第44話「母の温もりと消えた剣」その17
第44話「母の温もりと消えた剣」その17
<命名ミッション6日目>
<初めてのクエスト3日目>
<罰ゲーム開始3日目>
■ヒトミ視点
自分でも驚くぐらい、ぐっすり眠れた様だ。
天窓から差し込む朝日に小鳥のさえずり……。
こんな清々しく、そして、気持ちよく起きれたのは久しぶりだ。
「ジーナは……ぶ!」
ジーナは、隣で寝ているマリスの胸に、がっしりしがみ付いて寝ている……。
「う、うぁ……」
「まったく、マリスお姉ちゃんが苦しそうだろ……」
「お待ちください、ヒトミお嬢様」
「ひゃぃ!?」
マリスが苦しそうに呻いたので、仕方なくマリスを揺り起こそうとした時、背後に立っていたメイド長に制される。 ……いつの間に?
「ヒトミお嬢様が、一人で起きておられるのには驚きですが、そのままマリスさんを起こさない様に……直ぐにここを発ちます」
「え? 急過ぎじゃないか? それにジーナが……」
そんなに急がなくても、それに……。 未だ苦しそうなマリスの寝顔を見て思う”このままお別れするのは嫌だ”と……。
「ふぅ、仕方ありませんね、ジーナお嬢様失礼しますよ……」
すっ……つぷ!
「ふぎゃ!? ……???」
メイド長が中指をぺろりと舐めた後、ジーナの下着に手を差し入れ、その直後にジーナの身体がビクンと跳ね、ジーナが飛び起き、きょろきょろと辺りを見まわす。 おい、今一体何をした?
「とりあえずそのまま馬車へ、身支度を整えて頂きます」
私とジーナは、馬車内でメイド長に身支度を整えさせられたのだが……。
「おい、なんだこれは?」
私達が着替えさせられたのは、どう見ても平民服だった。
「ええ、今からマリスさんが目を覚ますまで、お嬢様方には、宿の手伝いをして頂きます」
「「へ?」」
何で私が、そんな使用人みたいな真似を…っと反論するより前に、メイド長はにっこりと微笑み……。
「お嫌でしたら、直ぐに着替えて頂き、この村を発ちますが、それで宜しいですか?」
「ぐぅ、わかった! やればいいのだろうやれば!」
………
……
…
ジギーはクエストの報告の為、暗い内に村を発ったとの事だった。 ひそかに今日の朝食を楽しみにしていただけに残念ではある。 労働で汗を流し頭もすっきりした所で、私とジーナのお腹が大合唱をした。
「お姉、お腹すいたねぇ……」
「ああ、でも変な感じだ」
いつもは寝起きに軽い朝食で、こんなに”食べたい”と思う事は無かったが、馬の世話や掃除など体を動かした為か、身体が求めているのが分かる」
「お疲れ様ですお嬢様方、朝食の準備が整ったので、マリスさんの様子を見てきてもらえますか?」
私とジーナは、返事もそこそこにマリスの元へと走った。 丁度マリスが目を覚ました所だったようだが、目が合うなり、私とジーナに抱きついてマリスは泣きだした。 一体何が?
落ち着いたマリスと共に階下に降りた所で、メイド長が待っており、着替えとタオルを渡された。
「今から朝食ではなかったのか?」
「ええ、ですから、泥と汗の匂いを落としてから、朝食にしたいと思うのですが?」
「「「うっ!」」」
3人共に身体の匂いを嗅ぎ、おとなしく着替えとタオルを受け取って浴場へと向かった……。
………
……
…
やばかった、実にやばかった。労働で疲れた体に、入浴で汗を流しさっぱりとした後の朝食!
ジギーがいないからと思っていたが、これがまた絶品だ!
「ジギーさんがここを発つ前に”これで、腹を減らした嬢ちゃん達にたくさん喰わせてくれ”ってレシピと食材を置いて行ってくれたんですよ」
マリスの母親が楽しそうに、にぎやかな朝食を眺めていた。
「でも、この味を宿の売りに出来たら、お客が増えるかもだよね!」
「ああ、ジギーさんも是非そうしてくれって、薬草の入手場所や、代用できる肉の種類なんかも全部記してくれている……本当になんてお礼を言っていいか」
マリスの言葉に、宿屋の主人も、最初に見た時とは別人のような笑顔を見せる。
食堂には、他の客も小数いたが、皆、満足そうだ。
騒がしいが楽しい食事だった……そして、”楽しい時間はすぐ過ぎる”というのを実感する事になる。
………
……
…
「本当に助かりました、感謝の言葉もありません」
「いえ、こちらも色々とお世話になってしまって……」
依頼主である宿屋の主人とメイド長が話してる横で、私とマリスは見つめ合っていた。
「これで依頼完了、そして、姉妹ごっこも終わりになっちゃうね……」
「うん、でも、マリスお姉ちゃん……」
「マリス姉……」
「もう、いいんだよ? この依頼が終わるまでの罰ゲームなんだから……」
「貴族様に対し、数々の無礼、お許しください、ヒトミ・ランセル様、ジーナ・ランセル様」
マリスが片膝を突き、頭を下げる……。嫌だ、こんな別れ方なんて!
「え?」
私とジーナは、マリスに抱き着いていた。 変なものだ、あんなに”平民の娘”と見下していたのに、貴族の自分は格が上だ等と思っていたのに。 どうしてこんなにも愛おしく、胸が苦しいんだ!
「やだ、やだよぉ……マリスお姉ちゃんは、ずっとマリスお姉ちゃんだよぉ!」
「楽しかった、ボクは楽しかった! 楽しかった!!」
「う、……そうかぁ、罰ゲームはずっと続いちゃうのかぁ、なんか嬉しくて涙が出て来ちゃうよ……」
………
……
…
ひとしきり別れを惜しんだ後、私たちは沢山の村人に見送られ【イロの村】を後にした。マリスも幼い弟を抱きながら手を振っていた……。
私とジーナにとって、何よりも代えがたい数日間のクエストだった……。
次は、いつ会えるのだろうと、もう見えなくなった村の方を眺めながら物思いにふけっていると……。
「ところでお姉」
「ん? どうしたジーナ?」
「クシカツの名前きまったのか?」
「……あーーーー!!」
すっかり忘れてた! いかん、お母様に笑われる!
……数日後に、マリスに再会する事になろうとは、この時は想像すらしていなかった。
<命名ミッション6日目>→未だ継続中
<初めてのクエスト3日目>→終了
<罰ゲーム開始3日目>→終了(しかし、継続中)
■ランセル家メイド・マーロットの事情
メイド長が、お嬢様方を連れてクエストに向かってから3日後。ようやくメイド長がお戻りになられた!
クエストに出る直前、無礼な事とは分かっているけど、メイド長にあるお願いをした……。
メイド長の抜けた穴を、出来るだけ埋める事を条件に、引き受けてくれたけど……。
「ねぇ、マーロット、大丈夫かなぁ、もし、妹たちがメイド長に無礼な事なんか……」
「だ、大丈夫……うん、大丈夫だよアニス!……多分」
私の弟と、友人で同僚のアニスの兄と妹は、Fランクの駆け出し冒険者のパーティを組んでいる。
それが、”暫く連絡が無い”とそれぞれの親からの手紙に記されており、心配していたのだ。
だけど、奉公で住み込みのメイドに、【ニューカの街】の冒険者ギルドに行く余裕と路銀なんて……。
冒険者のライセンスを持つメイド長が、クエストの為、ギルドに向かうと耳にして、ダメもとでお願いしたのだ! 下手したら、いや、しなくても折檻かクビにる覚悟だったのである。
………
……
…
メイド長が屋敷にお戻りになられてから一夜明けた早朝、メイド長が一人になるところを狙っていたのだが……先客がいた。 いや、帰ってきた時、直ぐにでも話しかけたかったのだが、報告の為か奥様の部屋から出てこないし、馬車の掃除やら、夜には熊みたいな客人が来るわでメイドたちも大忙しだったのだ。
「シャーリィ、留守の間ご苦労様でした……」
メイド長が留守の間、メイドの指揮をしていた最年長のシャーリィさんと、メイド長が話している。
「うう、話しかけ辛い……」
「でも、どう見てもシャーリィさんの方がメイド長に見えるよね」
「ちょっと、何言い出してんのよ! いや、たしかに……」
屋敷の陰で様子を見ている私の苦悩をよそに、その背後で、おっとり系のアニスはとんでもない事をのたまう。しかし、シャーリィさんは27歳で背もメイド長より高い、それに対し、メイド長は10代後半でも通りそうな若々しさ……噂ではエルフなんじゃないかって言われてたけど、耳は尖ってない。
「マーロット、アニス、隠れてないで出て来なさい!」
「「はひぃ!」」
あっさりバレて、すごすごと私たちはメイド長の前に並ぶ。
「シャーリィ、この二人は留守の間どうでしたか?」
「はい、二人はかなり頑張っておりました、皿を割ったり、シーツを地面に落としたり等は、いつもの半分程度で……」
(ちょっとぉぉ、最後のは言わないでぇぇぇ!)
「ほう?」
「あ、あの、その……」
アニスは、びくびくとして私の背後に隠れた。 ちきしょー、私の方が隠れたい!
「……でも、必死に、メイド長の抜けた穴を埋めようと努力をしているは姿は評価できます」
(シャーリィさぁぁん、ナイスフォロォォォ!)
「二人とも手を見せなさい……」
「「は、はい……」」
恐る恐る手を差し出す、私達……。
「手が、酷く荒れていますね……」
(そりゃぁ、頑張りましたから! 努力の証ですよ!)
「手入れがなっていませんね、そんな手を旦那様や奥様に見られても”気にしない”という事ですか?」
(しまったぁぁぁ! 手荒れ用のクリームは常備されていたんだったぁ!)
「そそそ、それはぁ!」
「メイド長、それは私のミスです、メイドたちの、手のケアのチェックを怠っていたので……、仕事に集中するあまり気付かなかったと……」
(シャーリィさぁぁん、貴女は女神か!)
「そうですか、以後、気をつけなさい。メイドである前に、女性なのですから肌のケアは疎かにしてはいけませんよ?」
(すみません、すみません、ほんっっとうにすみません!)
「「は、はい!」」
「あ、あのメイド長……」
「シャーリィ、帰って来て早々申し訳ないのですが、私は、暫く留守にします、それと……この二人を外します」
「「「え?」」」
(ちょっと、今なんて?)
口をパクパクさせてる私達をよそに、話が進んで行く。
「はい、こちらは何とかします」
「助かります、では、マーロット、アニス、今すぐ荷物を纏めなさい」
「「ええええ!?」」
え、まさかクビ!? やっぱり? それとも弟が何か粗相ををを? いきなりこの年で無職に!?
「マーロットぉ……」
「だ、大丈夫よアニス、必死に死ぬ気で謝れば!」
私達は抱き合いながら、その場にへたり込んだ……。
(助けて神様ぁ!!)
「過去編」は書いてて楽しいですが、長すぎなのは反省点です。この後はクライマックスに向けて突き進む感じに纏める予定……とはいえ難しいです。




