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第29話「母の温もりと消えた剣」その2

第29話「母の温もりと消えた剣」その2




【ランセル家、敷地内】




メイド長がジーナを抱きながら、私とお母様の中間に立ち、そこから数歩下がった位置で片手を挙げる。


「始め!」


メイド長の手が振り下ろされ、私とお母様は同時に地を蹴った!


”ガシィィィィィン!!!”


”フォンフォンフォン……ザス!”


「あうぅぅ!!」


激しい衝撃の後、痺れた手を押さえる。


「嘘?どうして?」


私の手から離れた剣は、くの字に折れ曲がった状態で地面に突き刺ささっていた。


「何で、どうしてなんです?ただの木剣の筈なのに!」


お母様の木剣は折れもせず、健在だ。


「さて、剣を重ねたら何と言っていたかな?」


「ぐぅ……参りました、私の完敗です」


悔しかった、圧倒的有利な状態であったのに無様に敗北した事に涙が出てくる。


「これが実戦ならどうなっていたかな? ん?」


「い、言い訳する間もなく斬り殺されていました……」


「うん、その通りだ、だが、お前の敗因はもう一つある」


「え?それは、何ですの?」


「それはな、慢心だ」


「私が奢り、高ぶっていたと……そういう事ですの?」


「まぁ、なんだ、魔法武具にときめいて顔がにやけていたぞ?」


「ええ!?」


慌てて、手で顔を覆う。私ともあろう者がそんな、俗物的な……。


「私、そんな、ランセル家の長女として……ひっぐ!」


無様だ、あまりにも無様だ、悔しさに泣き出したいが、ぐっと耐える。


「あ、をいをい、泣くなヒトミ!」


「泣いてまぜん!決して!泣いてなんか……」


「そろそろ、種明かしをして差し上げたら如何ですか?メロディア」


「う、そうだな……なぁ、ヒトミ……」


メイド長の進言に慌てるお母様が頭を掻きながら言った。


「すまんな、私はちょっとズルをしたんだ」


「ズル?ですの?」


「ああ、この木剣を魔法武具だと思っていたね?」


「はい、でもその木剣は2本共、そうではありませんでした」


「”魔法武具”は魔法で様々な”効果”を付与したものであるのは知っているね?」


「はい、魔術師が高価な触媒と時間をかけ付与していくと聞きました」


「じゃぁ、只の木剣で、魔法武具を折れたのは何故だと思う?」


「技量……でもそれだけじゃ、弾き飛ばす事はあっても折るなんて……」


お母様が、悩む私を見て何故か楽しそうな顔をしている。


「そうだなぁ……ヒトミが魔法武具の長剣(ロングソード)を持っていたとしよう」


「は、はい」


お母様は、こういった言い回しが好きだ。私もまんざらではなく、真剣に考える。


「今日の冒険は、狭い通路のダンジョンだが、その魔法武具は装備していくかい?」


「ええと、いくら優れた武器でも、狭いと長剣の長さを生かせないので、別の武器を装備しますわ」


「そうだね、そのダンジョンにはさっきの長剣に付与された魔法が必要だとしたら?」


「ええ?そ、それは、やっぱり持って行って……でもそれじゃかさばって、うーん!」


私は腕を組み、目を閉じて真剣に考える。


「あはは、ヒトミ、もっと楽に、欲張って考えてごらん?どうなったらいいと思う?」


「そ、それは、その場の状況に合わせて、付与された魔法が変えられれば……」


お母様が、満面の笑みを浮かべた。え?正解なんですの?


「ヒトミ、お前の適正は何だったかな?」


「え、魔法剣士……です」


お母様と同じ魔法剣士だ、お母様は3つのクラスを使いこなせると聞いているが、屋敷の肖像画にもなっている白銀の鎧姿と携えた銀色の剣は私の憧れだ。


「お前の中では、魔法剣士はどうやって戦うんだい?」


「えっと、剣で斬りつけ、魔法で遠方の敵を攻撃でしょうか?」


「くっくっく、ホントに、ヒトミは昔の私にそっくりだな」


「え?昔のお母様と?」


「ああ、私もね?今のお前と同じ考えだったよ、師匠に会うまではね」


「お母様の師匠……」


想像がつかない、お母様の上を行く存在なんて……。


「よし、ヒトミにもその時の光景を見せてあげよう!」


お母様は立ち上がり、少し離れた木の方を向く。


「この只の木剣で、この場所から遠くの敵を倒せると思うかい?」


「そんなの無理に……え?」


お母様が木剣を構え、詠唱を唱えると……木剣に木の葉が引き寄せられ、木剣を中心に回っている?


「せい!」


”シュパァァァァン!”


「え?……」


お母様が木剣を振るうと、離れた木の枝が斬り落とされた。木剣から放たれた何かが、木の葉を巻き込みながら進んで行ったのが見えた。


「風の魔法……」


私は開いた口が塞がらなかった……お母様は魔法を木剣に纏わせ。打ち出したのだ。


「これが答えだよ、ヒトミ」


「その場に応じて、魔法を付与する……凄いですわ!」


「な?欲張りでびっくりしただろ?」


「欲張りなのは結構ですが、ヒトミお嬢様に見せる為だけに私の剣を折ったのですか?」


メイド長が、折られた自分の剣をプラプラさせながらジト目で見ている。


「あちゃぁ、悪いニナ!母親として良いトコ見せたかったんだよ!」


お母様がメイド長に頭を下げて謝っている。


「私もあんな風になれるのかな……」


魔法剣士は、”優れた剣と魔法があれば良い”という考えは既になくなっていた。


………


……


…


私が5歳になった頃、お母様が自分の愛用の剣を見せてくれた。


「綺麗……美しいですわ!お母様、この剣も魔法武具ですの?」


「正確には違うかな?”魔導武具”かな?」


「も……持ってみてもいいですか?」


好奇心が抑えきれずに、お母様を見上げる。


「気難しい奴だからな……」


「気難しい?」


「いや、こっちの話だ……大丈夫だ、何せ、気品溢れる高貴な剣だからな、そっと持つんだぞ?」


「は、はい」


「軽い、それに、力が湧いてくるようです!」


剣を手に、構えると何か自分が強くなった気がする。それに、感覚が研ぎ澄まされ、屋敷の外を飛ぶ鳥の羽ばたきさえも感じ取れるような感覚だ。


「あ?……え、今のは?」


気が付くと、剣はお母様に取り上げられ、専用のケースに仕舞われていた。


「どうした、ぼーっとして?」


お母様の武具は、普段専用のケースなどに仕舞われており、普段見ることが出来ない。

お母様にとっても、ランセル家にとっても大切なものらしい。


「ヒトミにはまだ早いかな?」


魔法の剣を手にした時の高揚感、やはり良いモノだ、いつかは私の愛用になる剣もこうであってほしい。


………


……


…


私が6歳になる頃、お母様のお腹に新しい命が宿っていた。


「済まないねヒトミ、今日から剣の稽古は暫く出来そうもないよ……」


自分のお腹に視線を移した後、申し訳なさそうに私の頭を撫でるお母様。


「仕方ありませんわ、鍛錬は独りでもできますし……」


平静を装ったつもりだったが、拗ねているのはバレていた様だ。私は”欲張りな魔法剣士”になるための鍛錬を行ってきた。剣技と魔法のバランスも大切なので、基礎を固めようやく次の段階へ移れるはずだったのだ。


「ニナ、アレを頼む」


「こちらに……」


お母様が、メイド長から白い布で包まれた長い何かを受け取り、それを私の手に握らせた。


「お母様、これは?」


「少し遅くなったね、誕生日プレゼントだ、開けてごらん」


「そ、そんなに気を遣わなくても……でも、せっかくお母様がプレゼントして下さるのですから、あり難く頂きますわ」


白い布を外すと、細長い木の箱が出てきた。


”カパ……”


読めない文字で書かれた封印の紙を剥がし、蓋を開けると……。


「これは……剣、しかも魔法の剣ですの?」


箱の中には、お母様の剣と良く似た装飾が施された細身の剣が鞘と共に収められていた。


「え!えええ!こ、こ、ここれを、私にひぃ!」


興奮して噛んでしまう位、私は舞い上がっていた。


「あっはっは、気に入ってくれたようだね?」


コクコクコクコク……。私は鼻息も荒く首を縦に振りまくっていた。


「ヒトミお嬢様、予想以上の反応ですね……」


「ああ、私もちょっと驚いた……良かったよ、こういう所は普通の子供で」


お母様とメイド長が話してる事よりも、自分の手にある確かな存在感に意識が行っていた。


「誕生日と、暫く鍛錬に付き合えないお詫びも兼ねて、前々から私の師匠に頼んでおいたんだ」


「お母様の師匠様に?」


「来月お伺いする所でしたのに、奥様が大急ぎで”急かして来い”というから二度手間になりました」


「ああ、それは悪いと思ってるよ、師匠(センセイ)は急かさないと忘れてそうだったんでね」


「まぁ、確かに、出来るまでの間の”ご奉仕”を条件に突貫で仕上げて戴きましたが……ふぅ」


メイド長を暫く見ないと思ったら、この剣を催促しに行っていたらしい。”ご奉仕”とやらが大変だったのか、何故か苦い顔をしていた。


「で、でも、私の年齢で魔法武具の所持は……」


一般的に、魔法効果が施された武具は、10歳以下だと危険である為に所持が禁じられている。

魔法を教える施設とかであれば、申請して許可が下りれば所持が認められることもあると聞く。


「ふふん、ヒトミ、私がそんなことを見落とすと思っているのかい?」


「え?」


「それは、”魔法を付与された剣”ではないんだよ、つまり今はまだ只の剣に過ぎない」


「はい?」


手に持った感触と高揚感は紛れもなく”普通の剣”ではなかった……筈なのに。


「剣を抜いて振ってごらん?」


「はい、分かりました」


”キン、スラァァァ”


鞘から抜いた刀身は、金属というよりもまるで氷の様に綺麗だった。


「これが、只の剣だというんですの?」


”フォン!”


「あれ?」


軽く振ってみる……何かバランスがおかしい?


「何ですの?重心が、ちょっとおかしい感じがしますわ!」


「そうなんだ、普通の剣と違って、重心とかバランスとかは”一切考えられてない”んだよ」


「え?えええええ!!」


そ、そんな、憧れの”魔法武具”最高のタイミングで頂けたと思ったら……私はからかわれているのか?


「その剣はな、ヒトミ、お前が育てていくんだよ」


「はいぃぃ?」


剣を育てる?お母様は一体何を言っているんだろう?







連休中に書き溜めたいけど、そう上手くはいかない人生かな……がふ。

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