第37話:建国祭の光と影その1
――――――――――建国祭の日、王宮にて。アナスタシウス大司教視点。
混雑を避けて、早めに王宮にやって来た。
最近庶民の間での聖女パルフェ人気は大変なものだ。
今日は建国祭とあって、いやが上にもボルテージが高まる。
「あっ、クインシー殿下、じっちゃん。こんにちはー」
「聖女様!」「聖女殿!」
クインシー殿下とフェリックス殿だ。
殿下自らお出迎えとは。
「揉みくちゃになってなかなか到着しないのではないかと、心配していたのですぞ」
「おっちゃんもそう考えたらしくて、早めに行こうって。できる男は違うなー」
パルフェに褒められるとぞわっとするのだが。
「聖女様。手にお持ちのものは何ですか?」
「これ? 聖女装備ネギソード」
「ネギソード?」
ソードではないというのに。
フェリックス様が笑う。
「殿下、これは先代の聖女様もお使いになっていた杖ですぞ。初代聖女が作ったと言われているものです」
「聖教会に伝わっているものです。代々の聖女が大体使用したと伝えられています」
「魔力補正があるらしいんだ。祝福かけるのに楽かもしれないから、使ってみようかと思って」
「そうなのですね」
「ところで何でネギの形なの? これってネギだよね?」
本気で不思議がっているようだ。
さもありなん。
「初代聖女はネギが好物だったという言い伝えがある。だからではないか?」
「そーなん? そーいやネギがどうこうってメモもあったな」
「ん? 初代聖女の残したメモを読んだことがあるのか?」
「うん。師匠の持ってた写しだけど」
漂泊の賢者フースーヤ翁は、魔道研究のために初代聖女のメモの写しまで取っていたのか。
だからパルフェは奇跡的な回復魔法リザレクションを使えるのだな。
「臭みのある肉でもネギがあればおいしく食べられるとか」
「あれ? 初代様はあんまりいいお肉を食べてなかったみたいだな。……ははーん、大体想像はついたぞ?」
「何が?」
「自分で魔物を狩って食べるってことはしてなかったんだなと」
「普通はしないだろう」
「結界の基石で囲う前は魔物だらけだったんでしょ? じゃあ当時の肉って魔物肉のことだったと思うよ」
言われてみれば。
では何故?
「仮に初代様があたしくらいの魔力量だったとするじゃん? とするとおいしい草食魔獣に直接攻撃魔法ぶつけると、爆散しちゃって食べるとこほとんど残んないんだよ」
「それほどの威力になるのか?」
「なっちゃう」
それでパルフェは肉狩りもとい魔物退治の聖務で直接攻撃魔法を使わないのか。
攻撃魔法が不得意とはどういうことかと思ったが。
「草食魔獣は防御力高くて強いやついないからね」
「パルフェのナイフを飛ばす技はオリジナルなのか?」
「違うよ。師匠に教わったんだ。ただ風の付与魔法を重ねるのはあたしだけかもしれないな。他の人がやってるの見たことない」
「ふうむ」
全属性を使いこなしたと伝えられる初代聖女も、得意不得意があったということか。
「初代様は魔法の研究者じゃん? お肉狙い冒険者のあたしとは違うよ」
クインシー殿下とフェリックス殿も頷く。
初代聖女と比較される向きがあるが、パルフェ自身は違うと言いたいのかもしれない。
「ハクション!」
「あっ、殿下ごめんよ。寒かったね。暖かいところ行こう」
王宮の中へ。
「あっ、王様、スカーレットさんこんにちはー」
「まあまあ、パルフェちゃんいらっしゃい」
スカーレット王妃殿下に抱きつきにいくパルフェ。
私と兄陛下の仲裁をしてから、妃殿下の中でパルフェの評価がやたらと高いとは聞くが、それにしても遠慮がないなあ。
「アナスタシウス、外はどうだ?」
「人が多いですね。ざっと見ですが、去年の倍近い人出があるのではないかと」
「今年は天気がいいからな。しかし倍か」
「ある程度予想されていたことで、聖騎士団員も最低限の聖教会の守り以外は憲兵隊の手伝いに出しています。が、混雑は予想以上になりそうです。近衛兵からも人員を出していただければと思います」
「全員出しちゃってもいいよ。ここはあたしと宮廷魔道士いれば大丈夫だし」
王家の影もいるしな。
そもそも王族は今日王宮から出ないので、近衛兵はいなくてもいい。
兄陛下が頷く。
「ランスロット近衛兵長!」
「はっ、これに」
「王宮の守りはいらぬ。憲兵隊及び聖騎士団と連絡を取り、市中の警備を担当せよ」
「了解であります!」
ウートレイド王国最強の騎士が踵を返す。
忠誠心に並ぶ者なき男ランスロットか。
スカーレット王妃殿下が小声で言う。
「ランスロット近衛兵長の御長男もクインシーやパルフェちゃんと同い年ですのよ」
「そーなの? じゃあ学院高等部で会うかな?」
「進学見込みと聞いています。きっと会えますよ」
「楽しみだなー。息子さんも今の近衛兵長さんみたいにデカい人かな?」
「聖女様は身体の大きい人が好みですか?」
「ではなくてさ。あたしも身体は小さいから、デカいやつには負けたくないんだ」
クインシー殿下がホッとしている。
本当にパルフェのことが気になっているみたいだなあ。
いいことなのか悪いことなのか、私自身複雑な気持ちなのだが。
「エインズワース公爵家の次女ユージェニー嬢も同学年だ」
「ゲラシウス殿の長女も」
「お姉ちゃんの妹が同い年ってのは聞いたことあるな。ゲラシウスのおっちゃんの娘さんには会ったことあるよ。これって偶然じゃないんだよね?」
兄陛下と王妃殿下が頷く。
第一王子であるクインシー殿下が生まれた年だ。
子を得て殿下とお近付きになるのを目論む家は多かったろう。
「ふーん、学院ちょっと楽しみになってきたなー」
「今までは楽しみではなかったのですか?」
「お姉ちゃん、シスター・ジョセフィンが行儀作法を覚えろ覚えろってうるさくて。一科目ダメでも他で挽回すればいいじゃんねえ?」
「各科目には最低習得基準点、通称赤点が設定されているんだ。一科目でも赤点があって、追試でも合格をもらえないと問答無用で落第だぞ?」
「マジか。行儀作法の先生と仲良くなって、おいしいお肉を付け届けしないと」
アハハと笑い合うが、パルフェは真剣っぽいな。
ズルはダメだ。
「でも聖女様と同期で高等部に編入できるのはよかったです。あまり知り合いがいないし、初等部からの人間関係が完成してしまっているでしょうから」
クインシー殿下はナイーブだな。
気にする必要はないと思うが。
「え? 心配いらないぞ?」
「そうですか?」
「そうそう。王子様の側に寄ってくるやつなんて多いに決まってる。いい意味でも悪い意味でも」
頷かざるを得ない。
目が治癒するまでクインシー殿下は日陰の存在だった。
それが一躍王太子大本命だ。
殿下には男女関係なく目をかけられたいに決まってる。
一方で悪意を持って近付く者もいるだろう。
「さっきの近衛兵長さんの息子さんっていうのも、わざわざスカーレットさんが口にするくらいだから、殿下の側近候補なんでしょ?」
「そうですわね」
「ほらほら、大丈夫だって。あたしもいるし」
「は、はい」
「まーでも殿下を気に留めない人には興味あるね」
「それは?」
「殿下と親しくなることにメリットを感じてないのか、それとも将来の生き方が決まってる人なんじゃないかな。そーゆーオリジナルな人は面白いこと知ってたりしそうだから、仲良くなりたい」
パルフェの視点は独特だ。
だがクインシー殿下との距離を詰めようとしない人間と仲良くしたいというのは、殿下の婚約者という立場からも合格点だろう。
しかし本当にパルフェがクインシー殿下の婚約者候補筆頭なのか。
心配だなあ。




