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八十四話

 次に入った店は、普通の人の普通の店だった。

 

「良かった。凄く良かった」


 床に倒れ込み、涙を流す武刀。

 それを見て、少し引くジブ。

 泣く武刀に同情して声を掛けるストリア。

 

「いっらしゃっうわ!」


 泣いてる客を見て、店主は驚いて声を上げた。

 

「あの、大丈夫ですか?」


 泣く武刀を心配して店主が声を掛けると、武刀は立ち上がる。

 

「すみません。大丈夫です、ちょっと嬉し泣きで」


「嬉し泣き? ああ、ここ辺りの店は変な者しかないですからね」


 武刀の一言で店主は察したのか、ストリアと同じように同情した。

 店主の言葉で、変な人間が何人もいることを知った。

 

「それで、何が欲しいんですか?」


「盾。両手持ちの武器を振るう際に邪魔にならない程度の大きさが欲しいです。あと、燃えにくい布もあれば」


「盾、か。ならバックラーとかならどうだ。小さくて武器を使うのに邪魔しない。それと、燃えにくい布は高価ですよ」


 武刀の要望で持って来たのは、丸い形をした銀色の小型の盾だった。

 盾は片手で掴んで使うものだが、店主が持って来たものはベルトで腕に拘束する物だった。

 

 これならば、腕に着けるだけで済むし邪魔にならない。

 

「それにします。いくらですか?」


「そうですね。銀貨十五枚、といった所ですね」


「十五枚……」


 武刀が金の入った麻袋を取り出し、中身を見る。

 そこから銀貨十枚相当の金を取り出して払う。

 

 アルフィーからお金の勉強を受けていて良かった、とこの時武刀は思った。

 

 金を払い、バックラーを受け取った。

 その結果、麻袋の重さが半分ほど減った。


「うっわ。これじゃ布買えね」


 この麻袋には武刀とストリアの合わせた代金が含まれている。

 全ての金を使えば買えるかもしれない。

 しかし、それはストリアには申し訳ない。

 

「布はどうしますか?」


 武刀の言葉を聞き、店主は布を購入するか尋ねる。

 

「やめときます。次にまたお金を貯めてから買いに行きます。ついでに剣も」


「分かりました。またのお越しください」


 店主の言葉を背に受け、武刀とジブは外に出た。

 

「さあて、何も買えなくなったぞ!」


 外に出て開口一番に武刀は言う。

 お金が余れば何かプレゼントでも買おうか、と考えていたがそれができなくなってしまった。

 

 買うことで何か、ストリアの気持ちが変わればいい、と思っていた。

 

 空を見上げれば、まだ明るい。

 腹の具合は小腹がすく程度。

 

 今の時間は昼の少し前、といった所か。

 しかし、ジブは朝飯を食べたあとにまた食べていた。

 なら今の内に昼ご飯を食べたほうがいいだろう。

 

 そう考えた武刀は、ジブに声をかけた。

 

「ジブ! 飯を食いに……」


 しかし、そこにはジブの面影一つなかった。

 

「どこ行った?」


「あそこ」


 ストリアがジブの居場所を指差した。

 服の中にいるストリアだが、その中で指をさせば武刀にも感触で分かる。

 

 ストリアが指差した場所には、ストリアがいた。

 串刺しを持って。

 

 あの娘はなんて動きが早いんでしょう。

 

 武刀は感心する。

 彼女は肉を突き刺した串刺しを持っている。

 指と指の間に挟み、右手で四本。左手に四本。

 フル装備だ。

 

 その内の右手の親指側の串には、既になくなって食べた終えた後だ。

 

 武刀がジブに近付くと、彼女は気づいて左手で大きく手を振る。

 左手には串刺しフル装備があり、飛んで行かないか武刀はハラハラしていた。

 

「いつから大食いキャラになったんだ?」


「キャラ? というのは分からないけど腹が減って仕方ないの」


「まあ、見た目は人だけど、ねー」


 元はドラゴン、なら一杯食べるのも仕方がないのかもしれない。

 フェンもかなり食べる。食い散らかす。色んな意味で。

 

「ほら、これ」


 武刀が考えていると、ジブが左手を差し出した。

 

「一本。食べていいよ」


「ああ、ありがとう」


 小指側の串刺しをもらい、食べる。

 かぶりつくと、肉にかけてあるタレが絶妙で非常に美味しい。

 

「旨い」


「だろ!」


 武刀の言葉を聞き、ジブは嬉しそうな顔をした。

 その笑顔を見た武刀は思う。こういった日常もいいものだな。

 

 長らく非日常にいた武刀にとって、それは心を潤すものであった。

 

 

 

 

 

 早めの昼食を終えた武刀達は、帰路についていた。

 今回の戦利品は小型の盾、バックラー一つのみ。

 

 それはあまりにも少ない物だが、色んな意味で良い経験になった。

 そう、色んな意味で。

 

 そんな時だ。

 武刀は並ぶ露店を物珍しく眺めながら帰っていると、アクセサリーを見つけた。

 指輪、腕輪、ネックレス、色んな物が並んでいる。

 

 武刀はそれに興味を持ち、しゃがむ。

 

「いらっしゃい」


露天商の声が聞こえた。

 その声は左の耳から右の耳に通り過ぎ、頭の中には残らなかった。

 色んなアクセサリーを眺めながら、一番安いネックレスを見る。

 

 白く小さな宝石のような石が嵌められたネックレスだ。

 それは他のアクセサリーと比べると、綺麗ではなかった。

 しかし、今の手持ちで買えるものはこれしかなかった。

 それも、ストリアのお金を使って。

 

「すまん、ストリア。お金借りるけどいい?」


 お金を借りることに申し訳なく思いながら尋ねると、

 

「いいよ」


 ストリアは嬉しそうに答えた。

 それが武刀の心を傷つける。

 

「これください」


 露天商にネックレスを見せ、金を払う。

 

「まいどー」


 買ったネックレスを懐に仕舞って、再び帰路に着く。

 

「それ、どうするの?」


 今まで後ろで眺めていたジブは、気になって尋ねた。

 

「ん? ナイショ」


 知りたそうにしているジブに対し、武刀は敢えて教えなかった。

 教えないでいると、ジブが口先を尖らせた。

 

 宿に到着して中に入ると、食堂ではアルフィーが一人で食事をしていた。

 アルフィーが食事していることに気づいて、二人はアルフィーのいる場所に近付く。

 

「ん? 来たか、早いな。お昼は?」


「食べたよ。そっちの袋の増量はどんな感じ?」


 武刀は椅子に座りながら喋る。

 隣座ったジブは、食事を頼んでいる。

 それはこの食堂が作る物で一番量のある物だ。

 

「順調。そっちはどう?」


「こっちもまあ。金がなくてあまり買えないのが残念だけどね。俺、ちょっと用事があるから先に行くぞ」


 椅子を引いて武刀は立ち上がる。


「ああ、先に行っててくれ」


 アルフィーはゆっくり食べながら答えた。

 ジブは運ばれて来た食事に夢中で、こちらに気づいていない。

 

 武刀は部屋に戻ってすぐに、

 

「ストリア。すまないが身体からでてくれないか?」


 離れるように言った。

 

「うん」


 それに対してストリアは言われてすぐに行動した。


 ストリアは人の形をしているが人ではない。

 そのため、外に出るには人の身体に纏わりつく必要がある。 

 しかしそれは外に出るためだけであって、人目のない室内ではそんなことはしない。

 

 ストリアは武刀から離れる時、何も思わなかった。

 何故なら、いつものことだからだ。

 

 ストリアが離れ、武刀は左腕に装着しているバックラーを外して床に置き、懐からネックレスと変化の短剣を取り出す。

 取り出した二つ、ネックレスに短剣を突き刺した。

 すると、ぐにゃりと粘土をこねるように形は変わって戻る。

 

 しかし、それはさっきとは輝きも透明度も明らかに違う。

 今の方が断然に綺麗だ。

 

 そのアクセサリーを手に、ストリアに向き直る。

 

「立ってくれ」


 座ってこちらを物珍しそうに見ていたストリアは、武刀に言われて立った。

 立ったストリアに武刀は近づく。

 

 ストリアよりも背が高い武刀が目の前に立つと、見上げる形になる。

 彼女は見上げると、武刀の顔が徐々に近付いて来る。

 

 それは鼻先が触れるぐらいまで近づき、ぶつかると思ったストリアは目を瞑った。

 しかしぶつかることはなく、首元に何かが乗っかっているのを感じた。

 

 目を開けて胸元を見ると、そこにはネックレスがあった。

 武刀が私のお金を使って買ったネックレスが。

 

「今までありがとな。これはお礼だ。お金の方は溜まり次第あとで必ず返す」


 ストリアは武刀の言葉を聞き、ネックレスを右手で触って転がす。

 それは色んな角度から見ても綺麗で、自分には似合いそうになかった。

 

 それは自分の評価をかなり低くしているからだ。

 その結果、自分の本当の気持ちを押し殺す形となる。

 

「これは──」


「似合わないとかいらないとか言うなよ。これは俺がストリアのためにプレゼントしたものだ」

 

 ストリアの言うであろう言葉を先読みして、武刀は話した。

 それによりストリアは断ることができなくなった。

 

 自分とは大違いに綺麗なアクセサリーを色んな角度から眺め、顔を上げて武刀にお礼を言う。

 

「ありがとう!」


 今まで殺していたストリアの本音が現れたように、武刀は感じた。

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