第三十九話 二度目の災禍
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そして、朝が訪れた。
少しウトウトとした騎士もいた。
それを覚ますように頬を強く叩く。
その時、大きな物音とともに地面が揺れた。
まだ朝も早く、少し暗くて前も見ずらいが、それで気づいた。
「災禍の、デスペランドーマの登場だ。」
デウスが呟くと、全員が前方を見た。
「雑魚がうじゃうじゃと。貴様らが群がろうとしても我にはかなわない!」
そう言ってデスペランドーマは腕を振り上げた時、ピタリと止まった。
「久しぶりだな!クソデカ物!」
「貴様は…」
デスペランドーマの体からは煙が吹きでて、体を完全に覆いかぶせた。
そしてその煙の向こうから小さな影が歩いてきた。
「あの時はよくも我の腕を切り飛ばしてくれたな。再生するのに時間がかかったぞ。」
「いっそそのまま戒めとして残しとけばよかったのになぁ。」
「やかましい。弟の分際であれこれ言いおって。」
「兄に反論するのも弟の役目だとは思わねぇか?」
「思わんな。」
その会話を耳にした騎士達が次々とデウスに剣を向けた。
「貴様、敵だったとはな!」
「戯言は後にしな。奴を片付けてからだ。」
デウスが龍鱗とカラドボルグを取り出した。
「カラドボルグか。これを持ってきて正解だったな。」
そう言ってデスペランドーマは腰に携えていた鞘から剣を引き抜いた。
金の鍍金と銀の刃が煌びやかに輝く聖剣。
エクスカリバーだ。
「お前が持ってたのか。丁度いい。仲間の武器にさせてもらう。」
「我を殺せたらな。」
デウスとデスペランドーマは同時に動き出した。
前衛軍や他の騎士は立ち尽くしたまま動かない。
「お前の墓は…」
「貴様の死に場所は…」
「「ここだ!」」
至近距離になった瞬間、両者ともに剣を振った。
衝突した衝撃で地面が抉れ、爆風が吹き荒れた。
デウスはカラドボルグでエクスカリバーを受け、龍鱗でデスペランドーマを攻撃した。
デスペランドーマはエクスカリバーでカラドボルグを押し、右手を覊惹で硬化させ、大剣を防いだ。
「動きが俊敏だな。いっそちっさいままでいればいいんじゃないのか?」
「父上様に踏み潰されそうで怖いからな。それに、威圧も大きい方がしやすいっ!」
デスペランドーマは右手を攻撃する龍鱗を弾き返し、カラドボルグを打ち上げた。
カラドボルグはデウスの手から離れ、上部に回りながら飛んだ。
デスペランドーマはその隙をついてエクスカリバーをそこから振りかざした。
デウスは大剣を即座に左側に向け、エクスカリバーを防いだ。
「やるな。」
「だけじゃねぇぞ。」
降り落ちてきたカラドボルグを左手で掴み、デスペランドーマを切りつけた。
「くっ!」
デスペランドーマは距離を取った。
体を斜めに薄く切ったカラドボルグ。切り傷からは血が滲む。
しかし、その傷は即座に再生した。
「流石は魔神族と言ったところか。」
「貴様も同じだがな。」
デスペランドーマは両手でエクスカリバーを持ち、ランスロットのような構えをした。
「やばい!」
デウスは焦り、後ろを向いた。
「全力で街を守れ!俺一人じゃ受け切れない!」
それに応えたのはデア達だった。
「仕方ないわね。」
デア達は武器を構えた。
「これは流石に貴様一人では受け切れまい!」
そう言ってエクスカリバーを天高々と上げた。
「喰らえ!」
「来るぞ!」
デウスとデスペランドーマの声でデア達は受けの構えを取った。
「天地を統べり、正義を断て!『絶対的勝利』!」
デスペランドーマはそう唱え、地面を蹴飛ばし、デウスに急接近した。
「はあああああ!」
エクスカリバーをデウスに振り下ろした。
デウスは大剣とカラドボルグを交差にして、エクスカリバーを防いだ。
エクスカリバーの力のあまり、風が斬撃と化し、デア達に近づく。
「やああああ!」
デアが斬撃を防ぐが、押す力が強く、後ろに押される。
「「おらあああああ!」」
フローレ達も、騎士達も加勢し、斬撃を止めた。
そして、デアは後ろを振り返った。
足が少し門に当たるところだった。
「止めた…だと…」
「俺の仲間達をなめるなよ!」
デウスはエクスカリバーを弾き、構えた。
「二刀流、百閃連舞!」
二つの剣はデスペランドーマを攻撃した。
デスペランドーマは大剣を防いだが、カラドボルグが命中し、体を貫いた。
衝撃で後方に吹き飛ばされた。
「ぐはっ!」
地面を滑り、うつ伏せで止まる。
「どうした?もう終わりか?」
デウスが大剣をデスペランドーマに向けた。
デスペランドーマは手を地面につけ、体を押すように立ち上がる。
「なめるなよっ。」
デスペランドーマはエクスカリバーを硬化させた。覊蝕だ。
「殺す。」
そう一言言い放った途端、デスペランドーマの姿が消えた。
デウスは警戒し、構えた。
「こっちだ。」
後ろから声が聞こえ、大剣を先に後ろに向け、その後後ろを向いた。
大きな音とともに大剣とエクスカリバーが衝突し、大剣が砕けた。
「なっ!」
「次はどうだ?」
先程とは威勢も力も速度も違う。まるで別物のようだ。
デスペランドーマはエクスカリバーを突き出すように突き立てた。
デウスは焦り、カラドボルグで防ぐ。
だが、エクスカリバーとカラドボルグは当たることがなく、デスペランドーマの姿は消えた。
デウスは警戒し、辺りを見渡す。しかし、姿を捉えることが出来ない。
「がはっ!」
デウスは背中からエクスカリバーで腹を貫かれた。
「このまま死ね。」
デスペランドーマはエクスカリバーを捻り、傷口を広げた。
「があああ!」
デウスに激痛が走る。
『相棒!』
「デウス!」
闇とデアが同時に言葉を発した。
「悪いが、これを抜いてもらう。」
デウスはカラドボルグを右手に持ち替えた。
「一刀流、後重撃。」
血を吐くのを堪え、デウスは後方を十回攻撃した。
「くっ。」
デスペランドーマは攻撃に反応し、エクスカリバーを抜き取って距離を取った。
デウスの攻撃はデスペランドーマに一撃も当たらなかった。
デウスは腹部を抑え、崩れ落ちるように膝をついた。
「そろそろ殺し時だな。」
デスペランドーマはエクスカリバーをもう一度構えた。
今のデウスの状態で『絶対的勝利』をされたらデウスは確実に命を落とす。
しかし、痛みのせいで体が動かない。
「傷の治りが、遅い。」
エクスカリバーの力である『聖御』が原因だろう。
「終わりだ!」
デスペランドーマは地面を蹴り、デウスに急接近した。
デア達はデウスを助けようと走り出すが、明らかな距離で届かない。
バグラが矢を放っても、ビングルが銃を発砲してもデスペランドーマは怯むことなくデウスに急接近した。
「『絶対的勝利』!」
絶体絶命のピンチだった。
デウスは立ち上がることも、剣を振ることさえ出来ない。
振り下ろされたエクスカリバーは真っ直ぐとデウスに近づいた。
これまでかとデウスは目を閉じた。
その時だった。
「ここでくたばるのか?」
そう言われた気がして目を開けた。
剣と剣が弾ける音が響いた。
「立て、デウス。」
デウスは顔を上げた。
デウスの目に映ったのは懐かしい背中だった。
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デスペランドーマのエクスカリバーを弾き返し、攻撃方向を変更させた剣士。
デウスもデアも、フローレとイリビードも見覚えのある人物だった。
「貴様は、アルサー。」
「久しぶりだな。ドーマ。」
デウスの元に現れたのはアルサーだった。
何故か知り合いのように名を呼ぶアルサー。
「デウス、これを飲め。」
アルサーはデウスにポーションを渡した。
紅い血のようなポーションだ。
デウスはそれを躊躇無く飲み干した。
すると、傷が瞬時に癒え、立ち上がることが出来た。
「もう用は済んだ。」
そう言ってアルサーは歩き出した。
「フローレ!これ返しておく!」
そう言ってアルサーは何かを放り投げた。
フローレは慌てて取った。
重たい物を投げられた。
「これは″終焉叛逆″。」
「返し忘れていたからな。俺はこれでさらばにする。」
突如、アルサーが風の如く何処かへと消えた。
「あれは、一体。」
疑問に思うデウスにデスペランドーマは攻撃を仕掛けた。
「何ボーッとしてんだ!」
縦に振り下ろされたエクスカリバーを躱し、デウスはカラドボルグでデスペランドーマの腹部を突き刺した。
「がっ!」
「はああ!」
デウスはデスペランドーマを蹴飛ばした。
後ろに吹き飛んだが、デスペランドーマは地面に足を付け、横転を免れる。
「くそっ!」
「次で決めてやる。」
デスペランドーマはエクスカリバーをもう一度構えた。
デウスは普通に立ち、構えない。
カラドボルグを鞘に収め、鞘を抜き出した。
「これで終わらせる!」
「一刀流聖魔剣奥義。」
デウスは目を瞑り、左足を後ろに下げ、腰を落とし、体を少し前に倒す。左手で鞘を持ち、右手でカラドボルグの柄を掴む。
「『絶対的勝利』!」
「『神炎一刀堕螫』!」
耳鳴りのような音が響き、デウスを通り過ぎたデスペランドーマ。
デウスの体勢は変わっていた。
普通に立ち、鞘にギリギリ収まっていないカラドボルグを音を立てて鞘に収めた。
デスペランドーマの肩から脇に掛けて亀裂が入り、そこから発火した。
「我の負けだ。」
「俺の勝ちだ。」
二人が同時にそう吐き捨てた。
デスペランドーマは鞘を取り、エクスカリバーを収め、デウスに投げ渡した。
デウスは右手でそれを受け取った。
「貴様なら、いや、デウスなら父上様を倒せる。我は父上様を倒す機会を伺っていた。遂に好機が到来した。後は任せたぞ。我が弟よ。」
その一言を残してデスペランドーマは灰と化して風に飛ばされた。
デウス達の勝利である。




