第13話 特別視
最近気づいたことだけど、果鈴ちゃんと歩いていると、周囲の目線を一人でいる時よりも多く感じる。
初めのうちは、ただの勘違いだろうと思っていたけれど、どうもそんな感じではなさそうだ。やはり、桜ヶ丘女子の生徒会長と一緒にいるというのは、特別なことのようである。
でも、私はこの状況を特別には感じていない。高校にいる友達と一緒に廊下を歩いているだけである。
「どうしたの、顔が緩んでるよ」
「ううん。何でもない」
私がそういうと、果鈴ちゃんは目線を私から離した。一瞬だけ睨まれたのは、きっと気のせいだと思う。
生徒会室に入ると同時に、果鈴ちゃんは大きな溜息を吐いた。
「この生活にも慣れてきたけど、やっぱりしんどいなぁ」
私から見ていると、果鈴ちゃんは無敵の存在のようにも思えるけど、たぶんそんなことは無いとも考える。
自称男子高校生でありながら、女子高の生徒会長を務めている。具体的にどんなところが大変なのかは、私には想像もつかないけれど、細かい所の一つひとつが積み重なっていくと、疲れてしまうんじゃないかなと思う。
「よく続けられるよね、そんな生活。私には無理だと思うよ」
無理という言葉でまとめてしまったけれど、私で置き換えて話すなら、今の体のままで男子高校生として生活を送るということだ。どう考えても無理だった。しかし、目の前にいる果鈴ちゃんは、それを実際に行なっているのだ。もはや偉業としか言えない。
「そんな変人に付き合ってるお前が、俺には信じられない。このことを明かした数人は、俺の前からいなくなった。つまり、そういうことだ」
絶縁状態になってしまったってことを言いたいのだろう。
私も最初はびっくりしたけど、別に縁を切る必要性は感じない。むしろ、すごいと感心してしまったくらいだ。並大抵の努力ではないと思う。
きっと私の知らないところで、果鈴ちゃんは色々な苦労を重ねて、今ここにいるのだと思う。
それは、知るといけないことなのかもしれない。知ってもいいのかもしれない。どっちなのかは、果鈴ちゃん本人にしか分からないことだ。
「私は果鈴ちゃんのことが好きだし、これからも一緒にいたいなって思うけどね」
「すぐそんなこと言っていいのか? 仮にも俺は男だぞ」
果鈴ちゃんは、そう言っているが、その顔で言われても説得力がない。もしかすると、ずっと女装状態なんだろうか。例えば、家とかお出かけするときとか。制服以外の果鈴ちゃんの姿も、一度見てみたいものである。
私は、果鈴ちゃんとのあいだに、友達以上の関係を望んでいるのかもしれない。でも、それは恋人同士とかではなくて、もっと友達という言葉を深めたような……。そう、親友になりたい。
高望みしすぎかもしれないけれど、それが今の私が求めているものだと思う。