第76話:待機する時間その1
――――――――――建国祭前日、王宮にて。クインシー視点。
お父様ことローダーリック陛下がキーファー子爵に好奇の目を向ける。
「それで子爵。予にぜひ聞かせたいネタがあるとのことだが」
ネタがあるっていったのは子爵じゃなくて聖女様だった気がする。
子爵は完全に顔色を失っているじゃないか。
お父様は圧が強いからなあ。
慣れているボクでもビクッとすることあるのに、どうして聖女様はお父様と普通に話せるんだろう?
不思議だなあ。
度胸だけで説明できる問題なんだろうか?
「どうした、子爵」
「は、はい……」
「キーファーさんはもったいつけるタイプかな?」
違う違う、そうじゃない。
多分お父様に気圧されてるだけ。
聖女様は天然なのかわざと言ってるのかわからない時があるな。
「じゃ、あたしの方から披露して、キーファーさんに補足してもらおうか。そこにいるキーファーさんの娘ネッサちゃんは、クインシー殿下やあたしと学院で同級だよ。そしてどうやら本来の聖女なんだ。純粋な聖属性持ちだって」
「ほう、そなたが準聖女か」
ネッサ嬢を愉快そうな目で眺めるお父様。
「驚かないのか。つまらんな。ところで準聖女って何?」
「聖女パルフェは言ったそうではないか。ひょっとするとリザレクションを使用可能になるかもしれない、国防結界への魔力供与が可能な聖属性の魔力を単独で扱える存在がいるということを。それを仮に準聖女と呼んでいたのだ」
「なるほどー。さて、キーファーさんの出番です。ネッサちゃんはどうして子爵家の養子になったの?」
「ふむ、ネッサ嬢は養女だったか」
「は、はい」
ネッサ嬢もビビってる。
キーファー子爵がネッサ嬢をいたわるように言葉を紡ぐ。
「ネッサがうちへ来たのは六年ほど前でした。実の両親は平民だったと聞いています」
「ネッサ嬢、相違ないか?」
「はい。両親は平民で、自然派教団の信徒でありました。そのために逮捕されて、私が孤児となったためにケイン子爵家に身を寄せることになりました」
「ふむ、六年前?」
何だろう。
お父様は年が気になるのか?
「ノア警務大臣、六年前に自然派教団の信徒だからという理由で逮捕したという事例はあったか?」
「ウートレイド王国が始まってこの方、信教を理由に逮捕したケースなどございません」
「ふーん、まあそうだよね」
「う、ウソだ!」
「ウソではない。宗教の弾圧が許されるなら、自然派教団などとうにこの世から姿を消している」
もっともなことだ。
すると?
「ネッサ嬢の実の両親が逮捕されて帰らなかったということなら、大きな事件でも起こしたのではないか? 過去の記録を調べれば判明するが」
「大体ネッサちゃんの両親が逮捕されたってのは事実なん?」
「えっ……わからない。そこを疑ったことはなかった」
「ネッサちゃんや実の御両親は、ネッサちゃんが本来の聖女であることは知ってたん?」
「知っていた」
「じゃあネッサちゃんには貴族の教育を受けさせておけっていう、何らかの思惑が働いたんじゃないの? キーファーさんどう思う?」
首をかしげる子爵。
「……そういえば初めてネッサを預かった時、聖女だから大切に養育せよと言われました」
「子爵、自然派教団にそなたより高位の貴族はいるか?」
「フューラー以外ということならばおりません」
「ならば聖女パルフェの推測が正しそうだな」
ネッサ嬢が本来ならばもっといい生活のできる聖女と知って不憫になった両親。
どこかでネッサ嬢を有効利用するために、上流の知識と振る舞いを身につけさせたい教団。
両者の思惑で貴族であるキーファー子爵の元に養子として出されたということか。
両親への思いに踏ん切りを付けさせるために、逮捕されたとウソを吐いたことはあり得る。
「子爵もそれ以上のことは知らんのだな?」
「知りません」
「まあよかろう。フューラーとは、自然派教団のトップのことだな?」
「さようです」
「何者だ?」
「さ、それが……。いつも仮面を被っておりまして、私も素顔を知らぬのです。言葉は柔らかなのですが威厳を伴っており、正直似た人物にも心当たりがありません」
「ふむ、そうか」
「ネッサちゃんもフューラーに会ったことある?」
「ああ」
「言葉遣いでおかしいと思ったことない?」
聖女様はフューラーが外国人と疑っているのか?
「いや、特には」
「ふーん、じゃあ少なくとも共通語文化圏の人の可能性が高いか」
「聖女パルフェは思うところあったのか?」
「あの秘密兵器のマント。色は違うけど、帝国騎士のものに感じが似てるなーと思ったんだ。帝国では軍事的な魔道具の研究が進んでるって聞くから、あっちで開発されたものが持ち込まれたとすると違和感ないじゃん?」
「帝国だと……?」
北の軍事大国であるミナスガイエス帝国か。
確かに帝国人だと母語が帝国語だから、共通語を話せばアクセントのおかしいところがあるかもしれない。
「子爵、あのマントはどこから持ち込まれたものだかわからんか?」
「申し訳ありません。私も受け取っただけです」
「結構な魔道具だよ。軍事機密なのかもしれないな。とゆーことはパクっても文句言われないと思う」
「パクれるか?」
「わかんない。魔法陣自体はふつーだった。魔力の通りを良くするために細いとこをなくそうとしてるんだろうなってことくらい。刺繍の仕方も魔力を通しやすくする意図が感じられるけど、やっぱそれだけじゃあのマントが機能する説明がつかないな。刺繍糸かベースになってる布か、あるいはその両方かに秘密があるよ」
「ではあの刺繍糸と布が両方手に入ればパクれるわけだな?」
「パクれるパクれる! 学院で暇な時研究するから任せて」
パクるの何の、盗賊と悪徳商人の会話みたいだ。
とても王と聖女の会話に思えないなあ。
お母様も呆れてるけど。
「陛下もパルフェちゃんもいい加減になさいませ」
「う、うむ」
「ごめんなさーい」
ド真ん中を通した。
お母様最強。
「しかし秘密兵器か。絶対に秘密のものならば、たかだか自然派教団の蜂起なんかに寄越すことはないと思うのだが」
「それなー。多分もっといいマントが手に入ることになったからいらなくなったんじゃないかな」
「もっといいマント?」
「例えばあのマントを装備した兵士が戦いや魔物退治に出陣したとするじゃん? 大きな欠点がある」
「欠点とは?」
「魔法による支援が受けられないことですよね」
「そうそう。殿下正解」
聖女様に褒められた。
とても嬉しい。
お父様が驚いているのは、ボクが横から口を出したからだろうか?
それとも発言の内容が的確だったからだろうか?
「個人対個人の戦いならあのマントは強いよ。でも外からの魔法を全部カットしちゃうじゃん? とゆーことは回復魔法も補助魔法も受けられない。チーム戦や団体戦に向いてる装備品だとは思わないな」
「その辺を改良した魔法陣の新型マントがあると、聖女パルフェは見るわけか?」
「まあそう。マントとは限らないけど」
「ふむう。聖女パルフェなら改良魔法陣も作れるか?」
「少なくともあれよりマシな魔法陣は組める。でも糸だか布だかのスペックがわかんないと、要求される魔力の容量が決められないから何もできないよ」
「あのマントを知りながら研究を怠るのは怠惰としか言えぬな。よし、素材の秘密については全力で解明させよう。その後は頼む」
「やたっ! 王様ありがとう!」
つまり実用的魔道具の再現か。
ボクの望んでいるクラブ活動に近付いてきたぞ。
刺繍クラブとのコラボ企画になるかもしれないな。




