391:竜命金・氷結
「通路でもお構いなしとか、本当に早い所見つけて始末しないと拙いな」
『ブン。本当ですね』
フロア10の通路を進むこと少々。
射程フロアのビームを一回、通路に沿って撃ち込まれ、危うくシールドを剥がされるところだったが、それをどうにか凌いで、俺は次の部屋に辿り着いた。
「さて、レキノーリ液、それに緋炭石と竜命金・氷結のマテリアルタワーだな。竜命金は回数も三回、流石はフロア10と言うべきか」
『ブン。回収しましょう』
「だな」
部屋に敵影はなし。
代わりに回収するべきものが有ったので、俺はレキノーリ液はエンプティポットへ。
二つのマテリアルタワーは素早く打ち砕いて回収していく。
≪特定物質:緋炭石を512個回収しました≫
≪幻想系マテリアル:竜命金・氷結を76個回収しました≫
「これでよし」
『ブン』
とりあえずだ。
これまでの道程で回収して来た緋炭石もたっぷりあるわけだし、この追加でどれほどの長期戦になったとしても、燃料切れによる戦闘不能の心配はないだろう。
また、これまで以上に気軽にヴァンパイアパーツの能力である燃料の消費による再生も使いやすくなるな。
で、問題は竜命金・氷結なのだが……やってみるか。
「『昴』」
俺は次の部屋に向かって移動しつつ、『昴』の持ち手を軽く小突いた上で語り掛ける。
通じている感覚は……まだないな。
まだないが、“まだ”ないのなら言葉を続けるべきだろう。
「今手に入れた竜命金・氷結は、お前が折れたなら使ってもいいぞ」
『トビィ!?』
反応は……あったな。
喜んでいる感じがある。
まあ、ある意味では本来のスペックに戻れるわけだから、喜ばしい事なのは確かか。
それにこれまでの感じからして、『昴』が自己強化に余念がないのも確かだしな。
「だが代わりに今俺の体を構成しているただの竜命金に手を出すのは無しだ」
続けて不満げな気配。
このままだと、折れた時にまとめて持っていかれるな。
『昴』がフレーバーテキストの文面を都合のいいように解釈して、実体化に最低限必要なマテリアルだけで満足しないのは知っているし、間違いない。
「はぁ……。少しは考えろ。お前が折れて、俺の体まで素材に使ったら、結局死に戻り。そうなれば、お前を構成してる素材はよくてミスリルくらいまでは確実に落ちるぞ。下手をすればずっと岩のままだ」
だから、論理的に説得する。
『昴』に論理が通じるのかって?
通じるに決まっている。
でなければ、先日の『第一次選抜試験』に俺は参加できていない。
なので、話は通じるし、論理的な交渉も通じる。
自身にとってどうするのが良いのかを『昴』は理解できるはずなのだ。
「……。まあ、それならいいか」
返答は?
概ね了承。
だが、ヴァンパイアボディとヴァンパイアアームRを燃料消費だけで直せる分程度には持っていくつもり……と言うか、その時が来たら、最低限を残して緋炭石を燃料に変換、その燃料を使ってヴァンパイアパーツを修復、修復出来たらまた直せる分だけ持っていくというループで稼ぐつもりだな、この感じだと。
まあ、『昴』が強力になる分には俺は困らないから構わないか。
後で運営……よりは開発の手によって修正されそうな、バグ染みた挙動ではあるが。
『ブーン。トビィ、良く交渉なんてできますね。『昴』は剣ですよ』
「剣だろうが獣だろうが、真っ当な知性があるなら交渉は出来るだろ。先例もあったわけだしな」
『先例ですか?』
「ん? 『第一次選抜試験』の時は……あー、部署が違うからと言う事にしておこう」
『ブン、ブブ。ブン。そうですね。ティガはサポートAIなので、与えられた情報しか知りません』
「ま、そうだよな」
どうやらティガは『第一次選抜試験』で『昴』相手に行われた交渉らしきものには関わっていなかったようだ。
ま、それならハンネが現実で、俺が寝ている間にこっそりやっていたとかそんな話だろう。
深く気にするような事柄じゃない。
「ーーー……」
「さて、次の部屋だが……少なくとも何かは居るな」
『ブン。何かしらの声は聞こえましたね』
次の部屋が見えてきたところで、俺は通路の角に身を潜め、様子をうかがう。
「……。あーはい、まあ、あのビームの出本と考えれば納得か」
そうして部屋の中に居るのが見えたのは一体の竜。
体全体の大きさやだいたいのディテールは上の方のフロアで戦ったヴァイオレットドラゴンと大して変わらない。
だが、体の各部を見比べれば、明らかにドラゴンとは別種の魔物がそこには居た。
『ブン。スカーレットドレイクですね』
そいつ……スカーレットドレイクの四肢は太く、たくましく、先に生えている爪も大きく、一薙ぎでこちらの事をバラバラに出来そうな気配があった。
体を覆う緋色の甲殻もまるで鎧のようであり、口元から覗く牙は鋭い刃の様にも思える。
背中に翼はないが、代わりに生えている棘は物によっては俺と同じくらいの大きさがあるように見えた。
間違いない。
竜系として括られる強大な魔物だ。
そして、これほどの魔物であれば、あのようなビームも放てるだろうと、俺は自然に納得出来てしまった。
「ーーー……」
「っ!?」
そうして俺が納得し、部屋に居るであろう他の魔物も含めてどう対処するかを考え始めた時だった。
転移エフェクト特有の音が二重になって聞こえる。
一つは俺の横、直ぐ近くから。
もう一つは部屋の中、スカーレットドレイクの口前から。
「考える時間も無しか! やってやらぁ!!」
状況を把握した俺は直ぐに駆け出す。
スカーレットドレイクの口からビームのようなブレスが吐き出されると、その直後に予告線に従ってビームが放たれて俺の背後、通路の角へと着弾。
着弾点を中心に暴風が吹き荒れる。
「ポケットアリーナ起動!」
俺は背中側から来る爆風に乗って、部屋の中へと突入すると、直ぐに鉄製のポケットアリーナを発動。
部屋が封鎖され、赤い炎の灯ったシャンデリアが天井から吊り下げられる。
「グルルル……」
「「ポトポット」」
「「モモモガー……」」
「さて、まずは取り巻きの処理からだな」
俺は部屋の中にスカーレットドレイク一体の他、スカーレットポットが二体、スカーレットモスも二体居る事を確認すると、『赤魔滾り』の効果が発揮されていることを確認した上で駆け出した。




