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辺境生まれのトンデモ聖女は、王都の生活を満喫します  作者: 満原こもじ


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第58話:夏の勉強会

 ――――――――――エインズワース公爵家邸にて。クインシー視点。


「いや、そいつは不規則活用する動詞だから」

「あっ、そうだった」


 学院高等部は夏季休業中であっても、課外活動があるために校舎は基本的に開放されている。

 でも今日は夏の宵祭りの日なので閉鎖されているのだ。

 ボクも宵祭りに行きたいのだけれど、夜の街中は警備が難しいということで、ユージェニー嬢とともに却下された。

 王位継承権保持者という立場上仕方ないとはいえ、残念ではある。


『では皆さん、うちにおいでくださるわけにはまいりませんか?』

『行く行く!』

『まあ、喜ばしいこと。お待ちしておりますね』


 これが一昨日のことだ。

 魔法クラブの一年生は、夏休み中も二日に一度は集まることにしている。

 宵祭り当日の今日どうするかということになって、ユージェニー嬢が申し出てくれたのだ。

 イベントの日は王宮も臨時の警戒体制になるから、呼ぶわけにいかない。

 ユージェニー嬢の提案はありがたかった。


「主格が二人称複数じゃん? それだとまた活用形が変わるんだよ」

「帝国語ややこしい」

「文法はマシだけどなー。ややこしいのは言い回し」


 何故か魔法関係ない勉強会になっているけれども、一学期の復習としてはいいかもしれない。

 ちなみに一学期のスコアは、聖女様ボクユージェニー嬢ネッサ嬢の順で総合トップテン入り、マイクも二十何位かだった。

 一番自分の成績に驚いていたのはマイクだったのがおかしい。

 来年最優秀クラスに入れるほどのスコアが取れるとは考えていなかったようで、すごく喜んでいた。


「でも努力する」

「おっ、マイク君やる気あるね」

「やればできるとわかったから」


 聖女様以外の四人に共通する選択科目は帝国語だ。

 でも一番帝国語に詳しいのが聖女様っておかしくないかな?


「パルフェ様、ここの意味がわからないんです」

「これ直訳すると『小人』なんだけどさ。スラングで『できそこない』とか『未熟者』の意味になるんだ」

「あっ、なるほど! だったら通じます」

「ひょっとしてこちらもスラングですか?」

「そうそう。『スズメが飛ばない内に』だと何のことやらじゃん? 『すぐさま』くらいの意味だよ」


 帝国語って変な言い回しが多いんだな。

 聖女様はよく知っていてすごい。

 ボクの従者イヴが聞く。


「聖女様は帝国語を取っていらっしゃらないんですよね?」

「うん」

「そんなにお詳しいのに、何故ですか?」

「帝国語は特に学ぶことがないからかな」

「選択科目は何を取ってらっしゃるんでしたっけ?」

「経営学、哲学、薬学、刺繍、声楽だよ」

「聖女なのに神学を取ってないんだ」

「あっ、本当ですね」

「もーそれ皆に突っ込まれるんだよな。神学あんまり面白そーでもためになりそーでもないからだよ」

「言ってることが聖女らしくない」

「いいじゃんねえ?」


 ケラケラと笑う聖女様は可愛らしいなあ。

 哲学や薬学はわからないこともないけれど、領主の跡取りや商人が学ぶことの多い経営学を選択しているのは謎だ。

 神学よりは面白いしためになるという、聖女様の判断だろうか。

 経営学はボクも取ってるから、講義で一緒になれるのは嬉しいけど。


 ネッサ嬢が言う。


「パルフェさんは神学を重視しないんですか?」

「役に立たない気はしてるねえ。」

「怒られませんか? その、聖教会の方とかに」

「罰当たり言われたわ。でも罰なんか当たんないわ。あたしは初代聖女様の残した日記やメモも見てるんだけどさ」


 初代聖女様の日記やメモだって?

 これは興味ある内容だな。

 思わず身を乗り出す。


「国防結界張るのでもかなり試行錯誤しててさ。愚痴言ったり悪態吐いたり、すごく人間らしい人だよ。後世神様に準じた存在として崇められてるなんて知ったら、恥ずかしがってメッチャ悶絶すると思う」

「そうなんですね」

「ネッサちゃんは神学取ってるんだっけ?」

「はい」


 聖女様がいたずらっぽい表情になる。


「ネッサちゃんこそ現実主義的な考え方してるのに、神学選択してるのは何でなん? 何かの役に立つと考えてるんだ?」

「現実問題として神様を信じている人が多いからです」

「おおう、そーきたか」

「そろそろ休憩いたしませんか?」


 ユージェニー嬢の声に空気が和らぐ。

 今までもさほど張りつめた雰囲気というわけではなかったけれども。

 のどに優しいぬるめのお茶をいただきながら言う。


「魔法クラブについてですけれども、二学期はどうします?」


 何の気なしに聞いてみただけだ。

 でも聖女様には確固としたビジョンがあったらしい。


「とにかく先輩達は全員宮廷魔道士希望のようだから、全力でサポートして合格してもらおう」

「えっ? 意外ですね」


 てっきり先輩方は宮廷魔道士の勉強を重視。

 一年生は宮廷魔道士を第一志望としている者がいないから、聖女様を中心に広く魔法を学ぶという、二重体制になるんだろうと思っていた。

 聖女様は先輩の後押しをするつもりなんだな。

 どうしてだろう?


「あたし達の意思の通じやすい先輩がいると、宮廷魔道士に言うこと聞かせやすくなりそーだからね。洗脳するのだ」

「洗脳って」

「私も似たようなことを考えていました」

「ネッサちゃんもか。マジで現実主義者だな」


 アハハと笑い合う。

 ところで洗脳って?


「いやいや、洗脳ってのはあながち冗談でもなくてさ。魔法クラブの部員数が少なくなってるってことは、イコール宮廷魔道士の志望者が減ってるってことじゃん? あたしはもっと便利な魔道具がたくさんある世の中になってもらいたいの」

「わかります。ボクも魔道具の研究がしたいです」


 現在市民の間にまで一般的になってる魔道具というと、照明の魔道具くらいだ。

 もっといろいろな魔道具がある、豊かな時代にならないものか。


「魔道具の研究環境が一番整ってるのはやっぱ宮廷魔道士だからさ。なのに宮廷魔道士の数が減る、レベルが下がるではどーにもなんない。だから先輩方には頑張ってもらいたいんだよ」

「聖女様、魔法属性を別個に扱えるようになる魔道具が欲しいって言ってたけど」

「欲しいねえ」

「聖属性を扱えるなら、聖女が必要なくなるってことだろう?」

「いらないよ、聖女なんか」


 これは驚きだ。

 聖女様自身がそれを言うのか。

 ネッサ嬢が目を真ん丸にしている。


「必要なのは人々の生活を安心安全なものにする国防結界の維持だよ。これまでは単独聖属性を持つ聖女の存在が結界の維持に必要だったかもしれないけど、今後はそうでなくてもいいじゃん?」

「聖女様は聖女でなくてもいいんですの?」

「そりゃあたしはやりたくて聖女やってるわけじゃないし。まーでも少なくともあたしはお高いお給料に納得はしてるよ。でも歴代の聖女はどうだったろうね。赤ちゃんの内に聖教会に連れてこられて、死ぬまで聖女でしょ? 他の生き方もあったろうに」


 聖女の生活か。

 そんなことは考えたことがなかった。

 同じく自分の生活を選べない、王族と似た境遇だ。


「だからあたしは聖女であることに拘ってはいないよ。いつ辞めても構わない」

「「「「「……」」」」」

「退職金をたくさん出してくれさえすれば」

「そうですよねっ!」

「あれ? そんな勢い込んで肯定されるとは。今日はネッサちゃんとの距離が随分縮まった気がするな」


 再びの笑い。

 聖女様は魔法の実力の他にもたくさんの才能があるから、もし聖女でなくなっても様々な未来があり得るんだろうな。

 それこそボクの妃であるとか。


「とにかく今できることをやろうよ」

「了解です」


 さて、宵祭りの時間までもうひと頑張りか。

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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