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4-7 みんな婚約者のことが好きすぎる(4/6)

「その点、エド様は婿としてはかなり有力な選択肢かと思いますよ」


 その声に、背後を振り返る。この聞き覚えのある声は、やっぱり……!

 

「ナタリア先輩!! ご無沙汰しています!」


 あー先輩! 今日もお綺麗です!! ほんとに美人だよなあ先輩……! 

 薄い藤色のドレス、すっごい似合ってる……!!

 

「すいません、お話が聞こえてきたのでつい首をつっこんでしまいました……お久しぶりです若様、アリスさん。皆様お元気そうで何よりです」


 先輩は、続いてクラリス様、それからクロードお兄様とティナお義姉様にも挨拶をしている。そうか、そうだよね。リーノ様のお兄様であるバート様と、その婚約者のナタリア先輩の二人は完全に今日の主役の親族だもん。もちろんこの場に来てるよね!!

 

「なになに? エド先輩の話?」


 先輩の後ろから、バート様がにょきっと生えてきた。エド様はバート様と騎士団時代に面識があるとおっしゃっていたもんね。

 バート様の口から『エド先輩』って聞くの初めてで、あ、ほんとに呼ばれてるんだなぁとか思うとなんだかちょっと不思議な気分。

 

「アリスさんエド先輩と婚約すんの? おめでとう!! おめでとう?」


 いや待って早い早い。

 

「バート様、ちょっと気が早いです。まだですよ。そうなったらどうですか、って話をしてるんです」


 ナタリア先輩の丁寧なフォローに、そっかーと返事をしてる。

 ……ほんとにわかってるのかな、あれ。

 

「じゃあ俺が先輩にそう言ってきたらいい?」

「だめです。話が余計こじれますからね、一旦落ち着いてください」


 ……うん、やっぱりわかってなかったね。

 言葉としては丁寧に『落ち着いてください』って言ってるけど、雰囲気的には犬に対しての『ステイ』だよね、あれ。

 

「そっかー……。エド先輩すごいいい人だし俺もお世話になったしさ。先輩がアリスさんと結婚したらいいのにな~俺はすごくいいと思うけどな~!」

「そうですね……。実際に、もしエド様がアリスさんの実家の伯爵家に婿入りすると仮定して……。あの方は人好きのする性格ですし、どんな場所や肩書でもやっていけると思いますよ。公爵邸では使用人としては私の方が先に勤めていましたけど、彼は周囲に馴染むのが本当に速かったです。護衛騎士としての能力ももちろん高いですが、他のどんなことでも大抵なんでもそつなくこなしますし」

「騎士としての腕前なら俺は負けないけどな!」

「もうバート様、いちいち変な茶々を入れないでください」

「ごめんごめん!!」


 小突かれてすっごくいい笑顔で嬉しそうにしてる……ここの婚約者同士も大概仲良しだよねえ。イチャイチャしてんなぁ。

 

「まあ……そうだな。実際、前公爵の直系で孫だからってのもあるが……俺の領地経営関係の書類についても一部は取り扱いを任せてるくらいだからな。領地経営については割とそのまま即戦力なんじゃないか?」


 あ~。本人は、叔父様……つまり旦那様に拾ってもらった恩があるから、若様たちの役に立ちたくて書類周りを教えてもらったりしてる、って言ってたっけね。夜会のときに聞いたんだっけ? その話。もはや懐かしいね。

 

 その戦力(・・)をアインホルンからとってってもいいのかな……とは思うんだけど、そう口にしたらイヴァン様に『はぁ!? 公爵邸は全然人手足りてるからな!? あんな不良債権、むしろリボンでぐるぐる巻きにラッピングして送りつけてやるわ』って食い気味に言われましたね。

 不良債権はひどくない? って思うけど。あれってイヴァン様の、大好きなエド従兄に対する≪ツンデレ≫の≪ツン≫なんだよね〜照れ隠しだよね〜知ってるよ〜。ふふふ。ニヤニヤしたら睨まれたけど全然怖くないもんね〜。

 

「とはいってもまあ、フィッシャー辺境伯領はアインホルン領とは勝手が違うところもあるだろうから、覚え直しの箇所もあるだろうけど……あれであいつ、経理とか数字も結構強いからそういう意味でも役には立つと思うよ」

「えっ、経理!? そうなんですか!?」 


 その話はほんとに初めて聞いたわ……意外…………でも、ないか? 

 人間関係について結構細かい気配り目配りができる人だもんねえ。そういう意味では、細かい計算したり帳簿つけたり、数字の間違いに気づいたりとかが得意って言われたら、確かにちょっと納得できるとこあるかも。


「そうだね~。それにエッちゃんのあのコミュ力があれば、正直王都じゃなくてもフィッシャー領だろうが最悪外国だろうが身振り手振りとテンションで乗り切れそう」


 ああ、それは確かに。貿易拠点のフィッシャー領で暮らすからにはゆくゆくは近隣諸国だけでも言語の基本は勉強してもらわないといけないだろうけど、たちまちは全然それで行けそうだわ。

 

「能力とか身の上については十二分に及第点なんだよ。性格とか評判についてだけ少しひっかかるところはあるけど、それでもとにかくアリスちゃんにベタ惚れっていう事実でその辺りは全然不問、≪プラマイ≫で十分にプラス。だって、アリスちゃんが可愛く上目遣いでお願いすれば多分なんでもやるじゃん?」

「それはそうだな。間違いないだろ」

「あら、そんなに皆さんの口の端にのるほどにお二人は距離が縮まったんですか? 私が公爵邸にいる間は口だけで大した行動に移さずぐだぐだしてたのに……」

「最近、アリスとかなり親しくしてくださっているんですよ。今日もタウンハウスまでわざわざお迎えに来てくださって」

「だってアリスちゃんに向かって、君に少しでも速く会いたくて迎えに来ちゃったとか言ってたもんねえあの人。砂糖吐くってこういうことかと思ったよね」

「あらあらあら」

「アリス様が怪我でお仕事をお休みしていたときに、うちのお兄が三日間毎日花束持って見舞いに行ったという話も聞きましたよ」

「ええ、それはわたくし、その場にいましたので事実です」

「へえ~そうなんだ。先輩も隅に置けないじゃん」

「普段も、少なくとも週一くらいの頻度で出かけてんぞ、二人だけで」

「ええ……? それは、もう世間でいうところの恋人(・・)ではないんですか……?」

「……普通の感覚だとそうだと思います」

「それほど親しくなさっていて、周りにも祝福されていて……そしてアリスさんは、おうちの事情でご婚約をなるべく早くした方がよいのですよね……? それはもう……エドおにいさまとご婚約、なさったらいいのでは……?」

「…………普通の感覚だと、本当に、そうだと思います……!」


 うん、クラリス様は徹頭徹尾正しいよ。全部正論だよ。

 きょとんとした不思議そうな顔で仰られてるけどねえ、そうなの、私だってこの状況がほんとに不思議なんだよ……。

 さっきのイヴァン様みたいに揶揄いが混じってるわけじゃなくて、本心から純粋に『なんで?』って思ってるのが伝わってくるのがまた、余計に心を抉るな……。

 

「結局あの人はどこで何につまずいてるんですかね。さっさとアリスさんにプロポーズすればいいんですよ」


 リーノ様リーノ様。今日の主役、しかも祝われる側の人が舌打ちとかするのはやめようね、うん。

 気持ちはわかるし、私のためにそう言ってくださってるのは嬉しいんだけどね!

 

「……リーノ、それかフェリシアでもいいや。もういっそ、お前ら今日の主役権限使ってあいつにそう命令して来い。さっさとアリスにプロポーズしろってな」

「主役権限って何よ、そんな言葉聞いたことないんだけど」

「まあ、今俺が勝手に思いついた言葉だけど」


 そうでしょうね。本当にこの人……公爵家子息なのに、なんでこんなに適当が服着て歩いてるような性格してんでしょうね。大丈夫なのかな。

 

「でもな、今日この祝いの場で、主役に言われたことをそうそう無下にできるやついるか?」

「まあ、言いたいことはわかるけど……。私だってそうできるならしたいくらいよ。この際、お兄を吊るし上げてアリス様に何か不満でもあるわけ? って問い詰めてもいいかしら」

「あら、いいですねフェリシア様。その際は私もご一緒させていただいても? 私もやはり一言くらいは言ってさしあげたいので……可愛い後輩を宙ぶらりんなままにしてるヘタレ野郎に本音を吐かせましょ?」


 ねえ!? フェリシア様も結構言い方過激になってきてるし、ナタリア先輩もだいぶ毒舌出てるけど大丈夫かな~!? もう誰もツッコまないけどさぁ。もしかして怖くてツッコめないだけかな。その可能性もある。ほら、リーノ様もイヴァン様も目を合わせてくれないじゃん! 

 バート様だけは……何もわかってない顔してるけど……。クロードお兄様? いつもの笑顔。

 

「まあ、それは妙案ですわね……! 是非わたくしもお供させていただけませんこと?」


 そんな微妙な雰囲気の中で敢えてなのかなんなのか、空気を全然読んでない満面の笑みで発言したのは……ティナお義姉様だね。……ああ~そうか、相手がフェリシア様とナタリア先輩だから、一応ちゃんと礼儀正しい令嬢バージョンの言葉遣いにしてるんだ。

 彼女はそのままつかつかと私に歩み寄ってきたかと思うと、扇子で口元を隠しながら耳打ちする。

 

「……いやマジでこ〜んな面白そうな話、一枚噛まなきゃ損だわ! まあ待ってなよ、フェリシア様とナタリア様と女三人でエっちゃん囲んで逃げられないようにして、≪圧迫面接≫状態で≪激詰め≫してくるから!!」


 ヒエッ。エド様、この強い女三人に囲まれて詰められるってこと!? 想像するだけですっごい怖い。地獄の女子会尋問編じゃん。

 エド様、そんなの多分生きて帰ってこられないよ。死んだ顔になってるエド様の姿がまるでこの目で見てきたかのように想像できるもん。

 

「それはちょっと待って、さすがにエド様があまりに可哀そうすぎる……! あー……もう、それくらいなら、私が行って直接言ってくるから、お義姉様たちこそ待ってて!」


 少し前に、イヴァン様に対して『エド様が言ってくれるまで待ちます』って言ったことはもちろん覚えてるんだけどさあ。私たちのペースでゆっくりって思ってたけどさ? ちょっと状況が変わったからね、仕方ないよね!?

 

「え、直接? 何て言うつもりなの、アリスちゃん!?」

「婿に来てくださいって!!」

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