第42話 ケイトからの祝辞
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エマが心当たりの人物について考えを巡らせていると、丁度扉からノックの音が響き渡った。
「王太子妃殿下、お呼びでしょうか」
「宰相。呼び立てに応じていただき感謝いたします」
ノックの後に入室をしたのは宰相であるロベールだった。
彼はエマの方をチラリと見やるが、ほとんど表情を変えなかった。
おそらく、今はまだ業務中なので私的な心構えではいられないからなのだろう。
エマは心の中で案の定だと思った。
ロベールはケイトが呼び出すことのできる相手であるし、更に今は結婚式の前夜であるので尚更彼であると思ったのだ。
そして、ケイトはロベールがエマの隣まで移動したことを確認すると、二人に対して深く辞儀をした。
瞬間、エマはケイトを諌めようと動こうとしたが、ケイトが考えもなしにこのようなことをするわけがないと思い至りそれはひとまず自重した。
また、隣に立つロベールを見ると彼はエマの方に横目で視線を送ったあと、小さく頷く。
きっと、彼も同じ考えに至ったのだろう。
ケイトは姿勢を戻した後、穏やかな笑みを浮かべた。
「お二人とも少し早いですが、ご結婚、誠におめでとうございます」
「妃殿下、ありがとうございます。もったいないお言葉でございます」
丁寧に辞儀をして返礼するロベールに続き、エマもすぐさま辞儀をした。
「思えばわたくしたちは、先のパーティーの際に初めて顔を合わせましたね」
ケイトは、軽く手のひらを握りしめながら続ける。
「……正直なところ、あのときあの場所にあなた方がいらっしゃらなかったら、今わたくしはここにはいなかったと考えております。お二人とも、改めて誠にありがとうございました」
そう言って微笑んだケイトを、エマは尊いと思ったがどこか儚くも感じた。
「それはわたくしもです、王太子妃殿下。いいえ、今だけ、ケイト様とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「はい、構いません」
「ありがとうございます」
エマは一本踏み出してから、背筋をピンと伸ばした。
「わたくしは、あのとき前王太子殿下に糾弾されても決して臆さず取り乱すことがなかったケイト様に心底惹かれたのです。あのときのことがきっかけであなた様のお傍で少しでもお役に立てればと、そう強く決意をいたしました」
「エマさん……」
このような心内を、ケイトに対して打ち明けるのは初めてであったのでエマの鼓動は強く打ち付けていたが、それでも打ち明けたこと自体に後悔はなかった。
ロベールは、そっとエマの肩に手を置いた。
「私は、自分のできる最善のことを常に行いたいと思っております。王太子妃殿下と王太子殿下が、常に私たち二人のことを気にかけてくださったご恩は決して忘れません」
「宰相は、そのように思ってくださっていたのですね」
ケイトは、柔らかい微笑みを浮かべた。
「お二人の幸せを常に祈っております」
エマは自分たちに対して辞儀をするケイトに心打たれ、これから今夜のことをなにがあっても忘れないようにしようと強く決心したのだった。




