第31話:帰還
――――――――――聖女パルフェへの使いが出されて一三日後、イルートのハンターギルドにて。アナスタシウス元大司教視点。
「嬢ちゃん、アナさん、本当にありがたいぜ」
「いや、これしきどうということはない」
「さすがあたしだなー。もっと尊敬していいんだよ?」
皆でアハハと笑い合う。
ハンターギルドの雰囲気が明るくなったのには理由がある。
私とパルフェによる回復魔法の講義を始めて一月半、ヒールを完全にマスターした者が何と三人もいるのだ。
教わる側が必死だったとはいえ、この習得スピードはかなり速い。
さらに近日中にマスターしそうな者が数人いる。
非常に大きな成果だ。
「皆が回復魔法使えりゃ安心度が違うわ。お葬式が確実に減りそう。葬儀屋さんから文句が来るかも」
「おいおい、嬢ちゃん縁起でもねえよ」
「私はもっとお役に立てますね」
「うん。ギルドにとっても有益なことだよ。自信持っていい」
ヒールをマスターした内の一人は受付嬢だった。
しかもどうやら聖属性持ちらしく、回復の効果がなかなか高い。
パルフェの言う通り、こういう人材がギルドに常在していると安心感が全く違う。
「ウートレイド王都コロナリアのように、無料の癒し手がおらぬからな。ここではケガが本当に怖い」
「イルートではケガしたら薬草が基本なんだ」
「うーん、薬草は即効性がないからな? せめて魔法薬か……イルートにも魔法医はいるんでしょ?」
「領主様のお抱え魔法医がいるはずだ。あとは流れの胡散臭いやつらだな。本物の魔法医かどうかはわからねえ」
「あ、魔法医の組合はないんだ? じゃあ受付嬢さんが料金とって治療して、半分自分のもの半分ギルドに納めるってことにすれば、ギルドの経営が安定するねえ」
「嬢ちゃんのヒールはタダじゃねえか」
「あたしはいつもギルドにいるわけじゃないもん。いや、あたしもう聖女じゃないんだった。これからはお金もらおうかな。日当五日分だ!」
「勘弁してくれよ!」
「いいや、許さん!」
再び皆で大笑いだ。
しかし例えば骨折したら元通りに動かせるようになるまで三ヶ月はかかるだろう。
それが瞬時に治癒して明日から働けるとなれば、日当五日分ってとんでもなく安くないか?
「ヒールを習得した人は教える側に回ってねー」
「わかりました」
「全員習得を目指すぞお!」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
意気軒昂だ。
目標のある人間というものは目の輝きが違うものだな。
自分がその手助けをできているのは嬉しくなる。
「全員がヒールを使えれば、クエスト中のケガによる死亡率は激減するだろう。F級卒業の条件をヒール習得にすればいいんじゃないか」
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」
「えっ、とかゆーな。もう全員魔力の流れは感じられるようになってるじゃん? 必ず覚えられるから」
うむ、戸惑っている者が多い。
しかし無茶な話では全くないな。
本当はソーサリーワードの繋がりが理解できればいいのだが。
まあそこまでの魔道理論はムリでも、ヒールくらいなら丸暗記で十分だ。
時間はかかっても、パルフェの言う通りヒールの全員習得は十分に可能であろう。
「たのもう!」
ん? 誰か来たな。
あの軽鎧は、ウートレイドの伝令兵じゃないか。
「アナスタシウス殿下、聖女パルフェ様はおられぬか!」
「はーい、いますよ!」
「ウートレイドの近衛だな? 何用だ?」
「ああ、よかった!」
頽れる伝令兵。
相当疲弊しているようだが?
「ヒール! どうしたの?」
「せ、聖女様。大変なのです。国防結界の基石の残存魔力量が枯渇寸前なのです。結界も崩壊するのではないかと……」
「どういうことだ! シスター・ジョセフィンがいるであろう?」
パルフェの国外追放処分は、シスター・ジョセフィンによる魔力供与で国防結界を維持できることが前提条件だった。
何故その前提が崩れた?
結界が崩壊するというのが本当ならば一大事だ。
一刻も早く帰国せねばならぬ。
「そ、それがシスター・ジョセフィンの魔力は純粋な聖属性でないため、国防結界を維持することはできないそうで……」
「パルフェ以前は問題がなかっただろうが!」
「詳しいことはわかりませんが、漂泊の賢者フースーヤがそう仰ったらしいです」
「フースーヤ翁が?」
フースーヤ翁がわざわざ王都コロナリアまで来て忠告しているのならば事実だ。
しかしどうして……。
パルフェが頬をポリポリ掻く。
「んー、いやあたしがまだ聖女になる前だけどさ。時々エストラントの基石から魔力供与してたんだよ。月一くらいの間隔で。それで結界を維持できてたのかもしれないな」
エストラントから魔力供与だと?
賢者フースーヤはそれを知っていたから、パルフェがイザコザに巻き込まれるのを恐れ、王都に行くなと指示を出したのか。
全てが繋がった。
何ということだ!
「何故早く言わなかったんだ!」
「そんなこと言われても。あたしだって国防結界の詳しい仕組みは知らんもん。お姉ちゃんの魔力で維持できるって言われりゃそうかなーって思うじゃん。あたしのせいにされたって困っちゃう」
「くっ!」
パルフェをハテレス辺境区から連れ出した私のせいか?
いや、責任問題などあとだ。
「私達がウートレイドを出国して約三ヶ月だ。国防結界にどれほど時間の余裕があるかわかるか?」
「正確なことはわかりません。小官が使いに出たのが一三日前です。その時にもう蓄えられている魔力は一ヶ月分も残ってないという話でした」
「何だ。残り半月分もあるじゃん。余裕だなー」
「「「「「「「「半月分もないんだよ!」」」」」」」」
気持ちいいくらいの総ツッコミだ。
のん気なパルフェに喝を入れてくれ。
ハンター達が言う。
「嬢ちゃん、イルートに来てくれてありがとうよ。ハンターギルドは変わった。全員が生き生きしてるだろう?」
「そお? 魔法のスパルタ教育から逃れられそうで生き生きしてるんじゃない?」
「そんなことねえよ! 早く帰って、結界を安定させてくれよ。ウートレイドの結界が壊れると世界がメチャクチャになっちまうって話じゃねえか」
「つってもあたし国外追放処分中なんだってば」
「処分は解かれました。そしてこれはフースーヤ様からの書簡です」
「じっちゃんから? どれどれ」
パルフェが手紙を開封する。
『こりゃ、パルフェ! ワシがハテレスから出るなと言うておいたのに、何事であるか! 説教してやるゆえ、早うコロナリアへ戻って来い! フースーヤ』
「ヤベー、じっちゃんすげえ怒ってるわ。帰りたくないなー……ん?」
『追伸:面白い魔法を仕入れたから教えてつかわす』
「あれ、ちょっと楽しみなことも書いてあるな」
「見事なアメとムチだな」
「じっちゃんが面白いって言うくらいだと相当だぞ? どんな魔法だろ?」
パルフェの興味が完全に魔法の方へ向かってしまった。
しかしフースーヤ翁も国防結界のことを一言も書いてないじゃないか。
といっても、使者が話すこと以上の事実はないからか。
「じゃあコロナリアへ帰ろうか。兵士さんはウマで来たの?」
「はい」
「ウマは飛行魔法じゃ連れていけないな。あげちゃっていい?」
「構わぬ。急いで帰る方が大事だ」
「じゃ、ギルドにウマ寄付するから、売るなり飼うなりしてね」
「おう、また来いよ」
「イルートのハンターギルドを忘れんな!」
「ハンターギルドのことは忘れても、ギガトードのおいしさは決して忘れないよ。あいるびーばーっく! またね!」
飛行魔法でびゅーんとウートレイド王都コロナリアへ。




