第禄話 兇暴たる狂乱暴君者
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デウスはガレルを睨み付け、ガレルはデウスを微笑み見つめていた。
「なぁ、お前は死んだ恩人達を生き返らせれたら、どう思う?」
「ーーッ!?…それは、どういうことだ。」
ガレルの急な言葉にデウスは驚きの声の詰まりを上げた。
「その言葉のままだ。この後、お前は俺に勝っても連戦が続くだろう。だが、俺の後に残っている人数はたった五人。それも、魔神王入れて、だ。」
デウスはガレルの真相を探る。
嘘をつくような男には見えない。しかも、古書にはガレルのことは真実の魔神族と書き記されていた。
「…………それは、真実か?」
「…はぁ。全く、お前も知ってるんだろ?俺の二つ名。それに、お前にはその『森羅万象を見透す神邪眼』が有るだろう。」
そう言ってガレルはデウスの右眼を指さした。
「…この右眼はまだ能力をーー」
「嘘だな。」
「………………」
デウスは黙り込んだ。
「俺の前で嘘は付けない。いいか?俺の言ったことは全て真実だ。」
デウスは少し鼻息混じりの溜息をつき、手をポケットに入れた。
「……なら、どうやって生き返らせれる?」
「…最高神はまだ生きてる。」
「なっ!?」
驚きを隠しきれず、デウスは声を荒らげた。
「最高神は魔神王の『最強の相棒』だったんだ。その最高神があんなデスペランドーマみたいな餓鬼に倒されるわけがない。」
最高神と魔神王がパートナーだったとはデウスも知らなかった。いや、魔神族でさえも知らない者もいるはずだ。
「そんなこと、俺に言っていいのか。」
「あぁ。別に構わない。魔神王からの賜りだ。」
趣味の悪い賜り物だとデウスはつくづく思った。
「ま、お前如きに負ける訳にはならないがな。」
ガレルはそう言ってデウスに刀の先を向けた。
「そう言うと思ってた。だから、俺も少し強気で出る。」
デウスは指の骨を鳴らした。
「やる気だな。」
しかし、デウスは武器を作成しない。
その真意さえもガレルは理解していた。
「行くぞ。」
デウスは構えを取った。
実は臥龍冴虎構えには武器の構え以外も存在していた。
それが、臥玄冴麟構えと臥武冴朱構えである。
臥玄冴麟構えは空手道や柔道と言って超近接戦闘用の構えである。
臥武冴朱構えは基本的には遠距離タイプの武器を使用した時の構えである。
デウスは今臥玄冴麟構えをしている。
ガレルはそんなデウスを見て武器を下ろした。
「拳道に武道はなぁ。」
「敵に情けなどかけるな。今お前の目の前にいるのは魔神王の敵だぞ。」
デウスの言葉にガレルは微かに笑った。
「そうだったな。」
ガレルは刀をもう一度デウスに向けた。
「じゃあ、御相手願おうか。デウス・ペンドラゴン。」
「了解だ。ガレル。」
デウスとガレルの顔は真剣な顔だったが、何処か楽しんでいるようだった。
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先手を取ったのはガレルだった。
地面を蹴り、デウスを真っ直ぐに狙う。
デウスはそれを臥玄冴麟構えで迎え撃つ。
刀がデウスの指先に来た直後、ガレルの刀に衝撃が走った。
ガレルは強く右手と左手を弾かれたように横に広げた。
デウスの蹴りだ。
デウスの構えは臥玄冴麟構え。利き手である右手を腰に当て、腰を落とし、左手を広げ、指先を揃える。それを横に向け、薬指と小指を曲げている。
「ふっ!」
デウスは蹴り上げたガレルの両腕に追撃を上げ、左手を拳に変え、殴った。
その途端、ガレルの右腕が血を弾きながら地面に落ちる。
「ーー、殴っただけで、なんて破壊力だ。」
腕がもげるレベル。これはデウスのステータスも入っているが、それに加えての臥玄冴麟構えの構えがより力を発揮させる構えなため、これほどの破壊力が生まれる。
「次は顔だっ!」
デウスは左足で軽く地面を蹴った。軽く飛び上がったデウスは体ごと右足を回し、ガレルの顔に当てた。
しかし、覊惹で防がれる。
「次は俺からだ!」
ガレルは急速再生した右腕を動かし、デウスの腹を殴った。
「ごはっ!」
覊惹で防いだが、ガレルは覊薙禍柔を使える為、威力が桁違いだった。
デウスは後ろに飛び、地面に背中をぶつけ、少し滑る。
「ここからは俺のターンだ。お前にターンを譲る気は無い。」
そう言ってガレルは刀を拾い上げる。
ガレルはデウスに歩み寄る。
デウスは立ち上がり、少し咳き込んだ。
『なんて威力だ。あいつが臥玄冴麟構えを使用出来たらかなりやばい事になりそうだ。』
そう考えながら、近寄ってくるガレルを凝視する。
「悲しいもんだよなぁ。あんな簡単に仲間が死んでよ。」
「ーーッ!?」
挑発と捉えても良い発言がガレルの口から飛んでくる。デウスは少し剣幕を悪くする。
「お前の仲間はかなり強かったのになぁ。いや、弱かったか。」
「……なんだと?」
「気の毒には思う。だが、あくまで俺の敵。さっさと死んでくれて助かったよ。」
「…………」
デウスは少し虚ろになり、黙り込む。
「お前の仲間が死んだ時、お前になんて残したのか。気になるなぁ。」
「………………黙れ。」
「きっと面白いことを言ってたんだろうなぁ。」
「………………それ以上、言うな。」
「そうだなぁ、〈会えてよかった〉なんてベタなことを言ってたんじゃないか?」
「…………ダマレ。」
「希望に満ちていた顔が絶望に変わった時、人は涙する。」
「…………」
「お前の仲間はどんな顔で死んでーー」
「DAMAREEeeeEE!!!!!!」
デウスの狂い上げた声はガレルの感情、笑顔を蝕んだ。
ガレルは一滴の汗を頬に流した。
「……CORosU。」
ガレルの目にはデウスが『羅刹』に見えた。
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『なんだ、今の。今までとは違う。』
ガレルは少しデウスから距離を取った。
確実に殺される。そうガレルの脳裏を駆け巡った。
「……aaAAaaAaa。」
デウスは今特殊スキルである『不制御狂乱暴君者』を発動している。
だが、これはデウスの意思で発動した訳じゃない。ガレルの挑発により、『狂乱』が発動した。
『狂乱』は実際、固定数死んだ後に発動される。しかし、今回は違う。挑発で発動された。
この能力門は一切の制御を妨害する。
一時的なものだが、その並外れた怪物ぶりは新聞にも乗り、魔戒の神と言われるほど。
デウスは右手を上に掲げた。
その時、デウスを赤黒い電が取り巻いた。
闇ではなく、白い影が剣の形を形成していく。
白い影は揺らめき、剣の形を完成させる。白い影によって剣の形は鮮明には分からないが、どこかで見た事のある形だった。
その白い影に赤黒い電が布のように被さり、取り巻いていく。
デウスはそれを掴み、地面に振り下ろした。
雷が地面に落ちたような轟音が鳴り響き、ガレルは耳を塞いだ。
そして、デウスの右手には一本の大剣が姿を現した。
「そ、それは。」
ガレルも見たことがあった。しかし、それを触ったことは一度もない。増してや近づいたことも無い。
「霊裓クレスケンス・ルーナ。」
祖龍であるアルカナムが使用していた大剣。
世界に一本しか存在しない極上の大剣。アルカナムも使いこなすのに二百年以上の時間を費やしたと言われる。
使用することは愚か、作成するのも不可能な次元であると言われている霊裓クレスケンス・ルーナ。
それなのに、今デウスの右手にあるものは紛れもない霊裓。
その霊裓クレスケンス・ルーナは小さく赤黒い電を放つ。
アルカナムが持っていたものとは色が違っていた。
鉄で作られたとしか思えない銀強の色。
しかし、デウスが持つ霊裓クレスケンス・ルーナの色は邪悪なものだ。赤黒い剣身、それを際立てるような青黒い柄。
″霊裓クレスケンス・ルーナ″と言う名前では表せない。仮でつけるとすれば″兇敵ノワ・ルーナ″。
神さえも恐れる武器となった。
「……AAAAaAaaaaaA。」
デウスは兇敵ノワ・ルーナをガレルに向けた。
ガレルは少し怒ったように剣幕を悪化させ、刀を両手で持った。
「馬鹿にするなよ。お前はここで食い止める!」
ガレルは大声で叫び、デウスに突撃した。
デウスはそれを右眼で威圧した。
その途端、ガレルの体が一切合切の動きを見せなくなった。
『ーー息、が、出来、ない。』
ガレルは体どころか、呼吸の一息すらも出来なくなっていた。
デウスはそんなガレルに近づく。
ガレルは恐怖を覚えた。いや、叩き込まれた。
ガレルは目だけでデウスを凝視した。
デウスの左眼は閉じてあり、代わりに右眼が開眼していた。
その右眼からは赫炎のような灯火が揺らめいていた。
『や、やめ、ろ。』
恐怖がガレルの感情を撫で下ろす。
心臓の鼓動が強く波打ち、絶望の色を浮かべた。
デウスはガレルの目の前に着き、兇敵ノワ・ルーナを上に翳した。
「SinE。」
デウスはそう一言残し、兇敵ノワ・ルーナを振り下ろした。
ガレルの体は二つに分かれ、地面に倒れた。
その断面図からガレルの体は崩壊を表し、灰となって地面に崩れ去った。
デウスはその灰を踏み潰し、先に進んだ。
自我はない。ただあるのは目的のままに進む兇悪な意識。
兇敵ノワ・ルーナを地面に擦らせながら奥地へと進んで行った。




