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第28話「母の温もりと消えた剣」その1

第28話「母の温もりと消えた剣」その1



”ズシュン!、シュバ!、ビシュ!”


上段から斬り下ろし、返す刀で斬り上げ、すかさず踏み込んで突く!私の3連撃がいとも容易く躱された。


”シュババ!、ビシュ!”


左右にフェイントを仕掛け、喉元を狙った突きも難なく躱された。


”シュバ!……”


ふざけた態度で話しかけて来た所を、首を落とすつもりで薙ぐ!まるで予見したかのように躱される。


「はぁっ……はぁっ……」


焦っている?この私が?学園ではトップクラスの魔法剣士であるこの私が……まるで子供扱いだ。

タオル一枚巻いただけの、裸同然の紅い髪の女に、武器すら持っていないこんな奴に!


「どうして?私の剣が届かない……何故だ!」


悔しさでどうにかなりそうだ、何なんだこいつは!ジーナを吹き飛ばしたと思われる攻撃どころか、構えさえ取っていない。


紅い奴が何やら呟き、初めて構えらしい構えをとる……。いいだろう、ならば受けてみるがいい!


正眼に構え、今持てる全力の踏み込みで、相手を縦に両断する勢いで斬り込む!


”ガシ!”


な? 紅い奴は正面から微動だにせず、私の手首を掴んで斬撃を止めた……。

そのまま手を引かれ、つんのめった私の腹に手を当てた瞬間、激しい衝撃と共に私は宙を舞っていた……。


「がふ!?うぁぁぁ!!!」


投げ飛ばされたなんてものじゃない、10mは上に吹き飛ばされている?

紅い奴は、こちらに向かって光る何かを放った!


”バシィィィィン!”


「ぎゃぅ!」


”バシィィィィン!”


「ぎう!」


”バシィィィィン!”


「がは!」


光る球が私に当てられる度に、私の身体は枯葉のように宙を舞い、鞭を打たれる罪人の様に体が跳ねる。


気を失うことも出来ず、私の身体は得体の知れない衝撃に蹂躙され、やがて泥濘に沈んだ。


「ヒト……しっかり……!」


誰かが私の名前を呼んだ気がした……誰だろう?誰の……。うっすらと開ける視界に、心配そうにするディアシーの顔が映る。馬鹿、何でここに来た、まだ動いては……。


「う……ディアシーか? 逃げろ……赤い変態女が、ジーナを辱め……私でさえ一矢報いることも……う!くぅ、かふ……」


私の意識は泥に沈む様に落ちて行った……深く……。


………


……


…


「ヒト……ろ……!」


誰なんだ?私を呼ぶのは……。


「ヒトミ!しっかりしろ、ヒトミ!」


え?この声は……。


「お母……様?」


うっすらと目を開けると、心配そうな顔で、私の顔を覗き込むお母様がいた。


「あれ?私?どうしたんですの?」


何か頭がはっきりしない?ここは?


「いやぁ、済まなかった!中々キレのいい攻撃だったのでな、つい力が入ってしまった」


どうやらお母様との剣の稽古中に、無様にも失神していたらしい。お母様の顔を顔を見て安心すると同時に涙が頬を伝う。


「お母ぁ様ぁ……ひっく!えぐ!」


「をいをい、どうしたヒトミ?どこか痛むのか?」


私はお母様の胸に飛び込み、声を上げて泣いた。


「どうした? もう4歳になったのに、ヒトミは泣き虫さんなのかな?」


「ち、違いますわ!……ひっく、泣いてなど……ぐす……」


強がる私を、お母様は優しく抱いてくれていた。


「私の剣が、全然届かないんです!いくら剣を振っても、掠りもしないんです!」


「んん?」


「お母様に、剣のお稽古をつけてもらっているのに!ランセル家長女として頑張っているのに!」


「……そうだな、ヒトミは頑張り屋さんだもんな、悔しいな……」


お母様が優しく私の背中を叩き、私の泣き言を受け止めてくれている。


「本気で斬りつけても、あの、紅い奴が馬鹿にしたように……私を、笑うんです!」


誰の事を言っているのだろう? ただ、紅い髪の女が、私の本気の攻撃をからかう様に躱し続け完膚なきまでに私を叩きのめした。その悔しさと恐怖が、私を責め続けていた。


「悔しいです!情けないです!そして、こんな惨めな自分が許せないんです!」


「あっはっは、そうか、良かったなヒトミ!」


パンパンと私の背中を叩いて、笑いだしたお母様? え?何で?そこ笑う所?


「わ、笑い事じゃありません!何で笑うんです?何が良かったって言うんですか!」


私は憤慨し、お母様の顔を見上げると、お母様は優しく私を見降ろしていた。


”くい、くい”


「え?何?」


誰かが、私の服の裾を引っ張っている?


「おねえちゃ、ばかりずゆい!」


2歳になったばかりの、妹のジーナだ。頬っぺたを膨らませて、私とお母様の間に頭をねじ込んでくる。

離れた所で、ジーナの手を引いていたはずのメイド長が、やれやれといった顔でこっちを見ていた。


「わかった、わかった、今どくからやめないか!」


「ん!」


私は追い出される様に、お母様の懐から離れ、幼い妹は、私から奪い取った場所に満足そうな顔で収まる。


「むふー、おかあしゃまだっこ!」


「はいはい、そら!」


「ほわぁ!たかい!すごい!」


ジーナはそのまま肩車されてご満悦の様だ。ジーナが生まれる前までは、私が独占していた場所は既に妹の場所になっていた。少し寂しく感じるが、私はもう子供じゃない、ランセル家の長女で姉なのだから。


「ヒトミも後で、久しぶりに肩車するかい?」


「ば!馬鹿な事を!わ、私はもう4歳ですのよ?大人なのですよ?いつまでも子供じゃ……」


”ぽふ!”


「そうやって、強がって背伸びしてる内はまだまだ子供だよ?」


お母様が私の頭を撫でながら、優しく諭す。私は顔を赤くしながら俯いた。


「気を悪くしたなら済まないな、それはお前が”最初の壁”にぶつかったって事だよ」


「”最初の壁”ですの?」


「そうだ、人は誰しも必ず”壁”にぶつかり、思い、悩み、苦悩しつつもそれを越えようと努力する」


お母様は、何か懐かしいものを見る様に屋敷の方を見て言った。


「人によってその”壁”は早く来たり、遅く来たり、様々だ。でも”壁”に早い内からぶつかるのはいい事なんだよ?」


「何故ですの?」


「大人になってからだとね、”壁”にぶつかって越えようとする内に厚くなった”壁”に負けて心が折れてしまう事もあるんだ……」


「壁に負けて心が折れる?どういうことですの?」


よく分からないが、何か恐ろしい事だと思った。


「ヒトミ、お前はまだ若いから”壁”に挑む時、悩む時間も、越える為に周りに協力を求める余裕もいっぱいある!だから、早いのはいい事なんだ……いい事なんだよ……」


お母様の頬を、一筋の涙が伝った。なんで、お母様どうして泣くのですか?


「おねえちゃ、おかあしゃまなかしちゃらめ!」


「いいんだよジーナ、ちょっと昔の事を思い出しただけだ」


私が、お母様を泣かしたと思ったジーナがぷりぷり怒っていた。


「私にはね、兄様と姉様がいたんだ、兄様は優しくて真面目で誰からも愛された……」


「私の叔父上……」


そういえば、貴族は家族の繋がりが大事だとは聞いていたが、お母様に兄と姉がいるなど聞いたことが無かった。


「兄様は大人になってから大きな”壁”にぶつかったんだ、それは逃れる事も出来ず、助けを求める時間すらないものだったんだよ」


「逃げることが出来ない……ごくり」


想像もできないが、今私がぶつかっているソレよりも、遥かに恐ろしいという事だけは分かる。


「追い詰められ、悩み苦しんだ兄様の心は折れて、壊れてしまった……自ら命を絶ってしまったんだ」


「そん……な」


「そんな兄様の苦しみを知らずに、当時の私はただ、自由気ままに生きてきた」


お母様は悔しそうだった……。 私はそっと、お母様の手を握った。私の頬にも涙が伝っていた。


「……そうだな、私もこうやって手を伸ばせばよかったんだ……」


お母様は膝を折り、片手で私を抱き締めた。


「ヒトミ、”ランセル家の長女だから”だとか自分を縛らなくてもいい、ヒトミは、ヒトミなんだ、”壁”にぶつかったのなら悩め、無理に越えようとせずに回避する方法もあるかもしれない、それに仲間がいれば、手を差し伸べ共に越えてくれるかもしれない」


お母様は私の顔に頬ずりをする。そうか、これは”後悔”というやつなんだ。叔父上が苦しんでいた時、手を差し伸べられなかった自分への……。


「お母様、私は大丈夫です!”壁”なんて、直ぐに蹴散らして越えて見せますわ!」


「ヒトミ……そうか、そうだな、お前には時間はたっぷりとある、”壁”にぶつかっても諦めるな」


「はい、ランセル家長女、【ヒトミ・ランセル】の名に懸けて!」


「ふふ、そう、肩肘張らなくてもいいんだよ……」


「お母様が何と言おうと、この”誇り”だけはお母様から頂いた、私の【心の剣】ですから!決して折れることはありません!」


お母様が、キョトンとした顔で私を見た?あれ?私何か間違ってた?


「そうか、【心の剣】か……」


「う、ひぐ、うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


いきなりジーナが泣き出した? ああ、私も涙を流していたため、どうやら私とお母様に仲間外れにされたとでも思ったのかな?仕方がない奴だ。


「ほら、泣くなジーナ!」


「うゆぅ……んー……」


私は手を伸ばし、ジーナの頭を撫でる。ジーナはくすぐったそうにし、ようやく泣き止んだ。


「ふふ、長女の貫禄は、既に備わっているようだな?」


「そ、そんなの、当然ですわ!」


お母様は、立ち上がると先程とは違い、晴々とした顔で屋敷の方を見ていた。


「兄様、私はもう大丈夫です。 兄様のおかげで、こんなに心強い【剣】を遺せたのですから……安心して下さい」


まるで目の前に誰かがいるかの様に呟き、頭を下げるお母様。私とジーナもつられる様に頭を下げた。


「え?」


ふと、誰かに頭を撫でられた気がした……気の所為?私の前には誰もおらず、ただ木の葉が舞い散っていった……。


「さて、剣の稽古はもうお終いにするか?さっきからメイド長が怖い顔でこちらを見ているんだが……」


「奥様、ただの”気分転換に外の空気を吸う為の散歩”と伺っていましたが?」


メイド長が淡々と告げる、お母様はメイド長に見えない様に、私に向かって舌を出した。

お母様は忙しいのに、しょっちゅう抜け出しては剣の稽古を付けてくれていた。


「お母様、もう一本お願いいたしますわ!」


私は木剣を構え、お母様に向かって言った。


「だ、そうだ、ニナ?未来のランセル家当主様のお言葉を、無下には出来ないんだが?」


「まったく、メロディアはもう、ほらジーナお譲様をこっちへ……」


主従の関係なのに名前で呼び合う二人、昔は二人でパーティも組んでいた冒険者だったとは知っているが、なんかいいな、こんな関係って思う事もある。べ、別に私に友達がいないからってわけじゃないからね!


「さて、【心の剣】は折れないと宣言していたが、実際に手にする剣はどうかな?」


お母様から離れるのを嫌がるジーナをメイド長に預け、木剣を構えるお母様。


「ふふ、今はこんなみすぼらしい木剣ですが、いずれ最強の剣を手に入れて見せますわ!」


迷いを振り払い、お母様に向かって撃ち込んだ!


”カン!カカン!……カツン!”


「ふむ、良い顔つきになったな、でも……」


”シュカン!……トサ!”


「え?嘘!」


お母様の木剣が横薙ぎに迫り、避けきれないと思った私は木剣で防御したつもりだったが、私の木剣が紙でも斬る様に切断されていた。


「ず、ずるいですわ!その木剣、”魔法武具”ですわね?」


納得がいかない、魔法で強化、または造り出された魔法武具だと勝ち目なんかあるわけない!大人気ないとお母様に文句を言う。


「ふふん、ヒトミは勝負に負けたら”武器の所為です”と相手に言うのかな?」


「そ、そんなこと、でも……」


納得できない悔しさに涙がにじむ。


「メロディア、ホントに大人気ないですね?」


何時の間にか眠ってしまったジーナを抱きながら、メイド長が言った。


「そうかい?私は師匠(センセイ)にボコボコにされながら学んだよ?」


「”あの人”は規格外でしょう?どうせこんな事になるだろうと思いましたよ、はい!」


”ババ!……ブン!”


メイド長が片手でスカートを捲り上げた?何て破廉恥な……晒された白い脚には小剣(ショートソード)が装着されており、そこから剣を外し、お母様に投げて渡した。


「ヒトミ!交換だ」


「ええ?」


お母様は、メイド長から受け取った小剣と、私の持つ半分切れた木剣を交換した。


「え?軽い?」


4歳の私には、金属で出来た剣など重すぎて持てない筈だが、この剣は木剣程度には軽い。


「ほら!」


私から距離を取り、元々使っていた木剣を、お母様が私に向かって投げてきた?


「ええ?やぁ!」


”シュカン!……トサ!トサ!”


「え……?こんなに簡単に?」


咄嗟に木剣を斬りつけたが、さっきのお母様の様に簡単に切断出来た。


「ヒトミお嬢様、その剣には重量軽減、硬質強化、切断強化の魔法が付与された”魔法武具”になります」


メイド長が、困惑する私を納得させるセリフを吐いた。何でこんなものをメイドが?いやそれ以前に。


「これが、”魔法武具”初めて触ってしまった……」


男女関係なく子供も憧れる。”魔法を付与し強化された武器”高揚感で胸が高まるのを感じる。


「ヒトミお嬢様、一応申し上げますが、差し上げませんよ?」


「わ、分かっている!ちょっと珍しくて見入っただけだ!」


そんな物欲しそうな顔をしていただろうか?メイド長のセリフに動揺してしまった。


「さて、これで負けたら、ヒトミは何て言うつもりかな?」


お母様は、悪戯っ子の様な顔でこちらを見る。


「ま、負ける要素がありませんわ!技量はともかく、剣を重ねればこちらが勝つに決まっています!」


「ふぅん?よし、こうしよう!一回打ち合い、剣を手放したら負けというのはどうだ?」


「ええ!?」


剣が良くても技量差で負けるのは仕方がないとはいえ、剣だけの優劣で決めるならば、私の方が圧倒的に有利だ。それなのに何故?


「そんな、勝負にもならない様な……」


そんなの、私のプライドが許すわけない。受けられるわけが……。


「ヒトミが勝ったら、その剣はお前のモノだ!」


「ホントですの!?……おほん、その話は本当ですか?お母様」


「ああ、ニナも承諾しているし、問題ない!」


チラリとメイド長を見ると、ジーナを抱きながら、片手で眉間に手をやっている。

欲物と思わないで欲しい、憧れの魔法武具だぞ?年齢的にも手に入れることなど皆無!これはチャンスだ!


「いいでしょう、受けて立ちますわ!」


私は剣を構えた。”魔法武具を使う”この高揚感、癖になりそうだ、この剣が私の物に……。思わず顔が緩む。


「うんうん、初々しいねぇ……私もそうだったっけ」


「メロディア、分かっているでしょうけど……」


「ああ、出来るだけ”如何にかならない”様に努力はするつもりだとも!」


「はいはい、それでは……」


メイド長がジーナを抱きながら、私とお母様の中間に立ち、そこから数歩下がった位置で片手を挙げる。


「始め!」


メイド長の手が振り下ろされ、私とお母様は同時に地を蹴った!


”ガシィィィィィン!!!”


………


……


…


昨日は執筆中に寝落ちしてしまいました。他の作品も仕上げなきゃなのに迂闊!さらに今日は出かけなければいけない為、少し文字数を増量して上げています。続きは今日中には無理かもです。

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