感じるわ)
そう思いながらも、残りの出席者らに挨拶を行うためにより背筋をピンと伸ばした。