第41話「母の温もりと消えた剣」その14
第41話「母の温もりと消えた剣」その14
<命名ミッション5日目>
<初めてのクエスト2日目>
<罰ゲーム開始2日目>
【マジ区・ヤマの森の手前】
■ニナ視点
私は大剣使いの大男に抱えられ、木陰へと連れ込まれた。ほどなくしてマリスさんの悲鳴が上がる。悲鳴と言っても、敵を油断させる演技であるのは分かっている。マリスさんたちは上手くやっている様ですね。
「馬鹿野郎! 何やってんだ!」
木陰に潜んでいたのはローブを纏う若い男、連絡要員の魔術士といった所ですか。連絡要員に魔術士という事は、近くではない場所への……という事ですね。
「ああん? 別にいいだろ、馬車の中にいる腰抜け冒険者はめった刺しでくたばってるはずだ、此処に近づいた奴は、全部始末すりゃいいんだろ?」
顔を合わせるなり、口論を初めている。 仲間というよりは、依頼をした側との連絡員の様に見えますね。
「違う! 近づいてくる奴は、野盗としてちょっと痛めつけて脅すぐらいでいいんだよ! この前といい、殺しまくったら流石にギルドに目をつけられるだろうが!」
「野盗ってもんをわかっちゃいねぇなぁ? 身ぐるみ剥いで金品奪うだけなんて、それで済ます方がよっぽど怪しまれるぜ? 金目の物も命も奪う! そして、イイ女は散々楽しんでから売り払う、ここまでやらねぇとな。それに噂を流せば、大事にもならねえだろ?」
「報酬は払ってるんだ、女なんか街で抱けばいいだろう?」
「ん? 馬車の方が騒がしいな……へっ、外に引きずり出してお楽しみか? 野郎の悲鳴も聞こえるって事は、腰抜け冒険者も嬲り殺される真っ最中って事か……」
注意して聞けば、ジギーの声でない事は分かる……。 馬車の方は問題ない様ですね。
「酷いですわ、お一人様と思わせておいて、二人がかりでなんて……」
怯えるような眼で、魔術士の男を見る。
「な、なな何を言っている! 俺は、そんな野蛮な行為など!」
若いとはいえ、魔術士がそんなに動揺してはダメでしょうに……。
「まぁ、いいじゃねぇか、見張りばっかりで色々溜まってるんだよ、息抜きしなけりゃぁ仕事も出来ねぇ、野盗として近くの村を襲ってもいいんだぜ?」
「ぐぅ、今回は大目に見てやる。 だが話を聞かれたから、そのメイドは殺しておけよ?」
「ま、魔術士様……、精一杯ご奉仕しますので、どうかご慈悲を……」
縋る様に魔術士の男を見つめる。 その間にも、他に仲間がいないのか探知を行っているが反応は無い。
それにしても、魔術士の男は、ぽかんとした顔でこちらを見ているのはどうしてなんでしょう。
「ま、魔術士様……、そんな風に敬った呼び方なんて……うう」
……どうやら魔術士は色々と残念な方のようですね。まぁ、こちらとしては助かりますが。
「何だよ、今になってヤりたくなったのかよ? だが、コレは俺のだ、ヤリ潰すまで殺しやしない」
大男は私を地面に下ろし、ズボンの前を開ける……。 はぁ、そこが立派なのは認めますが、オスというのはどうしてこう……。
「へっへっへ、さぁ、新しいご主人様に、どんなご奉仕をしてもらおうかな?」
私に向かって手を伸ばしてくる大男。
私は両手をスカートの中に差し入れ下着の紐を解くと、下着がパサリと足元に落ちた。
「太くて、そして大きくて、逞しいですわ」
私はスカートの両端を摘み、メイドの礼をする。
「ほ、ほぉぉう、分かってるじゃねぇか、今からこの逞しいモノで、みっちり教え込んでやるぜ」
「……ゴクリ」
魔術士の男も食い入るように見つめている。 全く困ったものです。
「さぁて、中身はぁ……」
大男の指がスカートに触れようとした時、私はつまんでいたスカートを離す。
シュカン!
「本当に逞しくて太い親指……」
「へ? 親指? 何だ指でされるのが……あれ?」
大男はスカートを掴むことが出来ずにキョトンとしていた。
「でも、もう要らないですよね?」
「へ? お前、ソレ俺の……指?」
私の両手にはナイフが握られており、その切っ先に太い親指が刺さっていた。大男が、親指の無くなった自分の右手と、私のナイフに刺さってる指を交互に見る。
「ぴぎゃぁぁぁぁぁ!!! 俺の! 俺の指がぁぁぁ!!!」
大男が膝を突き、血が噴き出し始めた右手を押さえて無様な悲鳴をあげる。
「て、てめぇ! 俺の指をを!!」
「はい、冒険者の誇りを捨てたのです。なら、もう必要ありませんよね?」
グシャ! ジャリ!
私はにっこりと微笑み、斬り取った大男の指を足元に投げ棄て、踏みにじる。
「止めろぉぉ! 俺の指がぁぁ!」
私の足元に、無様に這いつくばる大男。 指を落とされた位で泣き叫ぶとは……余程温い鍛え方をしてきたのでしょうか?
「ひ、ひぃぃ! ……ひゃぁ!?」
カコォォォン……
投擲されたナイフが、逃げようとした魔術士の鼻先を掠め、側の木に突き刺さり魔術士の足を止めた。
「何処へ行こうというのです? 魔術士様には聞きたい事が御座いますので、暫くお待ちください」
私が笑顔で告げると、魔術士はその場にへたり込む。
「さて、野盗の方でしたね? お伺いしますが……」
「痛ぇ! 痛ぇよぉぉ! 俺の指ぃぃ!!」
ふぅ、これで冒険者気取りだとは……【ニューカ街】の冒険者ギルドも質が落ちましたね。私は大男の襟首を掴み、往復ビンタを大男が大人しくなるまで続けた。
「……ひぃ、ゆるして……ひぐ……」
自慢の”立派モノ”も縮み上がった大男から聞き出せたのは、Fランクに落ちて剥奪も時間の問題だった彼らに”長期護衛の指名依頼”があったのは2か月ほど前、実際は”野盗のフリをして、誰もこの森に近づかない様にする”という事だった……。
「呆れました……、真面目にコツコツと依頼をこなしていれば良いモノを……」
親指を斬り落とされたのだ、彼はもう大剣使いとしては復帰できない。それ以前に、冒険者が野盗をフリをして略奪など、ギルドでは許されざる大罪だ。ランクの剥奪は当然の事、冒険者として復帰できない様に、片腕や片足を潰された上、男ならアレを潰され、女ならアレを焼かれるという。
「ひぐ、ギルドにだけは……どうか!」
先程までの威勢はどうしたのか、大男は土下座をしている。
「そうですね、私の質問に嘘・偽りなく答えて頂ければ、ギルドには報告しないでおきましょう」
「な、なんでも答えます!」
大男は顔を上げ、すがるように答えた。
「先ず、ここ最近、近くの村が魔物の被害に遭っています。それは貴方達の仕業ですか?」
「……食料として狩ろうとした魔物が、何匹か取り逃がしたから……多分それが」
成程、ピットボアが傷だらけだったのもそういう事ですか……。
「次に、この森付近でのクエストで”Fランクの駆け出し冒険者”が数人いたらしいのですが、何か知っていますか?」
「し、知らねぇ……ぶが!?」
目を逸らした彼の顔面を踏みつける。はしたない上に、下着も着けていなかったが、今は気にならない。
「駆け出しとはいえ、クエストを放り出して逃げるという事は無いと思いますが……ギルドに調査を依頼してもいいのでしょうか?」
「ふが、お、俺たちが……殺……始末しました、女連れで、生意気だったので……ギルドには”逃げた”って噂を流して……」
当家のメイドには、身内が冒険者をやっている者も少なくない。今回のクエストに出る直前にメイドの一人が”弟たちがクエストに行ったまま戻ってこないので、調べて欲しい”と懇願してきた。家庭の事情をメイド長の私に持ち出すのは、本来使用人としては問題ですが、彼女の必死な態度と普段の仕事ぶりに免じて、私が留守中の仕事を出来るだけこなす様に条件を出し、承諾したのです。
「ギルドで噂を流したのは貴方達だったのですね……」
「さ、最初はちょっと脅かすつもりだったんだ! そしたら、仲間の一人が連れの女に手を出して……噂は、そこの魔術士が……」
「ひぃ!」
私が視線を向けると、滑稽なほど狼狽える魔術士。
「成程、彼らの最後を教えてください。出来るだけ詳しく、それと亡骸の場所も……」
………
……
…
「……久々ですよ、吐き気がするこんな気分は」
「冒険者になりたい」それは良くある、少年少女が持つ未来の姿、”名声の為””強くなりたい””奉公に行った姉に楽をさせたい”そんなささやかな少年少女の夢、その第一歩だった。幼馴染同士でPTを組み、初めてのクエストは背伸びをせず、小さな村から出された調査の依頼。
冒険者である以上、”死”は常に覚悟するのは常識だ。だが、彼らはこれから成長していくはずだった、無理はせず慎重に、身の丈に合ったクエストをこなす内はそう危険はないだろう。”災害”や”事故”を覗けばだ……。 だが、彼らには経験が、そう経験が足りなかったのだ。 ”人を疑う”という経験が……。「ギルドで話した事がある」と不用意に”野盗のフリをした冒険者”に声をかけた少年。そこで彼らの”運命”は決まってしまった……。
「私が、もっと良くメイドたちの内情を知っておけば……」
メイド長の私が冒険者でいる為には、更新試験とある程度のクエストはこなす必要がある。何度か冒険者ギルドには足を運んでいる。
「ギルドの噂や、些細な事にも耳を傾けていれば……」
過ぎた事を、悔やんだ所でどうにもならない事は分かっているが、もっと早く気づいていれば、駆け出しの冒険者たちは、惨たらしい最期を迎える事もなかったかもしれないと思うと胸が痛む。
ガサ、ガサ……
「いたいた、ニナさん。 こっちは終わっ……うぉ!?」
「ジギー?……はっ?」
ジギーの声に我に返ると……”大男はそこにいなかった”辺り一面が真っ赤に染まり、細切れになった何かの肉片の様な物が無数に散らばっていた。
「ひぃ……、ひいぃぃ……ば、ばけもの……」
奥には、へたり込んで震えている魔導士がいた。あの大男は何処に行ったのだろう? 私ともあろう者が逃がしてしまったのでしょうか?
「ジギー、一人逃げられた様です……すぐに追わないと……」
「ニナさん、その必要はないです……」
ジギーが、すっと指さしたのは私の手元……? 私の手には、半分潰れた大男だったモノの頭部があった。
ぬちゃぁ……ずしゃ!
「指が食い込んでいた”ソレ”が抜け、地面に落ちる」
「私は……」
ふぁさ……
「嬢ちゃんたちには、その姿は見せない方がいいでしょう」
ジギーが外套をかけてくれた……。メイド服も鮮血に濡れていたからだ。
「すみません、助かります」
ガサ、ガサ、ガササ!
「ニナさん! 大丈夫って……ひゃぁ!」
マリスさんが草をかき分け入ってきて、尻もちを付く。
「!!~!!!」
「マズいな、マリス! 嬢ちゃんたちをここに来させるな! それと、ニナさんに着替えと洗浄用の水を頼む!」
「は、はい!」
マリスさんが慌てて引き返す、お嬢様方がこっちに向かっていたのだろう。
「魔術士か? とりあえずこいつも! ニナさん、とりあえずじっとしててください」
「はい……、手をかけさせてすみません……」
ジギーが魔術士を抱えて、馬車の方へと出て行った。
「はは、やってしまいましたね……、抑えきれないなんて……」
私は近くの木に身を預けて座り込んでいた。
「あの子になんて伝えればいいんでしょうかね……」
大男だった頭部が視界に入り、目が合った。
「ギルドに”貴方の事”は報告しませんよ、せめて森の養分とおなりなさい……」
暫くすると、マリスさんの近づいてくる気配がした。
「後悔してる場合ではありませんね、彼らを助けてあげなければなりません……」
私は立ち上がり、姿勢を正してマリスさんを待つ。
<命名ミッション5日目>→継続中
<初めてのクエスト2日目>→メイド長やらかす
<罰ゲーム開始2日目>→継続中
今日の休みを利用して何とかできました。書きたい事が多すぎて、相変わらず進みが遅いですが宜しくお願い致します。




