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4-1 博士の提案は理詰めがすぎる(5/6)

「我ながら、あまりにもタイミングが悪すぎました……。僕も、一応可能性を考えてはいたんです。アインホルン邸にはフィッシャー伯爵令嬢のアリスさんはもちろん、他に使用人としてお勤めの方々も、皆様アインホルン公爵家に認められた格式の高い貴族家子女の皆さまです。そういった方々の中に、僕よりもよっぽどアリスさんと親しくなさっていて相応しいお相手がいらっしゃるのではないか……と。この後そういった辺りも詳しく確認していって、もう少し具体的に話をつめるつもりだったんですが……」

「ええと……つまり、使用人の同僚男性の中に親しくしている人とか、婚約してもいいかな~みたいな相手がいるかどうか、ということですかね?」

「そうですね」

「いないですね」


 リーノ様は、即答した私から視線をすっとエド様にうつす。

 

「アリスさんはこう仰ってますが……。僕としては、エド様のような方がいらっしゃると知っていればわざわざアリスさんにお声がけしなかったんですよ」

「俺みたいな……って、どういう意味?」

「アインホルン邸でお勤めをなさるくらいには身分や職に問題なく、かつアリスさんのことを大切に想っていらっしゃるような方ですね」


 はあ、なるほど。なるほど? ん? ……えっと、何? 『アリスさんのことを大切に想っていらっしゃる』? ……って……何それ、どういう意味? んん~?

 

「へえっ!?」


 私が声を上げる前に、エド様からなんかすごい、こう、カエルがつぶれたみたいな変な声が出た。

 

「いえ、ですから……状況的にそうとしか考えられないんですよ。エド様は、アリスさんのためにわざわざフェリシア様を伴ってこの夜会に参加なさって、実際にこうして様子を見についてきてくださったわけですよね? これで、アリスさんのことを全くなんとも思ってないよ、興味とかないよ、とかおっしゃられてもそれはかなり無理があるように思いますけど……」

「んん〜? ちょ……っと待ってほしい。……いや、違う、違うって。俺はただ、心配で~……俺、そりゃあ同僚というか後輩としてアリスちゃんのことは気にかけてはいるけど、そういうんじゃないから。俺は本当に、君たち二人がうまくまとまるならそれもそれでいいなって、応援するくらいの気持ち……なんだけど……。なんだよ? 本当に……」

「本当ですか?」

「……うん。本当、だと、思う…………あれっ、どうだろ……」

「…………」


 エド様は急に視線を彷徨わせて迷い出した。

 嘘でしょそこはしっかり否定してよ! 大丈夫かなこの人!?

 

「……アリスさん」


 呆れと焦りが混ざった視線をエド様へ向けていた私は、私の名を呼ぶ声の方へと視線を移す。

 

「は、はい……リーノ様、なんでしょう?」

「その……ですね」


 リーノ様は少し口ごもりながらも、とんでもないことを言い始めた。

 

「あなたは、とても魅力的で素敵な女性だと……僕は思います」

「ヒッ!? は、はい!! ありがとうございます!?」

「アリスちゃん、ヒッって言っちゃってるよ大丈夫?」


 もーエド様うるさいな~! リーノ様がいきなりこんな不意打ちボールをぶん投げてきたんだから、びっくりして咄嗟に対応できなくて素が出ても仕方ないでしょうが!

 

「……ですから、もしあなたにとって婚約者として条件のいいお相手が見つかった場合は、どうか、僕ではないその方をお選びください。先ほどから申し上げている通りあなたには好感を持っていますが、バート兄様がナタリア義姉さんに向けるような、もしくはイヴァン様がクラリス様に寄せるような……ああいう強い感情とまでは言えないと思います。アリスさんから僕に対しての感情についても、多分僕と似たような感じですよね?」

「そう……ですね」


 うん。まあ、それはそう。

 

「これはいわば、お互いに利があるならば締結できる契約の提案のようなものと考えていただいて結構です。アリスさんがもっと条件のいい契約を結べるとわかったら、こちらの話はなかったことにしていただいて構わないのです。アリスさんのような方なら、僕よりもっと条件のいいお相手が見つかる可能性は十分にあると思っています」


 自分から婚約を打診しておいて、やっぱり自分とは婚約しなくてもいいと言う。

 人によっては掌返しと感じたり、冷たい言い方に聞こえるかもしれないけど……。それなりに彼と接した時間の長い私は、この人が自分の事情や本心を変に誤魔化すようなことをせず、すべてをまっすぐに伝えてくれているんだなぁとわかる。誠実な人なんだよね、本当に。

 

「まあ……、実際話が核心に触れたときは、我ながら柄にもなくちょっと照れてしまいましたがね……」


 言って、リーノ様は少しだけまゆを寄せた。おや……これってもしかして、照れ隠し? ふふ、普段完全無表情のリーノ様でも、照れたりもするんだね。

 え~ちょっと可愛いかも、なんて口に出したら失礼だろうから言わないけど。

 

 そう、私とリーノ様の間で婚約が成立しなかったりとか、結局夫婦にならなかったとしてもね。それは必ずしも、別にお互いのことが嫌だからってわけじゃないんだよ。

 条件が合わなかったり、他に好条件の選択肢があって最終的に私たちが婚約をすることにならなかったとしても、私たちが今互いに対して感じている好感は変わらないと思う。きっとこれから先も、誠実なこの人とは『友人として』いい関係を築いていけるんじゃないかなって、そんな風に思わせてくれる人なんだよね。

 彼を親友って評するお兄様は、やっぱり人を見る目があるよなあ。

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