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マネージャーの下克上宣言!!─うちのアイドルいりませんか!?─  作者: 石田空


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21/21

一期一会 この出会いに感謝を 3

 全ての演目が終わった。

 バラードもあれば、ダンスナンバーもある、ロックもあれば、R&Bもある、いったい【Galaxy】のアルバムの曲ってどれだけのクリエイターが関わっているんだろうと思わざるを得ない内容だった。


「課題が【Galaxy】の曲でライブだったのに……かぶせてきたのが【GOO!!】だけで、残りは見事にばらけたねえ」


 舞台袖からライブを鑑賞していた真咲が言うのに、私は頷いた。


「多分だけれど、これは【サンシャインプロ】が新人オーディションをしたいっていうのと同時に、凱旋ライブと称して、【Galaxy】の存在をひびがくの在校生に固定しておきたかったんだと思うよ」

「なんでまた。うちの学校にわざわざ覚えさせなくっても、元々あそこのユニットは同年代じゃナンバーワンアイドルでしょ」

「うん……ただ、調べた限りじゃ、アイドルの寿命ってものすごく伸びているのと、ものすごく縮まっているのの二極化が進んでいるからじゃないかな」


 大昔はアイドルはどんなに年を食っていても二十代で引退だったけれど、今はそうじゃない。四十代を越えても現役アイドルはいっぱいいるし、なんだったら結婚してもアイドルを続けている例だって、男女アイドル共に存在している。

 でもその一方で、昔よりも使い捨てにされて十代のうちに芸能界を去って行くアイドルだってあとを絶たない。事務所の経営方針だったり、他のユニットを推すために使い捨てにされたり、そんな話は少し調べただけでかなりの量見つかった。

 アイドルの寿命を延ばすとなったら、母校を利用する、敵をつくらず味方を増やす、戦わずに味方に引き入れる……などなどしていくしかない。

 でも。それじゃ新陳代謝はされないから、新陳代謝を活発にするために、今回のオーディションを開催したんじゃないか。

 戦うか、味方になるか。最初から、それを見極めたかったのがこのオーディションじゃないかと思う。

 ……もっとも、これはあくまでオーディションの一次選考だ。ここから二次、最終まで進まなかったら、意味がない。

 しばらく間が空いたあと、審査される皆が舞台に呼ばれる。


「それじゃ、結果聞いてくるね」


 ぶんぶんと柿沼に手を振られ、私の振り返す。林場、桜木も首を縦に振るので、私も頷く。舞台袖からは、ブルルルル……とドラムの音が響いていた。


『大変お待たせしました! それでは、一次選考通過者を発表します!』


 俳優志望者、モデル志望者はこことは別の場所で公開オーディションが行われたはずだけれど、あちらはどうなったんだろう。私はスマホのアプリで一次選考結果を確認しながら思う。

 ……そこそこいたはずなのに、半分落とされている。こちらも半分はふるい落とされるはずだけれど。

 次々のアイドル志望者、歌手志望者の名前が呼ばれる中。


『【GOO!!】』


 ユニット名が高らかに呼ばれ、私は思わず背筋を伸ばした。段上のあいつらもまた、叫んで互いに抱き合っている。

 こちらでもパチパチと琴葉と真咲が手を叩いてくれた。


「おめでとう! 一時は【Galaxy】と曲をかぶせてくるし、大丈夫なのかなって心配してたけど。全然問題なかった! 本当によかった!」

「ありがとう……あいつらにも言ってやって」

「でも、あいつらをマネージメントしてたのは咲子だろ。誇ってもいいよ」

「私は……あいつらがレッスンに集中できるよう、環境を整えただけ。それ以外は、あいつらの実力だよ」

「でも、今回の公開オーディションで、皆あいつらの存在を知った。もうあいつらのことを、ただの二世タレントとそれに率いられたアイドルユニットとして見る奴はいない」


 そうだ。元々はそれが目的だったんだから。あいつらを認めさせる。柿沼を二世タレントとして売らないという、それが。

 今回、【サンシャインプロ】に認められなくっても、他の事務所から声がかかったらいいと、そう思っていたんだから。

 二次選考の課題が発表され、次の選考が一週間後とわかってから、ようやく解散となった。

 私たちはレッスン場に行き、次の課題の話をする。次は学校課題曲以外の曲というものだけれど、これでライブを盛り上げる、次からやってくる外部のお客様たちに名前を覚えてもらうとなったら、なかなか至難の技だ。おまけに次からは【Galaxy】のライブはないのだから、無名アイドルたちだけでライブを盛り上げないといけない。

 順番は抽選になり、【GOO!!】は三番目となった。全十二組の三番目というと、中途半端なんだ。


「まずは、今回は一次選考突破おめでとう。本当だったら今日は解散して、明日からのレッスンに備えて欲しいところなんだけれど、次の課題が発表された以上、その課題について話し合いたいんだけど。……皆、体力は大丈夫?」


【Galaxy】のアイドルオーラは強く濃い。あれを間近で浴びたら体力も気力もガリッガリに削られてしまうんだけれど。柿沼は相変わらず元気だし、林場もポーカーフェイスを崩さない。心配していた桜木も、いつものようにマスクで顔を隠してしまったから、多分いつも通りってことなんだろうけれど。

 全員が頷くので、私は言葉を続ける。


「とりあえず、次の曲だけれど。本当だったら桜木が前につくってくれた曲を使いたいところなんだけれど……あれをそのままライブに使うのは、まずいと思う」

「どうして? ゆうちゃんの曲はいいと思うけれど」

「うん。桜木の曲は間違いなくいいけれど……多分今回の一次選考通過者たちには、【Galaxy】らしさというものを嫌というほど刷り込まれているから、全員が【Galaxy】の曲とは方向性が違うものを選ぶと思う。そうなった場合、バラードに殺到する恐れがあるから、外したいんだ」


【Galaxy】のアルバムは曲調がバラバラで、皆必死に【Galaxy】の色を消そうとしていたけれど、それが返って裏目に出てしまっている。

 自分から選択の幅を狭めてしまっているんだ。でも、【GOO!!】は真っ向から【Galaxy】の本調子の曲と向き合ったおかげで、逆に【Galaxy】から離れようという束縛から逃れている。

 今回のオーディション、本当によくできている。【Galaxy】のプロモーションに、ファン層の拡大。そしてそれらを突破できる新人の確保。正面突破するか、戦いを避けるか。でも全部避けることはできなくて、いずれ【Galaxy】と向き合わないといけない場面が出てくる辺り、一度はぶつからないと駄目ってスタンスなんだ。


「でもそれだったら、どうする気だ? 俺たちは学校の課題曲以外だったら、桜木のつくった曲しか……」

「ゆうPの曲、あれはたしか、どこにも権利譲渡をしていなかったわよね?」


 この間泣く泣く消した桜木の動画アカウントの話を振ると、桜木は少しだけ目を丸く見開いて、頷く。


「どことも契約してなかったから……別に誰が歌っても構わないと……」

「それ。【GOO!!】のライブで歌って大丈夫? 必要なら、権利もろもろの契約処理もするけれど」


 そう私が言うと、桜木は一瞬目をあちこちにさまよわせてから、ようやく頷いた。


「べ、つに……皆が歌ってくれるなら……これで、お金を取ろうとは、思ってないから……」


 本当だったら、桜木にはきちんと権利契約を済ませてお金を取って欲しいとは思う。別に金を稼げるからとかそんなんじゃなくって、価値のあるものにはきちんと対価を支払うべきだって意味なんだけど。でも、本人がその気がないんじゃ、なかなか切り出せないもんな。

 私ができるのは、こいつらをきちんと認めさせて、こいつらの納得する形で事務所と契約を結ぶことなんだから。それ以降のことは、こいつらが考えないと駄目だ。

 そこで、桜木の作曲の曲を皆で全部聞き、踊りと歌を両方見せられるダンスナンバーを選んで、明日からレッスンをはじめる旨を伝えたのだ。


****


「あと二回もライブできるなんて楽しみ!」

「……あのね、まだ二次選考通るかどうかなんてわからないでしょ」


 ライブも終わり、私はマネージメントコースのほうに選考書類を提出に行ったところで、何故か柿沼と一緒に帰る羽目になってしまった。

 他のふたりはどうしたのと聞いたら「みっちゃんは俳優志望の奴と話し込んでる。ゆうちゃんは曲のアレンジのために家に早めに帰った」と言われた。

 納得。未だに俳優の夢を諦めてない林場からしてみれば、今回のオーディションの課題を聞いておくのも勉強のうちなんだろうし、桜木には毎度無茶ぶりをしているから、あっちだっていろいろ調整しておきたいんだろう。

 夕焼けの下、こいつと一緒に帰るというのも、変な気分だけれど。


「ねえ、さっちゃん」

「なに」


 こいつ、ここまで私に気を許してたっけ。私は胡乱げな顔で柿沼を見るけれど、相変わらず柿沼は私に腹の底を読ませてはくれない。


「もし、オレたちがオーディションに合格して、めでたく事務所入りしたら、そのあとどうするの? もう誰ともマネージメント契約結ばない?」

「多分結ばないと思う。残りの時間は資格勉強する。高三に入ったらすぐに就活しないといけないから」

「ふうん……ねえ、さっちゃん」


 柿沼はこちらをからかっているのか、それとも探っているのかちっともわからない。ただ優しい声色で、私の名前を呼ぶのは辞めて欲しい。

 ……私だって鋼の女じゃない。まるで学園ドラマの恋愛シーンみたいな錯覚に陥るから。


「オレは、この先もさっちゃんがマネージャーだといいなあと思ってるけど。だってさ、さっちゃんはオレたちの素養を全部見た上で付き合ってくれるし。オーディションの突破方法も面白いし。多分この先、プロのマネージメントを受けたとしても、なかなか満足できないと思うんだよねえ」

「忙しくなったら、また変わるでしょ。私も毎回毎回、あんたたちに無茶ぶりされて振り回されるのはごめんだから」

「あはは……やっぱりさっちゃんはそうでないとねえ。ねえ、オレが一次選考で言ったこと、覚えてる?」


 ……人にちゅうして欲しいとかなんとか言ってた、あれが頭を掠めた。こいつ、人のことなんだと思ってるのか。そもそもうちの学校、男女交際禁止でしょうが。

 私が憮然としている中、柿沼はひどく優しげで胸をざわつかせるような声を上げた。


「あれ、守ってね」

「……私、あんたひとりを贔屓なんかしないわよ」

「知ってる。それで充分」

「わっけわかんないなあ、あんたも。人のこと探る癖に、自分のこと悟らせないし」

「あはははは……腹芸できないと、芸能界なんて務まらないから。真っ直ぐなみっちゃんや純粋なゆうちゃんが心配なくらい」


 こっちのことからかってんだか、からかってないんだか、はっきりして欲しい。

 私は、「はあ」と吐き捨てて言った。


「あんたたちは、間違いなく【サンシャインプロ】に入るでしょうよ。私はその実績を経歴書に書ける。それで【サンシャインプロ】に入ったら、あんたたちのマネージメントできるときも来るでしょうよ」

「えっ……!」


 声がうるさい。私は目を半眼にして、柿沼を睨んだ。


「ちゅうして欲しかったら、あんたはさっさとナンバーワンになったら? 誰もが認めるようになったら、あんたの横暴さを止められる人間はいなくなるでしょうよ」

「えっ……つまり、さっちゃん。オレ」


 こいつがどう思ってんのか知らないけど、初めてこいつの歌を聞いたときから、私はこいつの才能に惚れ込んでいる。ただ、そこに色恋を持ち込みたくないだけ。

 私のことをからかっているのか、おちょくっているのかは知らないけど、こいつがナンバーワンアイドルになったら、考えてもいいでしょう。何年かかるのかは知らないし、覚えているのかもわからないけど。

 ただ、柿沼は子供みたいにはしゃいでいるのだけは、少しよかった。


 アイドルはあくまで偶像で、芸能界は波乱に満ちていて、いろんな人の計算が錯綜としている。

 それでも何故か夢を見る人たちは後を絶たなくて、私たちもその見えない奔流に踊らされている。ただ流されるだけじゃ面白くない。

 自ら進んで踊るとき、また違うものが見えるんだ。


<了>

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