379:理不尽なるフロア9
「さて、フロア9だな」
『ブン。フロア9ですね』
第四坑道・ミクヒィカのフロア9。
今回は珍しく色々と明らかになっている。
属性は氷結。
構造は普通の坑道だが、エレベーターが降下している間に見えた限りでは、ダメージを直接与える罠の類はなく、床の一部が凍って滑りやすくなっているようだ。
出現する魔物は赤のランクで、ゴリラ、アームズ、ドラゴン、エンジン、クロック。
つまり、ハプニングの発生以外は確定していると言える。
「これは……来るな」
そんな魔物の組み合わせと床事情を見た瞬間、俺はあのハプニングが来るんだろうなと予測した。
そして、エレベーターが完全にフロア9に着いたところで、俺の予測が正しいことは証明された。
≪落盤事故の発生が予測されました。残り時間は15:00です≫
『来ましたね』
「やっぱりか」
はい、と言うわけで時間制限付きになった。
で、この時点でレッドクロックは実質的な即死攻撃持ちに変わった。
と言うのも、クロック種の使う特殊攻撃は、クロック種から得られる特殊弾からして、決まってしまえば外部から干渉されない限り永続する拘束である。
そんな永続の拘束と時間制限が組み合わさった時、恐らくだが、他の赤の魔物たちは時間切れまで停止状態の俺を放置するだろう。
そんなわけで、実質的な即死攻撃なのだ。
「さて、急ぐか。フロア8の揺り戻しのように、クロック種以外の魔物もヤバいのが確定しているからな」
『ブン。そうですね』
俺はアドオン『昇降機方角把握』に従って移動を開始する。
実のところ、今回のフロア9は本格的にヤバい。
そして、そのヤバいのは直ぐにやってきた。
「っ!?」
不快な……歪むことがないものが歪み、繋がるはずのないものが繋がったような肌感覚。
空間そのものを引き裂くような不協和音。
空間そのものに開いた真っ黒な穴。
それが駆ける俺の前方の空間で生じた。
で、穴の向こうからやってきたのは……。
『トビィ!』
「ブレスか!」
真っ白な氷雪のブレス弾だった。
「うおっと!?」
俺は二重推進で前に向かって駆け、回避する。
直後、背後で爆発音。
見れば、着弾点を中心に見るからに極低温の環境が作り出されていた。
どうやら、通常のブレスと違って、この超遠距離ブレスはグレネードのように着弾点で爆発する性質を持っているようだ。
「あれが理不尽と名高いレッドドラゴンのホーミングブレスか」
『ブン。恐らくはそうだと思います』
今の攻撃を仕掛けてきた魔物の名前はレッドドラゴン。
聞くところによれば、ドラゴン種は赤のランクからフロア全域を対象としたホーミングブレスを吐くようになるらしい。
で、このブレス……と言うよりは、フロア全域を対象とするアクティブな能力持ちは、パッシブ能力でもって、フロアにプレイヤーが居るかだけを感知することが出来るらしい。
なので、そのパッシブで感知して適当に能力を撃ち込み、攻撃を転移させてくるようだ。
「面倒くさいのは、ブレスが来た方向に相手が居るわけじゃないって点なんだよな」
『ブブ。確かに厄介ですね』
なお、フロア攻撃持ちの魔物は本当にプレイヤーが居るかだけを感知しているため、相手の側からは何処へ攻撃を撃ち込んでいるかも分からないそうだ。
検証班曰く、背後で唐突に爆発音の類がして、驚いたフロア攻撃持ちの魔物の姿も確認されているらしい。
「ま、単発なら避けられるから、実のところ脅威度は控えめ……またか」
と、ここで再びの攻撃が転移してくる感覚。
ちなみにこの感覚はどのプレイヤーでも感じ取れるものであるらしい。
恐らくは転移攻撃と言うものがあまりにも理不尽なものであるからこそ、難易度調整でそういう仕様になっているのだろう。
で、そんなことを思いつつ、転移エフェクトの範囲から攻撃が飛び出してきて、着弾位置が確定すると同時に二重推進による回避を行うべく、俺は転移エフェクトをよく見る。
よく見て……。
「ケエエェェン!?」
「は?」
飛び出してきたのが、回転しつつこちらに向かって飛んでくる持ち手が真っ赤な剣だったため、一瞬だが反応が遅れたし、妙な声が出てしまった。
「ケ……キル!」
「っ!?」
『トビィ! レッドアームズです!!』
飛び出てきた剣が突如軌道を変えて一閃。
俺は腕を斬られて、シールドゲージが削られる。
と同時に、転移に伴う感覚がさらに二つ生じる。
「お前らも赤で転移持ちになるのか!?」
「ケエェェン!」
アームズ種は武装そのものが魔物になって宙を飛び回る魔物で、外見ごとに戦闘方法がまるで違う魔物である。
そんなアームズ種が自身を転移出来るようになったのであるなら、逃げるのは悪手。
時間制限がある中でも素早く倒して処理するべき。
そう判断した俺は追撃を仕掛けてきた剣型のレッドアームズを刃の腹を叩いて牽制しつつ、新たに生じた二つのエフェクトを視界に収める。
「タッテェ!?」
「ジュウウウゥゥ!?」
「んんんっ!?」
そうして飛んできたもの……回転しながらこっちに向かってくる赤い盾と赤いアサルトライフルを見て、俺は困惑した。
剣が回転しながら飛んでくるのは分かる。
刃に当たったなら、回転の分だけ破壊力が増すからだ。
盾が水平に回転しながら飛ぶのも分かる。
平たい盾なので、円盤投げの要領で勢いと破壊力を持たせられるし、真っすぐ飛びもするからだ。
だが銃が回転して飛ぶのは訳が分からない。
銃が回転しながら飛んだところで、何のメリットもないからだ。
これではまるで、別の何者かによってレッドアームズたちが投げられてきたかのようである。
そう、投げられて……。
「まさか……」
俺は宙に浮いて果敢に攻めかかってくる剣を弾き、剣への追撃を阻止しようと素早く動く盾を蹴り飛ばし、銃が俺に向かって撃ち込んできた弾丸を避ける。
と同時に脳裏に浮かんだのは、今回のフロア2でパープルパイコーンを投げつけてきたパープルゴリラの姿だった。
「まさか……」
『トビィ! 更なる転移が来ます!!』
ゴリラ種も今回のフロア9には居る。
もしもレッドゴリラがレッドドラゴンのように、ランクアップに伴って順当な強化をされていたら?
自分の近くに居る他の魔物を、俺の下にまで転移投げするぐらいの事は出来るのかもしれない。
「あんのクソゴリラアァァ!」
「ブロロロロロオオオオォォ!!」
『レッドエンジンです! トビィ!!』
そんな俺の想像が正しいことを示すように、特大の転移エフェクトの向こうからやってきた……否、突っ込んできたのは、命を刈り取って肉と魂に選別しますと体と排気音で示しているような……大型コンバインだった。




