第74話:楽しいの基準が物騒寄り
――――――――――建国祭前日、王都聖教会本部礼拝堂にて。マイク視点。
「ふんふーん、次の方どーぞー」
聖女パルフェが機嫌よく癒しの施しを行っている。
聖女パルフェ曰く、癒し手のお姉さんの中には聖女パルフェとほとんど効果変わらないくらいのヒールの使い手もいるとのこと。
でも患者の満足度は聖女に癒してもらった方が上なのだろう。
聖女パルフェに施術してもらいたがる人は、他の癒し手に比べると明らかに多い。
「あっ、じっちゃん」
「久しぶりだな、聖女殿」
背筋のピンと伸びた老年の紳士は、ドランスフィールド侯爵家の前当主フェリックス様だ。
大貴族中の大貴族で、王妃スカーレット様の実父として知られている。
が、聖女パルフェにかかるとじっちゃん扱いなんだな?
「じっちゃんは暇そーだね。建国祭の準備で皆忙しいんじゃないの?」
「まあわしのような隠居以外はな。忙しいのは聖教会も同じだと思うが」
「聖教会で忙しいのは偉い人だけなんだよ。あたしにはあまり関係ないの」
アハハと笑い合う。
聖女は一番偉いんだってば。
「特に悪いところなさそうだね。全体にヒールかけとこうか」
「うむ、お願いする」
「ヒール!」
さすがに建国祭の前日ともなると患者の数は多くない。
常連で顔のよく知られている大貴族フェリックス様がいると、さすがに他の患者も遠慮して他の癒し手のところに行くなあ。
「クインシー殿下が、明日は聖女様に会えますね、嬉しいですと言ってましたぞ」
「ここのところ建国祭関係で何となくバタついてて、殿下にも会えてなかったな」
二学期終業後の冬休みは、皆の意識が建国祭一色になる。
そのためなかなか魔法クラブにも行けないのだ。
聖女様だって忙しくないなんていってるけど、細々した用が結構入ってるじゃないか。
ん? 何だろう、この声は?
『パルフェさん、ネッサだ。自然派教団のフューラーから秘密兵器が届いた。教団は明日の建国祭で蜂起する』
「何だと!」
「じっちゃん、落ち着きなってば。血圧上がるよ」
聖女パルフェは悠然と周りを見渡している。
今のネッサ嬢からの伝達の魔法を聞いてたのは、どうやらオレ達だけのようだ。
周りの人々には聞こえていない。
あ、フェリックス様の大声を不審に思ったか、ゲラシウス様が来た。
「どうかされましたかな?」
「今、学院の同級生から魔法で連絡があってさ」
「聖女殿、どういうことなのだ?」
「疑問はあるだろうけど、黙って聞いててね。自然派教団の中に過激な一派があるけど、そんな人ばかりじゃないんだ。今連絡をくれたのはケイン子爵家の令嬢ネッサちゃん。自然派教団の信徒だよ。でも過激派じゃないから、あたしに教団が蜂起するという情報を寄越してくれた。ここまでいいかな?」
全員が頷く。
あ、ゲラシウス様驚いてるな。
「建国祭で好き勝手暴れられちゃかなわん。今日の内に決着つけよう。あたしは今からネッサちゃん家に遊びに行って様子見てくるよ」
「狂信者どもであるぞ。聖騎士を数名伴うがいいである」
「いや、初手から警戒させちゃうと何も探れないからいらない。道案内にマイク君だけ連れてく」
うおい! オレの了解も取ってくれ!
「じっちゃんは王宮へ行って、近衛兵と宮廷魔道士をすぐ動かせるよう、そして迅速に憲兵にも情報が共有されるようにしといてくれって、陛下に伝えてくれる? でも即兵を動かすのはやめて。あたしの方でわかったことがあったらさっきの伝達の魔法を飛ばすか、そうでなきゃ直接あたしが王宮に行くから」
「わかった、任せよ!」
「ゲラシウスのおっちゃんは聖教会幹部に今の話しといてね。聖騎士に集合かけていつでも出動できるように。でも聖騎士が勝手に動くのはダメ。あたしや王宮からの連絡か、憲兵の要請かに従って」
「わかったである」
「さて、マイク君。ネッサちゃん家遊びに行こうか」
「オレに選択の余地はないんだな?」
「あるわけないじゃん、そんなもん」
ケラケラ笑う聖女パルフェに釣られて、こっちまで笑ってしまう。
えらいことになったなあ。
◇
フワリとケイン子爵家邸の前に着地する。
鮮やかな飛行魔法だなあ。
門番に挨拶する聖女パルフェ。
「こんにちはー」
「見事な飛行魔法だ。いいものを見た。君が聖女パルフェだね?」
「そうそう、よろしくね。にこっ。こっちはスイフト男爵家のマイク君だよ。遊びに来たんだ。ネッサちゃんいる?」
「お嬢様に、もし聖女様が来たらすぐ通してくれって言われてるんだ」
「そーだったか。ありがとうございまーす……お屋敷少し騒がしい感じしない?」
「つい先ほどからこうなんだ。野良ネコでも入り込んだのか……」
「あっ、パルフェさん!」
ネッサ嬢ともう一人壮年の男性(身なりから察するに養父の子爵様だろう)が、屋敷の中から飛び出してきた。
使用人達に追われている?
「ネッサちゃんどうした。鬼ごっこ? あたしも混ぜてよ」
「パルフェさん、逃げてくれ!」
「お前ら御主人様に何をする! 控えろ!」
門番は味方のようだが、この状況は?
「せっかく遊びに来たあたしを追い返そうとはいい度胸だ。文句があったらあとで聞く。バインド!」
目の血走っている使用人達一〇人ほどがバタバタ倒れていく。
ええ? 何これ。
聖女パルフェの魔法だろうけど、正体は不明だ。
「こ、この有様は?」
「その前に、門番さんは味方でいいのかな?」
「ああ」
「邸内にはまだ他に不届きなやつらがいる?」
「もういない。助かったよ。ありがとう」
とりあえず一安心でいいのか?
魔法って万能だなあ。
「今の魔法は麻痺と沈黙を同時にかけるやつなんだ。倒れてる人達は、何もしなきゃ一時間以上はこのままだよ。何があったか聞かせてくれる?」
「わかった。こちらケイン子爵キーファー、父だ」
「聖女パルフェだよ。にこっ」
「スイフト男爵家の三男マイクと申します」
「あ、ああ。すまないね」
落ち着かなさげな子爵。
どう説明しようかと考えてるんだろうな。
オレ達はネッサ嬢からある程度の話は聞いていますよ。
「自然派教団から一斉蜂起の命令が来たんだ。父はやってられんと言うんだが、使用人達が納得しなくて」
「ほ、蜂起……」
「あれ、使用人全員が自然派教団の信徒?」
「最近雇った門番以外は」
「おおう、そーだったのか」
自然派教団の一種の巣窟じゃないか。
門番が呆然としてるぞ。
しかし子爵とネッサ嬢は蜂起に消極的だった?
「さて、メインディッシュをいただこうじゃないか」
「メインディッシュって」
「門番さんも聞いててね。明日の建国祭に合わせて、自然派教団の蜂起があるんだそーな」
「えっ、明日? 大変じゃないか!」
「まあそう。でも自然派教団にも過激じゃない人がいて、子爵やネッサちゃんは穏健派、でも他の使用人は過激派ってことで合ってる?」
「大体そういうことだ」
「人生いろんなことがあるもんだ」
目を白黒させる門番。
「子爵とネッサちゃんは、なるたけ被害を大きくしない方がいいっていう考え方でいいんだね?」
「ああ」
「教団を裏切ることになるけど、それは?」
「「構わない」」
「よーし、今から飛行魔法で王宮連れてくから用意して。偉い人の前で状況を説明してもらう」
「わ、わかった」
「門番さんはこの使用人連中を全員ふん縛って、憲兵に突き出しといてくださーい。憲兵に自然派教団の蜂起について話してもいいけど、上から指示があるまで騒いだり妄動したりは絶対すんなって言っといてね。一網打尽にしないと禍根が残るわ」
「了解だ」
「さて、王宮にも声送っとくか。楽しくなってきたぞー!」
聖女パルフェの楽しいの基準は物騒寄りだ。




