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でこぼこな斜面

夕暮れに差し掛かり次第に暗くなっていく森の中を猟師達はものともせず歩いて行く。俺はその後ろをなんとか離されまいと付いていった。

森の斜面を進む難しさに、始めは少々面食らった。坂道を登るのは問題ないが、地面に張り出した無数の木の根、これがいちいち俺の行く手を阻むのだ。足代りの短い茎と葉ではちょっとした段差を越えるだけでも時間を取られてしまう。

こりゃ埒が明かんな、ジャンプでもできれば…

その時に思い付いたのが、ダッシュするときの加速を得るための重心移動を応用出来ないか、という事だった。

後ろから前ではなく下から上へ体内の水を動かすイメージで。身体が軽くなると同時に茎を蹴り出す。

これが思いのほか、

ぴょーーん

上手くいった。

「あはははは」

ぴょーん、ぴょーん

ヒカエル様に通ずるであろう道のりを遮っていた険しい斜面は、もはやただのジャンプ天国と化していた。

ぴょーん、ぴょーん、ぴょーん

「たーのし。」

ぴょーん

「あ、やべ…」

調子に乗ってるうちに目測を誤り茂みの中へと着地してしまう。

ガサササ!

近くにいた一人の猟師がその音に反応し、すぐさま銃を向けてきた。

「魔物か!」

やばい。

「待て、俺だ!撃つな!」

「何やってんだ!」

「す、すまない…靴紐がほどけてしまってな。先に行っててくれないか?」

「おいおい、気を付けてくれよ?山の中でうずくまったりしてたら撃たれたって文句は言えないぜ。」

ぶつぶつ言いながら前方に向き直る猟師。

今のは危なかった。本気でやばかった…

元の世界で実際に猟銃を所持していた友人から聞いたことがある、猟の最中は物音に向かって撃つと。それゆえに猟師同士の連係ミスによる悲惨な誤射事件が後をたたないとか。咄嗟の機転で事なきを得たが、これは本当に気を付けないといけないな…

声を出せる事が幸いした。この大根ボディから発する声は人間の時となんら変わらぬ、おっさん声なのである。

そういえば、種の時から俺が発しているこの声は一体どこから出ているのだろう。当たり前の様に感じていたが、改めて考えるとその原理に興味が湧く。おおよその見当がつかないでもないが、いずれ明らかになっていくかも知れないな。

「ピューイ!」

時折、猟師が鳴らす呼び笛の音が聞こえる。

「ピューオ…」

「ピヨヨヨヨー。」

鳴らし方のバリエーションで会話でもしているのかな。モンスターが潜んでいるかも知れない森を進むにしては、いささか緊張感に欠ける様にも思える。が、これはこれであえてやっているのかも知れない。

周囲に飛び交う笛のやり取りを聞きながら進む内に俺の中の何かが疼いてきた。

ひゅ……

お、出来るかも知れないな。

ひゅるるる……

んー、口笛とはちょっと勝手が違うか?もうちょっとこう、細くて硬い物が細かく擦れ合うイメージだな…

ぴゅ…

きたぞ、これだっ!

「ぴゅぉあいーーん」

出来た!

「誰だ!ふざけてんのは!」

怒られた。

今のは駄目なやつだったらしい…

しかし、大根から発する声で笛の音を再現する事には成功した。ただやってみて判った事だが、猟師達が持っている呼び笛程、遠くに響かせられる大きな音は出せないと思う。せいぜい声真似レベルってところだろうか。それでも中々の再現度だったな。本当どうなってんだろうねこの身体。

自身の可能性を再認識していたまさにその時、とりわけ大きな笛の音が前方から聞こえた。

「ピィー!ピィー!」

二回だ!仲間が見つかったのか?

良かった割りと早かったな、なんて思いながらその場へ向かおうとすると同時に、今度は銃声が鳴り響いた。

パァーーン!

辺りを静寂が包む。他の猟師達は直ぐには近寄って来ないようだ。誤射を警戒してるんだろうな、この場合は。

俺もそれに習っておそるおそる銃声のした方へと近づいていく。

やがて立ったままじっと銃を構えている一人の猟師の姿が見えてきた。その足元には数人が地に付して倒れていた。生きているかどうかはここからでは分からない。

これ以上近づくのは危ないな、そう思い木の陰に隠れて状況を伺う。この辺りは森の中にしてはちらほら草が生えていて若干見通しが悪かった。

猟師は銃を構えたまま動かない、やがて辺りに向けて叫んだ。

「皆、気をつけろ!魔物がいるぞ!変な形の植物みたいな魔物だ!」

へ、それって俺の事?いや、違うだろ俺は形には自信がある!

「次で仕留めてやるぞ、さっさと出てこい!」

そう叫びながら銃を向けている先は俺が隠れているのとは逆方向だ。うん、やっぱり違うよね安心した。

パァーーン!

うお、びっくりした!よく考えたら銃声を近くで聞くのはこれが初めてだからなぁ。

「やったか?」

手応えがあったのか、猟師は弾を込め直しながら構えていた方へと歩いていく。そして立ち止まったかと思うと、

ドサッ

その場に崩れ落ちた。

再び辺りが静寂に包まれる。

ここで一つ言っておくが、今、俺がここでこうしているのは、あくまでヒカエル様にお会いする為だ。一介の作物に過ぎないこの俺が、魔物を退治するだとか、目の前で倒れてる人を助けるだとか、そんな大それた事は思ってはいない。そういう事は武装した猟師達に任せておくべきで、俺のすべき事は彼等の邪魔をしないように気を付けつつ、ヒカエル様が現れるかもしれないこの場に留まり続けるこ事だと、そう考えていた。

だから、俺が危険も顧みずに木の陰から飛び出したのは、ただ単にそこに倒れている人達の生死が気になった、ただそれだけの事なのである。

側まで行くと彼等に息があることは直ぐに判った。皆微かに呻き声をあげている。倒れているのは4人。捜索対象の猟師達で間違いない。

少し安心した。これでこの場に他の猟師達がやって来れば、そのまま負傷者を担いで下山という流れになるだろう。魔物の脅威を退けた後の話だが…

先程発砲した猟師が倒れているのはまた少し離れた位置だ。注意深く観察する、魔物に何かされて倒れたのなら、まだそこに潜んでいる可能性が高い。

植物の様な魔物って言ってたな。ここは森の中だ、植物なんてそこら中に生えているぞ。その手の魔物が潜むには絶好の場所だろ。

「おーい、大丈夫か。魔物はどうなった?」

声と共に落ち葉を踏みしめる足音が近づいてくる。不味いな、このままでは駆けつけた猟師に魔物と誤認されてしまう。

慌てた俺は一目散に声とは反対の方向、もう一人の猟師が倒れている方へと逃げ込んだ。

わささっ

目についた大木の陰に身を潜める。

駆けつけてきた猟師は一人のようだ。4人の負傷者に気付き安否を確かめている。

「う、うう…」

俺が身を隠しているすぐ側にもう一人の猟師の呻き声が聞こえた。この人もまだ生きてはいるようだが…

その口元に泡が見える。

「許さんぞ魔物め!」

4人の無事を確認した猟師が銃を構えながら叫んでいる。今見つかったら確実に撃たれるな。

カサ、カササササ

背後に物音がしたので意識をそちらに向けると、そこには変な形をした草の化け物が蠢いていた。


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