第81話:三学期は着々と
――――――――――三学期始業直後、学院高等部魔道実習室にて。魔法クラブ部長ラン視点。
「……という理由で、申し訳ありませんがボク達五人は来年は転部させていただきます」
「「「「……」」」」
昨春は五人も入部したと思ったら、全員辞めてしまうという。
確かに学年末の転部は認められているけれど、実際にそんな多いケースじゃないからショックだ。
四年生の俺とドルフが抜けると、残りは二人になってしまう。
でもクインシー殿下の事情もわかるしなあ。
「僕もパルフェさんに魔法を見てもらいたかったなあ……」
「見てやるとゆーのに」
「えっ? で、でも……」
「殿下の話聞いてた? 春にはどうせ新入生の入部希望一杯来ちゃうって。何なら転部してくる人もいるかもしれない。あたし達五人は宮廷魔道士になりたいわけじゃないんで、いるとちょっと邪魔じゃん? でも魔法クラブから宮廷魔道士っていうルートは残しといた方がいいと思うから、あたし達は遠慮して席を譲ろうってだけだよ」
「時々魔法クラブにも来てくれるかい?」
「来る来る。魔法の指導は任せて」
一安心だ。
魔法クラブと無関係になるわけじゃない。
「なのでボク達が魔法クラブを去るということは秘密にしておいていただけると」
「そうだね。わかった」
「ところで先輩達は宮廷魔道士採用試験の方、大丈夫なん?」
「な、何とか」
魔道理論のペーパーテストについては強がりじゃなくて平気。
不安が残るのは実技だ。
「一応過去に出題された課題は実践できるようにしてあるけど」
「実技って魔力塊に関するものなんでしょ?」
「だと思う。これまではずっとそうだった」
魔力塊は何かの役に立つわけじゃないから、どこかに教科書があるわけじゃない。
先輩達のメモを参考にするか誰かに教わるか、それとも自分で一から組み立てるしかない。
また持ち魔法属性で差がつかないという事情もあって、試験に使いやすいんだと思う。
「んー? 心配だな。過去ってどんな問題が出てるの?」
「これが過去問集だよ。最近は少し傾向が変わってるみたいで」
去年の魔力塊を点滅させろの課題には、先輩達本当に意表を突かれたと思う。
先輩達は今年も受けるんだろうか?
「……最近は応用力を重視してるんだろうな」
「お母様の言っていた、宮廷魔道士のレベル低下に関係あるでしょうか?」
「あるかも。でも問題だけ難しくしたって、教える人がいないとレベルなんて上がんないんじゃないかなあ?」
頷かざるを得ない。
アルジャーノン先生に指導を受けてはいるが、先生も魔法クラブにばかり関わってはいられない。
この一年は聖女パルフェがいたからかなり充実した勉強ができたと思うけど、それは去年までと比較しての話だ。
絶対的に質と量が足りているのかはわからない。
「こう見ると確かに去年の魔力塊の点滅って問題はトリッキーだね」
「だろう? これまでは大きさとか発動させる時間とかを、構文上で制御する課題ばかりだったのに」
去年はあえて発動の安定に関する記述を削除し、自分の裁量で魔力を操って点滅させるというのが正答だったようだ。
意外にもほどがある。
「今年の予想問題考えてみようか。皆どう思う?」
「魔力塊を一つ作らせて、それとは違う色にしてくださいなんてできますか?」
「えっ、色?」
クインシー殿下の言うことに思わず頭の中が真っ白になる。
色なんて変えられるのか?
「先輩、慌てない。想像できるくらいのことは大体何でも可能だと思って」
「う、うん」
「色変えるなら、一番簡単なのは自分の持ち魔法属性以外の魔力塊を作ることだな。先輩達やったことある?」
「「ない」」
「やってみ? 自分の魔法属性以外の魔力塊を作るってのは、意外と盲点かもしれない。技術的に難しいわけじゃないから、出題される可能性は十分にある」
「「わかった!」」
せっかくだから、記述を使い手がほとんどいないという闇属性に書き換えてみる。
「パルフェさん、いいかな?」
「オーケー、起動してみて」
構文を聖女パルフェにチェックしてもらったあと、闇属性の黒さをイメージして魔力塊を作り出す。
自分の持ち属性じゃないからか魔力を随分食うけれども、全く問題なく完成した。
ドルフは聖属性か。
白い魔力塊を作り出している。
「はい、合格。おめでとうございまーす」
「なあ、聖女様。これ光量をゼロに制御したら黒く見えるから、持ち属性が闇の人以外は合格なんじゃないか?」
「それもそうだ。マイク君賢いな」
「他にはどんな解決手段があるんですの?」
「魔力塊表面の性状を変えて出る光の色を変えてもいいし、属性を偽装するって手もあるね。でも難しいな。宮廷魔道士の採用試験でそこまで要求するとは思えない」
ふんふんと頷く。
熱心で頼もしい後輩達だなあ。
ネッサ嬢が言う。
「去年の問題のバージョン違いになるけど、大きさを膨らませたり縮ませたりしろという問題はあり得るんじゃないか?」
「大きさの制御の記述外して魔力連動にするってことか。実にありそーだな。先輩達、やってみようか」
「「おう!」」
「際限なくでっかくなると危ないから、魔力塊の大きさ上限だけは決めておこうか。そーゆー細かい配慮が合格の決め手になるかもしれない」
マジで頼りになるなあ。
◇
「ところで皆は来年どこのクラブに転部する予定なんだい?」
「刺繍クラブにしようかと」
「「「「えっ?」」」」
軽い気持ちで聞いてみたら意外も意外。
大体殿下とマイク様は男じゃないか。
そりゃ刺繍クラブは人数多くなっても問題ないだろうけど、刺繍って男がやるものじゃないだろう?
「去年建国祭の直前に、自然派教団が騒動を起こしたの知ってる?」
「知ってる。何でも蜂起しそうだったとか」
「そうそう。自然派教団の持ってた秘密兵器が、マントに魔法陣を縫い込んで魔石で起動させ、物理攻撃も魔法攻撃も魔力が続く限り無効化するってやつだったんだ」
「すごいな。そんなことができるのかい?」
「あたしもビックリした。そしたらすごく魔力をよく通す糸が使われてることがわかってさ。その糸もさほど珍しいもんじゃないんだって」
「どこで聞いた情報だい?」
「宮廷魔道士に。あっちにちょっと伝手ができたんだ」
クインシー殿下が頷いている。
宮廷魔道士に伝手ができるって羨ましいな。
いや、でも聖女パルフェの魔法の実力なら、宮廷魔道士も喜んで協力したがるんだろう。
「……つまり魔石さえあれば、魔法陣を衣服で起動させられるのか。とても応用が利きそうだけど」
「面白いでしょ? 来年魔法クラブと刺繍クラブで協力してすごいもん作ろうよ」
他所のクラブに行っても魔法クラブのことを考えてくれると思うと嬉しいな。
卒業してしまうのが残念だ。
「実際に殿下とマイク君が針と糸を手にすることはないだろうけどさ。モデルになってくれるんでもデザインのアイデア出してくれるんでもありがたいよね」
「そうですよ。殿方のモデルは大変貴重なのです」
知らなかった。
刺繍クラブって男子が入ったらモテモテなんじゃないか。
ドルフが何かに気付いたように言う。
「あれ? とすると宮廷魔道士は、魔法陣の重要さを再認識したかもしれないということになるのか?」
「そーかも」
「ラン、大変だ! 宮廷魔道士の採用試験、魔法陣関係の問題が難しくなってるかもしれない!」
「あっ?」
ペーパーは楽勝かと思ってたのに!
いや、今気付いたのは幸いだ。
復習の時間は十分ある。
「頑張ってねー。あたし達は自分の持ち属性の魔法を一つ、今学期中の習得を目指そうか」




