380:複式収穫機
コンバイン。
正式にはコンバインハーベスターあるいは複式収穫機と呼ばれるらしいそれは、穀物の収穫・脱穀・選別まで一台で同時に行うことが出来る農家の強い味方である。
機能としては、先述の通りで、機体前面にある刈り取り部によって自身前方の農作物を刈り取り、刈り取った作物は後方に送りつつ脱穀と選別をし、必要な部分は自分の内部に貯蔵し、そうでない部分は自身の後方へ撒いて外へ出す。
そして、それらの工程を行いつつ、タイヤやキャタピラで前進していくのである。
俺は詳しくはないので、細かい部分が間違っているかもしれないが、概ねコンバインはそんな機械である。
「ふっざけんなぁあああぁぁぁ!」
では、そんなコンバインにレッドエンジンと言う魔物が組み込まれ、戦闘向けにカスタマイズをされたらどうなるのだろうか?
その結果は今、俺の前で示されようとしている。
「ジュウウゥゥ!?」
俺は殴るために接近していた銃型のレッドアームズを掴むと、俺の方に向かって騒々しい音を立てながら爆走してきているコンバインに向かって投げた。
ほぼ反射的な行動であり、一瞬でも足止めになればと思っての行動でもある。
「ブロロロロォォォ!」
「ーーーーー!?」
「えっぐ……」
『ブブ……』
「タッテェ!」
「ケエエェェン!」
コンバインに突っ込んだ銃型レッドアームズは刈り取り部と言う名の無数の刃によって切り刻まれた。
シールドはものの数瞬で剥がされ、その後もさらに切り刻まれてバラバラにされた挙句、物言わぬ鉄くず……いや、ダマスカス鋼のくずに変えられてバラまかれてしまった。
収穫完了である。
「逃げるぞ!」
『ブン!』
スコ82の仕様として、魔物が持つ遠距離武器は近距離武器よりも一段階下のマテリアルで構成される。
なので、レッドエンジンは赤の魔物らしい金属で作られているのに対して、銃型のレッドアームズは橙の魔物相当の金属で体が出来ていたはずである。
だから、コンバインに巻き込まれた銃型のレッドアームズがほとんど抵抗できずに破壊されること自体は不自然ではない。
問題はそのスピード。
あのスピードでシールドが削り取られるとなると、あのコンバインの刈り取り部は秒間数十ヒットくらいの多段攻撃、それと怯みによる拘束を可能にしていると見てほぼ間違いない。
そんなものに飲まれれば……竜命金製のゴーレムでもただでは済まないと考えるべきだろう。
「タッテェ!!」
「ケエエェェン!!」
「ブロロバイイイィィン!!」
「断る! 誰が待つか!」
よって俺は二重推進で逃げ始めた。
元々、今回のフロア9は時間制限付きマップで、次から次へとレッドドラゴンによるホーミングブレスとレッドゴリラによる戦力投入があると言う極めて危険なフロアである。
そんな中で、元々耐久力がある方なレッドエンジンにコンバインと言う凶悪な攻撃能力が加えられた個体と戦う気などない。
逃げるなと言わんばかりにレッドアームズたちが叫び、レッドエンジンがけたたましい音を立てながら追ってくるが、相手になどしていられないのである。
「っ!?」
と、そんなことを思っている間にも何処かに居るレッドドラゴンが転移エフェクト越しにホーミングブレスを叩き込んできたので、俺は横へ跳んでそれを避ける。
「ブロオォ!」
「あぶなっ!」
そして、突っ込んできたコンバインを大きく跳躍する事で回避。
「シルド!」
「キル!」
「やかましい!!」
飛んだ俺を迎撃するように突っ込んできた剣と盾のレッドアームズは、足裏に出した『昴』を足場として殴り、コンバインのタイヤ部分に向かって飛ばすことで轢かせる。
結果、コンバインはタイヤ部分が損傷を受けて動きが鈍り、レッドアームズたちはダメージを受けた上にコンバインに刺さってもがいている。
倒すには至らなかったが、これで少しは大人しくなるだろう。
「げっ……」
『また来ます! トビィ!』
と思ったところで、コンバインが現れた時並の特大転移エフェクトである。
「ブロロロオオオォォ!」
「本当にクソゴリラだな! ちくしょうがぁ!!」
今度突っ込んできたのは全長が10メートルを超すような大型トラックだった。
威圧的な装飾も含め、正にモンスタートラックと言った見た目である。
俺は咄嗟に横へ跳んでそれを避ける。
「っう!?」
そして俺を轢けなかったトラックは勢いそのままに壁へ衝突して大破、炎上、爆発。
俺は爆風に合わせて転がっていくことで、ダメージと引き換えに距離を稼ぐ。
「エンジン種は面倒くさいことに車部分が壊れても何も問題が無いんだよな……。あいつらはあくまでもエンジンであって、車では無いから」
『ブン。修理が済み次第追ってくると思います』
俺はエレベーターに向かって通路を駆け出す。
そんな俺の背後では、少しずつコンバインとトラックが本来の姿を取り戻していくと共に、コンバインを先頭に通路へと入ってきている。
これ、相手が大破覚悟で突っ込んでくるなら、トラックがコンバインを押す形で突っ込んでくるな、ヤバい。
「チク……」
「あっ……」
『ブ……』
そうして背後に気を取られていたせいだろう。
俺は前方に生じていた小さな転移エフェクトに気づくのが遅れた。
そして、転移エフェクトから俺の目の前に飛び出してきたのは、真っ赤なカラーリングの懐中時計……レッドクロックであり、その蓋はほぼ開きかけていた。
「タク。ストップ!」
「しまっ……」
そうして俺が気付いた一瞬後、レッドクロックの蓋が開き切った瞬間。
俺の体は時間が止まり、凍り付いたかのように動かなくなった。




