第95話:武道場にてその2
「聖女パルフェ! 私を今すぐ魔法を使えるようにしてくれ!」
唐突に誰だろう?
あっ、エグバート第二王子殿下?
「弟殿下だったか。物事できることとできないことがあるんだぞ?」
「できないことなのか?」
「……魔法をすぐに使えるようにしろってことだけなら、不可能ではないけどな」
「そうなのか?」
エグバート殿下は喜んでるけど、懐疑的な者も多い。
今すぐ魔法が使えるようにするなんてできるのか?
殿下自身が自分の魔力を把握してないと魔法は発動しないだろう?
「何で今すぐ魔法使いたいの? 急がば回れって言葉もあるんだぞ?」
「見事な魔法を見せられてやる気にさせられて、お預け食らうのはあんまりだ!」
あっ、一年生全員コクコク頷いてるな。
何なら上級生まで。
オレも気持ちはわかる。
「剣術クラブでは回復魔法も指導してるみたいだけど、殿下はヒールの習得は努力してる? どの辺まで進んでる?」
「ソーサリーワード構文は覚えた。でも魔力というものの感覚が掴めぬのだ」
「ならあたしがちょっと手助けしてやれば、多分殿下は一〇分以内に魔法使えるようになることはなる」
「本当か!」
「本当。でも自分で身につける方がためになるんだぞ? それでもやる?」
「やる!」
「じゃあ言いだしっぺの殿下にだけは手を貸してやろう。皆もこういう方法があるとだけは覚えといてくれる? 殿下、両手を出して」
「うむ」
聖女パルフェがエグバート殿下の両手を掴む。
「殿下の持ち属性の土の魔力を少しずつ右手から流すよ。今度は左手から。違いわかるかな?」
「わかる! これが魔力か!」
何と魔力を把握させるのにこんな方法があるとは。
「おへその辺りに注目しててね。ぎゅっぎゅっと。これが魔力を練るってことだよ」
「わかる!」
「よし、あとは自分でよく練ってね。ぎゅっと固めた魔力を構文を頭に浮かべながら右手に持ってきて、掛け声とともに射出!」
「ヒール!」
「よし、合格」
あっという間にヒールを使えるようになったエグバート殿下大喜び。
他の一年生も羨ましそう。
しかしネッサ嬢は納得いかないようだ。
「パルフェさん、こんなやり方があるんだったら、誰でも簡単に魔法を使えるようになるんじゃないのか?」
「まーそうだね。これ本にも載ってるやり方だから知ってる人もいたかもしれないけど、魔道を使える兵士を量産するための手法なんだ」
えっ、魔道兵士を量産?
物騒なワードが飛び出して、皆がギョッとしてるぞ?
構わず続ける聖女パルフェ。
「大体他人の魔力を自分の身体に流すってことが、実はあんまりよろしくないんだ。感覚を掴んだはずの魔力が自分の魔力と違うってことが起こり得るから。却って上達が遅れることも多いんだそーな」
「そうなのかい?」
「うん。あたしは全属性扱えるし、国防結界の基石にしょっちゅう魔力供与してるから、殿下の魔力に似せて流し込むことはできるよ? でもそもそも魔力量に大きい開きがないと魔力を送り込むことはできない。魔力を送り込む側が慣れてないと受け手側が拒絶反応起こすこともあるらしい。何だかんだでリスクはある」
エグバート殿下が決まり悪げにきょろきょろ周りを見回している。
「やっぱ自力で会得する方が安全で達成感は大きいんじゃないの? ただ邪道でやっちゃダメだけど、こういう方法もないではないと、知識としては知っといてもらいたい。何事も勉強だからね」
リスクのある、やっちゃダメな技法か。
シーンとする全員を見渡した聖女パルフェが一言。
「実験台になってくれたエグバート殿下に拍手」
王子を実験台だって。
ひどい、笑えない。
「せっかく覚えたヒールなんだ。殿下はたくさん使ってみなきゃいけないよ。ひょっとすると身体に馴染んでパッと使えるようになるまで、普通より時間がかかるかもしれないからね」
「わ、わかった」
さすがにエグバート殿下に続く勇者はいなかった。
一年生誰も魔法を特急で使えるようにしてくれとは言わない。
感覚やイメージが大事なものは、自分で納得するまでやって会得するのが一番とわかった。
刺繍クラブのサリー部長がおずおずと言う。
「あの、これ刺繍部の作品なんですけれども」
「そーだ、忘れてた。魔道具のケープなんだ」
魔道具のケープ?
どうして刺繍クラブが? っていう視線がアリアリ。
その辺は聖女パルフェや魔道に興味のあるクインシー殿下が刺繍クラブに在籍していることでお察しください。
「去年騒ぎを起こした自然派教団過激派が、刺繍で縫いつけた魔法陣を魔石の魔力で起動させて身を護るマント、ってものを持ってたんだ。マントだとぞろっとし過ぎるし、魔法陣自体にも問題があったんで改良した試作品だよ」
「実際に戦闘になることも多いであろう騎士の立場で、装備品としてこのケープはどうなのかということが知りたいのです」
「トリスタン君、これ羽織ってみ? 部長、トリスタン君に撃ち込んでみて」
「とおりゃあ!」
躊躇しないで撃ち込むのがすごい。
しかも微動だにしないトリスタン。
どんだけ聖女パルフェへの信頼が厚いんだ。
そして弾かれる一撃。
「うん、オーケー。魔石の様子からするともう一撃は耐えられるな」
「結構思いっきりだったんだぞ? 全く通らないじゃないか」
「改良前はどういうものだったんだ?」
「単純にある程度以上の物理攻撃と全部の魔法をシャットアウトするってものだった。でもそれだと感知魔法浴び続けてるだけでも魔石が減っちゃうし、味方の支援の魔法も受けられないじゃん? 欠点が大きいかなと」
「改良後は?」
「物理攻撃に対してはそのまま。一定以下の微弱な魔法はスルー。それから聖属性の魔法については通すようにしてあるから、回復魔法や祝福は受けられる」
「……ということは解呪も食らう?」
「それなー。トリスタン君みたいな身体強化魔法使いは解呪効いちゃうのは嫌かもしれんけど、バッドな状態異常食らった時に治癒魔法や解呪が効かないのは危険だと思うんだよなー。ま、メリットデメリットあるってことで勘弁して」
「細かい調整はできないのか?」
「魔法陣上ではできるんだけど、あんま陣が複雑になると魔力が隅々まで行き渡らないから発動しないんだ」
「ふうん、難しいんだな」
魔法クラブ協力の下、刺繍クラブで色々試して、今のところこれが最良かと思われる試作品だ。
剣術クラブ部長が言う。
「つまり剣術クラブで使用してみて、どういう機能があったらより利便性が上がるかということが知りたいんだな? ただ魔法陣の都合は我々にはわからんぞ?」
「それもそうなんだけどさ」
「デザインの好みが知りたいのです」
「「「「「「「「は?」」」」」」」」
全員疑問符が頭を飛び交っているような顔だ。
剣術クラブの男子に乙女心はわかるまい。
「えーと、通訳しまーす。刺繍クラブ女子には、男子は刺繍みたいなファンシーなものをなかなか愛用してくれないという頭があります」
幾人かが気まずそうにしている。
心当たりがあるんだろうな。
「この試作品のケープは、クインシー殿下とマイク君の意見でごくシンプルにしてあるよ? ただこのままでは刺繍女子の創作意欲を満足させないのだ。襟飾りをつけろの花柄の刺繍を入れろのフリフリにしろのという希望があったら、すぐ対応するから聞かせてねってことだよ」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
剣術クラブ全員が押し黙る。
そんなのどうでもいいって、表情に出ていますよ。
「クズ魔石多めに置いてくから、とにかくそのケープは使ってみてよ。意見があったら教えてください。じゃーねー」




