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時空の三連星 第1章 あらすじ 第1話

              《時空の三連星(トリロジー)



あらすじ


強靭な体力、卓越した洞察力、そして深い知識を持つ30歳の男、御子柴駿。彼はかつて凄惨な大災害の最中、炎と瓦礫の下から一人の幼い少女の命を救い出した。

救い出された少女の名は――「シズ」、仮設病棟で共に写った写真の男は、絶望の淵で見出した唯す一の「憧れと希望」の象徴となる。いつかあの人と対等に並び立ち、共に歩みたい。あわよくば、愛されたい。その狂おしいほどの切望と執念は、時空の法則すら捻じ曲げ、異なる時間軸に「ハル」や「アオイ」という彼女自身の思念の具現体を生み出していく。

これは、異なる時空で起きた三度の不可解な接触(特異点)を契機に、自らの「知・武・心」を極限まで鍛え上げ、時空の狭間の先で最愛のヒーローへと追いつこうとする、一人の女性の魂の覚醒と執念の物語である。




                   第一章



第一話  


「3つの特異点」



じっとりとした夏の夜の熱気が、肌にまとわりついて離れない。

神社の境内に向かって続く石段は、色とりどりの浴衣を着た人々や

はしゃぐ子供たちで埋め尽くされていた。

立ち並ぶ出店から漂うソースや綿菓子の独特な匂い、ひしめき合う人々の喧騒と笑い声。

シズは、その賑やかさから一歩引いたような冷めた目で、流れる人波を見つめていた。

もともと、こうした大勢の人間が集まる場所は苦手だった。


「ねぇーシズ、あれ美味しそう!」


隣を歩く親友のミカが、お好み焼きの屋台を指さして弾んだ声をあげる。

ミカは先ほどから、まるでおもちゃ箱をひっくり返したように楽しそうだ。


「これ、カワイイィ〜。シズ、見て見て!」


「そうねー。いいわね〜」


シズは、心ここにあらずといった調子で、お茶を濁すような相槌を繰り返していた。

就職活動の文字が頭をよぎるたび、将来への不安で心がささくれ立つ。

なぜ自分は、こんな乗り気でもない祭りに来てしまったのだろう。

早く帰りたい。ただ、それだけを考えていた。

その時だった。

前触れもなく、シズの脳裏に激しい閃光が走った。

頭を殴られたような衝撃。

同時に、視界の霧が引き裂かれるように、不意に目の前がひらけた。


「え……?」


吸い寄せられるように、顔を上げた。

境内の喧騒が、一瞬にして遠のいていく。

数多の雑踏の隙間、まるでそこだけ時間が止まったかのような空間に

一人の男が立っていた。

男の名は、駿。

白のワンピースにショートヘアーという、祭りの喧騒には全く不釣り合いな装い

まさに、はきだめの鶴。

シズの振り返りざまの視線が、真っ直ぐに駿を捉えた。

いや、視線が合ったというより、魂ごと吸い込まれたと言うべきだった。

駿の身体から放たれる、圧倒的な存在感、孤高の佇まい。

シズは直感していた。

目の前にいる男もまた、自分と同じ衝撃を感じているのだと。

シズは半身になりながらも、その瞳で駿を完全に視界にとらえていた。

可愛らしさと美しさを備えた彼女の顔は、驚きに目を見張り、次の瞬間には

「見つけた!」という剥き出しの感情と確信に満たされていく。

周囲の雑踏など、もはや彼女の目には映ってはいない、聞こえない。

ただ、じっと見つめ合っていた。

時間にすれば、わずか3秒程度。


「えっ、どうしたの、シズ?」


隣でミカが訝しげに顔を覗き込んできた。

その声で、シズはハッと我に返った。

心臓が、早鐘のように胸の裏側を叩いている。

知っている。

私はこの人を知っている。

あの仮設病棟の写真の人、私の命を救ってくれた人……。


「何でも無いわ、ミカ! 悪いけど私、急用を思い出したの。

もう行かなくちゃ、ゴメン…ミカ!」


「ねぇーちょっと、急にどうしちゃったのシズー!」


背後から上がるミカの困惑した声を置き去りにして、シズは小走りに駆け出した。


振り返りもせず「ごめーん!」振り返る余裕はなかった。

人混みをかき分け、肩をぶつけながら、先ほど駿が立っていた場所へと必死に赴く。

しかし、駿がいたはずの空間に着いたとき、そこにはただ、見知らぬ浴衣姿の男たちが通り過ぎていくだけだった。

周りをどんなに見渡し、視線を巡らせて探しても、彼の姿はどこにもない。

まるで、最初からそこに誰もいなかったかのように、駿の気配は完全に消え去っていた。


「せっかく……見付けたのに……なのに」


ぽつりと呟いたシズの拳が、白のワンピースの裾を強く握りしめる。

関わりは、あの3秒で一切途絶えた。

残されたのは、身体の奥底に残る強烈な感覚と、激しい感情の残り香

そして「何故」という飢餓感だけ。

だが、失意の底で、シズの脳内に眠っていた別の記憶の歯車が、音を立てて回り始めた。


(こんなことしてる場合じゃない……!)


今、はっきりと気づいた。

思い出した。

私がやるべきことが、何であるかを。

精神、肉体、思考、洞察。

それら全てを極限まで鍛錬し、磨き上げなければ

あの圧倒的な存在感を放つ駿の隣に並び立つことすらできない。

追いつけない。

そして、今の未熟な私のままでは、愛される資格などない。

いや、愛してはいけないのだ。

蘇った記憶が、時空を超えて激しく動き出す。


同じ瞬間、異なる時間軸に存在する

学年トップの天才中学生「ハル」の耳元に

そしてあらゆる武術を修める高校生「アオイ」の魂に

一人の女性の執念が、熱い閃光となって伝播していった。



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