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四十六話

「ん」


 窓から日が漏れ、アルフィーは目を覚ました。

 目を擦り、眠気を覚ました。

 起き上がると、毛布が周りからなくなっていた。

 

 横にいるジブを見た。

 毛布は全てジブに奪われている。

 そのジブは毛布に包まって端のほう、壁際に頭をつけている。

 

「おは……」


 ベッドとは反対側にいる武刀に挨拶をしようとした。

 だが、途中で喋るのをやめてしまった。

 なぜなら。

 

「もが、もがが」


 頭全てをスライムに覆われ、自由な手足が必死に暴れている。

 酸素を吸うことができず、苦しんでいた。

 

「ム、ムトウッーーーー!!」


 彼女の叫び声が朝に木霊した。

 

 




「あ゛あ゛~死ぬかど思った……」


 武刀は身体に足りない酸素を吸い込む。

 

「アルフィー、助かった。ありがとう」


「どういたしまして」


 命の恩人であるアルフィーに、武刀は感謝を述べた。

 それとは反対に、

 

「……ごめんなさい」


 武刀を殺しかけたストリアは謝った。

 今はお布団状態ではなく、人の形である。

 

「気にするな。と言っても気にしちゃうだろうしな。寝ていても形を維持できるように頑張ろう」


「うん」


 ストリアは自信なしげに頷く。

 彼女の形が崩れたのは、寝たことが原因だ。

 起きていれば形は崩れることはない。

 しかし、寝たことにより身体を維持し続けることを忘れ、崩れてしまったのだ。

 

「アルフィーはこれからジブの服を買うのか?」


「うん、そう。ただ、当の本人がね……」


 困り顔のアルフィーの目線の先には、眠り続けているジブがいた。

 彼女は毛布に包まり、アルフィーが叫んでも起きなかったのだ。

 

「先にジブの服を買ってきたら?」


「けど、サイズがどうしようもないし」


「裸で買いに行くのか?」


「ストリアが服代わりになるのはどう?」


「その手があったか。ストリアは構わないのか?」


「問題ない」


 ストリアは頷いた。

 その時、ジブが急いで起き上がった。

 

「ん? 朝?」






 全員が目覚めて、一緒に朝食を食べた。

 その際、朝から大声を出さないように注意を受けた。

 精一杯謝り、許してもらった。

 

 アルフィー、ジブ、ストリアはジブの服を買いに行った。

 買いに行くのだから、ついでに服だったり道具だったりを、買ってくるようにお願いした。

 

 そして武刀は、槍に魔術を付与する。

 

 部屋の真ん中で胡坐を掻き、目の前には槍が横に置いてある。

 現在、使う魔術は決めているのは一つ。

 強化魔術。

 

 それは自身の強化、といっても幅が広い。

 力を強くするだけでなく、頑丈にする。

 強化の魔法であれば強くするだけだが、魔術は頑丈にする。

 質も一段階上げる。

 

 全てを強化する、それが強化魔術。

 

 但し、この魔術は基本中の基本。

 もう一つぐらい攻撃の魔術が欲しい所だ。

 

 何にするか。

 現在の武器は一つ。

 槍だけだ。

 もし失えば、素手で戦う羽目になる。

 そんなのは嫌だ。

 

 強化魔術をしたって、剣には斬られる。

 傷口が浅くなるくらいだ。

 それなら一つしかない。

 

 武器を失った場合のことを考えて、転移魔術、これに限る。

 転移魔術。それは遠くに移動したりするのが主流だ。

 

 しかし、武器が離れて手元に欲しい場合に使う魔術が転移魔術だ。

 この魔術を扱う場合、必要なのが魔術回路だ。

 

 その魔術回路にも、特殊な条件がなければ発動できない。

 それは入口と出口だ。

 

 入口がなければそこに行くことができず、出口がなければ帰ることができない。

 それは魔術回路とは別に、必要なことだ。

 

 但し、武器に付与する場合は違う。

 入口が必要はなく、帰る道、出口が必要になる。

 ただし、問題が一つある。

 

 身体にある魔術回路の内、転移魔術の出口が枷で使えないことだ。

 まあ、空きがあるのだからなんとかする。

 それが魔術師というものだ。

 

 扱う魔術は決まった。

 強化と転移。

 

 今日中に終わればいいな。

 

 武刀は望み、作業を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムトウーご飯の時間だぞー」


 買い物を終え、アルフィーが部屋から戻って来た。

 扉をノックし、声を掛けた。

 しかし、反応はなかった。

 

 疑問に思ったアルフィーが扉を開けた。

 見えるのは武刀の背中。

 その両側からは、槍の柄と刃が見えた。

 声を掛けても反応しないということは、聞こえてないのだろう。

 

「アルフィー。先にご飯を食べて来ない?」


 お腹の空いたジブが提案した。


「そうだね。行こうか」


 集中している武刀を無視し、アルフィーは食堂に行った。

 

 

 

 

 

「ふう、やっと終わった」


 槍に魔術を付与し終えた。

 部屋から外を見ると、日が落ち始める所だ。

 

「もう夜なのか。何日経った? 二日か、いや、魔術は二つだから一日で済むか」


 何も食べず、何も飲まず、ほぼ一日。

 全て魔術付与に時間を掛けてきた。

 それだけ集中していたこともあり、途切れると疲れがドッと押し寄せてくる。

 

 仰向けになり、疲れた身体を癒す。

 天井を見ながら、左手で持っていた槍を掲げる。

 槍の柄には、赤く細い線が無数に引かれている。

 

「浸透するまでどれぐらいかな? まあ、明日までには消えるかな?」


 次に右手の平を見る。

 そこには別の魔術回路が描かれていた。

 武刀が得意とするあみだくじのような魔術回路である。

 

 これは新しく作った転移魔術の出口だ。

 枷が外れても、色々と利用できるように余分な魔術回路が描かれている。

 

 自身の右手を眺めていると、唐突に腹が鳴った。

 気づけば夜。作業を始めたのは朝。

 昼食を完全に抜かしていた。

 

「腹が減ったな。飯を食いに行くか」


 仰向けにしていた身体をひっくり返してうつ伏せになり、起き上がろうした。

 その時、扉のノブが動いた。

 

「ムトウ。ご飯を持って来たぞー」


 アルフィーが扉を開けた。

 その後ろにいるジブが、両手で料理が盛られた器を二つ持っていた。

 

 ジブが持って来た料理を、武刀は食べる。

 食べ散らかす、といってもいい。

 

「こへ、どうひたの?」


「ここの宿屋の奥さんが作ってくれたの。私が作って欲しいって頼んだのよ。それと、食べながら喋らない」


「ふぁい」


 口をモゴモゴと動かしながら喋る。

 少しして、食べ終わった。

 

「ふう、食った食った。もう疲れた。眠い。風呂入りたい」


「ここにはお風呂はないよ。桶に水入れて布で拭くぐらいしか」


 武刀が今の欲望をさらけ出し始めた。

 それをアルフィーが器を片付けながら、冷静に言う。

 

「それと、ここで拭いたりしないでよ」


「ん?」


 武刀の疑問の声が不審に思ったアルフィーが、器から武刀の方に視線を向けた。

 そこには、上半身を脱ごうとしている武刀がいた。

 

 お腹を晒しており、意外と鍛えられていてぼこっ、太っているわけではない。

 

「服を今から脱がないで。器を直して来る

ついでに、桶を持ってくるから」


 アルフィーはそう言い、部屋から出る。

 その姿を見た武刀は、思う。

 

「お母さんみたいだな。お母さんはもういないけど」


 昔のことを思い出し、武刀は呟く。

 

「ねえ武刀。その槍って何?」


 ジブが武刀の真横にある槍に気づき、問いかけた。

 

「これか? これは魔術媒体だよ」


「魔術媒体?」


「武器に魔術が付与された物を、魔術媒体、と言うんだよ」


「僕でも扱えるの?」


 四つん這いとなったジブが槍の元にまで来る。

 

「無理だよ。まずは魔術を理解しないと。今日は遅いし、教えるのは明日にするとしよう」


「はーい」


 ジブが返事してすぐ、扉が開いた。

 いるのは桶を持ったアルフィーだ。

 桶の縁には布があった。

 

「ムトウは部屋から出て。先に私達が身体を拭くから」


「はーい。了解です」


 武刀は何も言わず、即座に従う。

 彼は知っているのだ。

 抵抗しても無駄なのだ、と。

 

 槍を持った武刀は立ち上がり、部屋を出る。

 扉の前で胡坐を掻き、着替えるのを待つ。

「入っていいぞ」


 部屋の中からアルフィーの声が聞こえた。

 言われた通りに部屋に入ると、そこには今日買ったばかりの服を着た三人もいた。

 何故か、ストリアも着ている。

 

 スライムだから、身体が服になるだろうに。

 声出しては言いはしない。

 だって、ストリアもスライムといっても女の子なのだ。

 オシャレもしたいのだろう。

 

 アルフィーは明るめの服に女性らしいスカートではなく、少し短いズボンタイプの服を着ていた。

 

「身体を拭くんだろ? 後ろを向くから早くしろよ」


「出来れば見てほしいな」


「見られたいのか?」


「そうだな~見られたいけど、別の理由なんだよね」


「別の理由?」


「魔術発動するために必要な、魔術回路を見せようと思って」


 その言葉に、アルフィーとジブは反応があった。

 ストリアは理解してないのか、首を傾げている。


「魔術の勉強として、見せようかな。ジブがいることだし、最初から説明しようか」

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