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モモロン  作者: 素元安積
十六・親友
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 目の前に立ちはだかるのは、九つの首を持ったヒュドラと言うドラゴン。それも、祠が大きいだけあって、ドラゴン自体もとても大きい。


「い、行くぞ、親友!!」


 武者震いするアランを、僕は思わず見る。……うむ。どうしても納得がいかない。アランの緊張を解く為にも、僕は首を振った。


「アラン、今言うタイミングじゃないのは重々承知だが、親友は止めてくれないか?」

「はぁ?」


 流石のアランも、僕の言葉にはしかめっ面だった。やはり、このタイミングで言うことでは無かったか。僕は、「いや、何でも無い」と手を振ると、真っ先にヒュドラへと飛び込んでいく。案の定ヒュドラが僕に向かって火を噴きだすので、僕は剣を振りまわし、風圧で炎を強引に消し、更に一歩踏み出して跳躍。が、次々にヒュドラの首が炎を吐き出して僕を襲った。そこへアズキとアランが僕を挟み、アズキが僕を抱えて一旦地に足を付ける。すると、空中に残ったアランが黒装束の中から鎖鎌を取り出し、それを振り回して何とか炎を消し去る。


 アランが戻ってくると、僕の顔をまじまじと見た。


「おい。こんだけ助けてくれる相手が親友じゃないってか?」

「それはあんまりじゃ。確かにアランは頼りないし、足は臭い。でも、一人だけ仲間外れは可哀想じゃないか」

「いや、姫も親友だと思ってないですけど」

「なぬっ!? 何故じゃ、何故なんじゃ!!」

「そもそも親友って言葉が、好きじゃないんです」


 そうなのだ。親友って言葉は、あまりにも分かりやすくて嫌いなんだ。勿論、親友って距離感に誰ともなりたくないと言うのもあるが、親友と言う嘘くさい言葉も嫌いだ。否、本当は親友と言う言葉自体に悪いことは無い。だが、親友と言う言葉で二人、もしくはそれ以上の人々を囲った場合、それらが一生親友でいることは難しい。最悪の場合は、他人以下の酷い関係に陥る場合もある。


 だったら、親友と言うがんじがらめの言葉で縛り付けるより、知人と言う勝手気ままに会える関係の方が良いとは思わないか? なんて言うと、本当に仲の良い友人のいる方には否定されそうだが、僕自身も以前はそう言った関係の人間もいたものだ。そいつは見事に僕を裏切ったがね。


 それらの持論と事情は端折り、僕は好きじゃないの一言で片づける。するとアズキは、「分からなくもないけどね」と言った後、姫を抱えて炎の攻撃を飛んで避けた。僕とアランも炎を剣や鎖鎌で避ける。ギンは、扉の隙間からその様子を見つめていた。


「やっぱり、ゴキゲンを窺う作戦の方が良いと思うのだが」

「ゴキゲンを……?」


 先程の姫とアランの話を聞いていなかったアズキには、何が何だか意味が分からない。なので、代わりに僕が姫とアズキの下へ行き、「無視して良い」とアズキに伝える。


「アズキ、ちょっと降ろしてくれ」

「ええ、どうぞ」


アズキに地上へ降ろしてもらった後、姫は扉の方へと駆け出した。そこで、ギンと何やら話をし始める。何だかんだで仲良いな、アイツら。


 首が九本と言うことで、僕達は三本ずつ首を相手にすることに。やはり、こうなるとアランは必要不可欠だったな。


「アラン、油断するなよ」

「その言葉はそっくりお前に返すぜ」


 僕とアランはニヤリと笑うと、僕は宙から、アランはその首に飛び乗って相手をする。僕の担当する首は、その多い首を利用し、見事に物理と炎の攻撃を使い分けてくる。幾ら鍛えていると言っても、これはキツイな。使いたくは無かったが、こうなれば……。


「トゥルエ」

「やめいやめい!」


 え? 僕、アズキ、アランは思わず下方を見た。そこにいるのは、扉口にいた姫とギンだ。


「皆、一旦後退しろ!!」

「しかし姫……」

「分からぬか? これは、イリス国の姫の命令である!!」


 姫の突然の命令に動揺していた僕は、ヒュドラが迫っていることに気付かなかった。アズキが僕の方を見て、「モモロン、前!」と声を上げたことでそのことに気付いたが、時既に遅し。僕は抵抗出来ずにいたところへのことだった。


「アラン!」


 アズキの声で、目の前にいる人物の存在にハッと気づく。アランは僕の目の前に立っており、一度舌打ちをした後、僕を抱えて素早く後退した。その右手を見ると、真っ赤に染まっている。


「アラン……」

「お前が言ったんだぞ、油断するなと」

「それより、その怪我」


 どうやら、咄嗟に僕を守った所為で腕を噛まれてしまったらしい。腕はえぐい程の歯形が付いており、そこから流れる血は止まる様子が無い。


「自分が何をしているのか分かっているのか!? 勝手な真似を」


 自分でも、ガラに無く感情的に怒っていることに気付いていた。すると、アランは此方へとゆっくりと視線を動かして言った。


「知らないか? 体張ってまで守りたい相手を、親友って言うんだぜ?」


アランはそう発した後、クサいセリフに照れくさくなったのか、ケッと苦笑した。何故、この男は僕とそんなに親友になりたいんだ? 首を傾げて見てしまう。


「アランの言う通りよ、モモロン」


 そこへアズキも歩み寄ったかと思えば、胸元へ手を突っ込み、そこから黒い球を取り出してヒュドラへ向けて投げつけた。その瞬間、煙が広がり、ヒュドラは混乱して首をあちらこちらへ動かす。お陰さまで僕達も見づらくなったが、アズキが手先で煙を少し払うと、その顔が露わになる。


「もっと言うならば、相手が思っている時点で、親友と言う関係は成立しているのだけれどね。違うかしら? 親友」


 アズキは僕の方を見て微笑んだ。これには姫やギンが、顔を見合わせてニヤニヤと笑っている。


「おやおやモモロン。お主、親友を私に留まらず、二人も増やしよって! 憎い! 憎い男じゃのう!!」

「ま、俺と竜太も負けんくらいの親友だけどな!」


全く、喧しい人達だ。僕は思わずしかめっ面になったが、やがて尖らせていた口を緩ませる。


「ならば、お前と僕がその親友だったとして。親友である僕は、お前のこの大怪我を黙って見過ごすわけにはいかない」

「何?」


 僕はアランの手に触れる。その瞬間、魔法を発動。その直後には懐かしい痛みが襲ってくる。こんな痛い思い、久々だな。


 一方、アランはその腕の痛みが消えたことに驚き、思わず手を見た。


「手が……」

「アラン、これは貸しだ」


アズキが察したのか、僕の服の袖を無断でめくり上げる。そこには、アランの腕にあった傷がそのまま移動している。アズキは思わず、「まぁ」と声を上げ、アランも呆然と見つめていた。


「俺のかっこ良い所持って行きやがってー。カミさんに見せて同情して貰う作戦だったんだぞ? ……まぁ、貸しを返す時、カミさんに褒めてもらうけどさ」


アランはそう言って、僕に笑顔を向けた。僕は、それに苦笑で返した。


「ところで姫、これからどうなさるおつもりですか?」


 アズキが姫に尋ねる。そうだ、元はと言えば、こうなってしまったのも、姫の命令の所為だ。僕達の視線は姫に集まる。


「何。黙って見ているが良い」


 煙もおおよそ晴れてきたこの頃。姫はヒュドラの前に一人仁王立ちし、ドヤ顔をしてみせた。

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