3-4 深窓の令嬢は存在が尊すぎる(2/3)
「あ、じゃあお前が次に気になってることあててやろうか? 俺との年齢差だろ。クラリスは可愛いから、実年齢より若く見られることが多いからなあ……。アリス、クラリスは何歳くらいだと思う?」
うっ、来たよ、この自分が高位貴族だと自覚のない若様の≪ノンデリ≫クイズ!
「ええ~……そういうのほんとやめてくださいよ~……私たち下位の者はどう答えたらいいかわからなくて困るんです!」
イヴァン様ご自身は、普通にただの雑談だと思ってるんだろうね、それはわかるんだけどね~……。
悪意はないんだよこの人。でもイヴァン様が雑談とか冗談とかのつもりでも、そのクイズの対象にされたクラリス様が私の返答をどう思うかわからない。それに今はたまたま私たち三人だけど、ここにもし他にも周りで会話を聞いてる人がいたらその人たちにもどう受け取られるかわかんないんだよ。
「そうか〜? そういうもん?」
そういうもんなの!
さっきフェリシア様を指さしながらしかも本人の前で『こいつ失礼だよな?』と聞いてきた件といい、その辺あんまりピンときてなさそうで怖いんだよなぁ。
「まあいい。じゃあ、お待ちかねの答えを発表するぞ~!」
……すごいいい笑顔じゃん。なんでこの人こんな楽しそうなの……。
可愛いクラリスたんと一緒にいられること、クラリスたんのことをしゃべることがとにかく嬉しくてたまらないってことでいいのかな。そんなにも?
「クラリスは成人まであと二年だぞ。俺とは六歳差だな!」
……うん。その年齢なら若く見られるというより、まだ幼く見られるって言い方の方が適当なんじゃない? ツッコまないけど。
「夫婦としての年齢差は決して小さい方じゃないとは思うが……それはそれとして、俺はもしクラリスと十歳年齢が離れてたとしても全然愛せる自信ある!!」
……だからぁ、そんなことを大声で言わなくてよろしいのよ。まあ、その当事者のクラリス様が本当に可笑しそうにクスクスと笑ってらっしゃるから、いいのかなあ。……いいのか、なあ…………?
それにしても、成人まであと二年ねえ……。
クラリス様はご病気のせいで発育があまりよくないからなのかもしれないけど、ぱっと見た印象からは正直もっと下と言われても納得してしまう雰囲気なんだよね。言葉も少しあどけない感じで、幼さが残っているし。
だからなのか、イヴァン様と並ぶと実年齢以上に年齢差を感じてしまう。……いや別にイヴァン様が老けてるとは言ってないからね。
でも、ほんとに十歳差くらいにも見えかねない。夫婦とか恋人って言われると、なんか若干犯罪の臭いがするんだよな……。逆に、もし兄妹とかって言われたら、それなら全然違和感ない気がするんだけどねえ……。父娘は……さすがにないか。
「そもそも貴族で家同士の契約での婚約なんて、年の差があるのは珍しくないだろ? 男が上なら特にな」
「まあ、それはそうなんですけどね」
女性は出産適齢期があるからどうしてもね。恋愛結婚ならともかくそういう形の婚約で女性がすごく年上ってパターンは確かに少ないかも。
「特に俺たち……公爵家くらい上位の貴族家になると、身分差のことを考えると釣り合う相手の選択肢がなかなか少なくてな……王族も今の世代は俺たちと釣り合うくらいの年齢のヤツが少なくて、なのに他国の王族と婚約が成立してたりして厄介なんだわ」
貴族社会もピラミッド型だからねぇ。上へ行くほど人が少なくなる。その中で選ばないといけないから大変だよねえ。
「アインホルン家とシュトルヒ家は、公爵家の中でも同じ派閥なんだよ。特に俺は嫡子だから夫人もある程度は家格が高くないとな……ってことで、クラリスが生まれた頃に俺たちの親同士がまあとりあえずで縁組みしたんだ」
……ん? それだと、私をイヴァン様の婚約者候補に、って言ってたのはおかしくない?
いや、まあ、そうか、うち辺境伯だったね……伯爵家だけど実質侯爵家相当らしいから。旦那様と奥様も、侯爵家相当伯爵家までならギリギリ許容レベルだったってことかな。私の実家が普通の伯爵家とかそれ以下だったらあの話はなかったかもしれないね。
伯爵令嬢のナタリア先輩は、ゼノン様の嫁候補ではあったけどイヴァン様の方の候補にはなってなかったって言ってた。先輩は更に庶子っていう事情もあったわけだけど。
「クラリスが生まれてすぐにこの話が出て、実際に初めて会ったのはクラリスがまだ大人の腕の中にすっぽり収まってたくらいに小さかった頃でな……もう、そのときからこの子はもうほんとに……天使みたいに可愛くて……。親同士は、身分が釣り合う中でのとりあえずの仮の縁組のつもりだったらしいがそんなん知らん。俺はもうクラリス以外と結婚するなんて一切考えてないからな!」
その時から、イヴァン様はずっとクラリス様一筋なのだそう。
その年齢だと初恋というわけではないよね。いやね? 相手が少年イヴァン様と同じくらいの年齢の少女なら初恋もありえるかもしれないけど、クラリス様がそんなに小さかったのならそれは恋というより……こう、庇護欲とかそういうやつじゃない……?
旦那様と奥様としては、イヴァン様にとってクラリス様は元々とりあえずで仮に決めた婚約だし、年齢も結構離れてるしお身体も弱い……ってことで、もっといい相手がいるなら婚約者を変更してもいい、というか変更した方がいいんじゃない? ってことだよねえ。
なるほど、確かにイヴァン様がこの変な執着をしてなかったら、そういう話の流れになる方がよっぽど自然だ。
なんていうか、イヴァン様のクラリス様への態度、恋人とか妻に対するというよりは妹とか娘に対する感じに近い気がするんだよねぇ。お兄様がティナお義姉様に向ける熱のある視線ではなくて私に向ける暖かい視線に近い気がする。
婚約者の名前にたん付けて呼んでるのも正直その事実だけ取り出すと≪ドン引き案件≫なんだけど、前提として二人のこういう関係性を知っていればまだ納得もできる気がするかなぁ……。恋人に対してというより、年の離れた妹とか娘とか、そういう存在を全力で甘やかして、猫可愛がりしてる、って感じなんだよね。
「ふふ、おにいさま、くすぐったいですよ」
ほらもう、ナチュラルに頭とか撫でてるし。
……やっぱりこれ、夫婦とか恋人の距離感じゃない。父娘か兄妹みたいなそれだわ……。そう考えれば、クラリス様がイヴァン様をこうして『おにいさま』って呼ぶことも違和感がないし。イヴァン様のことは慕っているけど家族みたいな、兄みたいな存在なんだろうね。恋愛感情みたいなのはなさそうだ。
……まあ……それで……二人がお互いに納得してるんならいいのかなぁ……? 別に激しい恋愛感情がなければ夫婦になれないというわけではないし。恋愛感情はなくても、その代わりにこの二人の間には確実に愛情と信頼があるように見える。
う~ん、……これも一つの夫婦の形か……。結婚って、奥が深いよなぁ。




