189.下手に隠すと逆に怪しまれる
<フォニー視点>
以前洞窟でスキルを全開で使用したら洞窟自体が崩落してしまった。という事例がありますので、仕掛けるトラップは慎重に考える必要があります。
見た所、本当にただ掘り進めましたって感じの穴で補強とか一切されてないですし。
要は侵入者を追い返せればいいんですよね。
ならわざわざ殺傷力の高いものである必要はありません。
以前町内会で回ってきた資料にはこんなのが載ってました。
泥棒撃退マニュアル
その1:音や光を発して「見つけられた!」と思わせること
その2:目立つペイントや臭いを付けて「こいつ犯罪者です」と示すこと
その3:絶望的なまでに「あ、この家は入ったらマズい奴だ」と思わせること
1と2は兎も角、3は何でしょうね。
ぱっと思い浮かぶのはゴミ屋敷でしょうか。
普通に足を踏み入れるのも躊躇われますし、そもそも金目の物があるとも思えないので泥棒する気もおきません。
あ、ということは大金を隠すならゴミ屋敷が正解でしょうか。
……進んでやりたいとは思いませんが。
それにどこに隠したのか忘れそうですし、やっぱり駄目ですね。
それはともかく。
私が設置するとしたら『その1』ですね。
あ、その前に。
「この穴に侵入防止のトラップを仕掛けようかと思うんですけど良いですか?
えっと……」
「ん、あぁそう言えば名乗ってなかったな。俺はカマーズだ。
トラップについてもぜひ頼みたい。俺が間違って踏み込む危険性も無いし」
許可を貰ったので早速仕掛けていきます。
まずは向こう側の出口に近い場所。
ここには警告の意味も込めてブザー音を鳴らすだけ。
踏んだら鳴るものと、胸の高さに通り抜けたら鳴るものの2つ。
普通の人は正面か足元のどちらか一方しか目につかないでしょう。
(ラキア君なら両方見つけてしまうんでしょうけど)
彼はレアケースです。
続く罠はちょっと攻撃的に耳をつんざく音や爆発音。
こんな音を聞いてまだ進もうとする人は意図してここに侵入してきたと判断して良いと思います。
なので最後はちょっと攻撃的に。それでいて穴に被害は出ない様に。
「カマーズさん。仕掛け終わりました」
「ありがとう。
しかし借りが出来てしまったな。何かあれば言ってくれ。喜んで協力しよう」
「はい」
と言っても今は特にお願いしたい事も無いので保留で。
後はこの壁だけど、外の穴を埋める時と違ってちゃんと見栄えも良くしたいですよね。
こういう時に相談する相手はコロンちゃんかな。
幸い今はログインしてるみたいですし聞いてみましょう。
すると苦言が返ってきました。
『壁役とは言うけど、壁と盾は別物よw』
ですよねぇ。
だけどそこはコロンちゃんです。
『今所要で街の外れに出てるから終わったらそっちに合流するわ。
お茶でも飲んで待っていて』
とのことなのでカマーズさんと雑談でもしながら待っていましょう。
ちなみにそのカマーズさんは肩まで海に浸かりながら水中で何かをしています。
よく見ると水中の壁が棚みたいになってるんですね。
「この辺りって他にも似たような家は沢山あるんですか?」
「いや、街の反対側の方には沢山住んでるぜ。こっち側に住んでるのは少数派だ。
なにせ魔神も近くに住んでるらしいからな。
新参者はまず来たがらない」
ほらよと出してくれたのは、野菜スティックならぬ海藻スティック。
これが魚人のおやつらしい。
試しに1本頂くと、歯ごたえのある味ノリって感じで噛めば噛むほど味が出てきますね。
病みつきになる味です。
カンカンッ
「えっ」
突然、穴の奥から石を叩くような音が聞こえてきました。
まさかあの男達が戻って来て私が埋めた場所を掘り返してるんでしょうか。
カマーズさんと顔を見合わせた私は穴の近くに移動して様子を窺う事にしました。
カマーズさんは水中に隠れて銛を構えています。
陸上に出るよりその方が強いのでしょう。
……ボロッ
耳を澄ませていると、どうやら開通したみたいです。
ということは次は私が設置した罠の出番ですが。
…………
反応が無い。まさか見破られて避けられた?
足音もない。
何者かが入って来てるのは確かなのですが、音が一切しません。
私が仕掛けたすべての罠がこうもあっさり回避されるとちょっと凹みますね。
でもそれだけ手練れだという証拠でもあります。
こうなったら穴から出た所を奇襲して取り押さえましょう。
(3……2……1……いまっ)
「ふっ」
「甘い!」
カキンッ!!
私の渾身の一撃は相手の構えた大楯に防がれました。
罠を回避してきたから斥候系だと考えましたが、前衛も出来るオールラウンダーでしたか。
だけど私も『十六夜』のアタッカー。
私の連撃を防ぎきれると思わないでくださいね。
「はぁっ!」
上からの振り下ろし。からの、脛を狙った払い。
衝撃波を伴う浸透撃!
まさかこれも上手く受け流しますか。
ならば!!
「って、フォニー。ストップ待って止まって」
突然相手からの待ったの声。
あれ、この声ってまさかコロンちゃん?
私は攻撃の手を止めて一歩後ろに下がりました。
よく見たら大楯も普段コロンちゃんが使ってるものです。
やっと攻撃の手が止まったと盾を横にずらして顔を出したのはやっぱりコロンちゃんでした。
「どうしてコロンちゃんがここに?」
「それはこっちのセリフなんだけど。
どうしてフォニーはダンジョンで待ち伏せしてたのよ」
「え、ここダンジョンじゃないですよ。カマーズさんのお宅です」
「そうなの!?
入口が明らかに『何か隠してます』って感じだったし、入ってみたらトラップだらけだから、てっきり隠しダンジョンだと思ったわ」
「あぁ~~」
なるほど、言われてみると確かにそう思えてきました。
「じゃあ仮にここを壁で塞いでも?」
「隠し扉か何かだと考えるでしょうね。手荒な奴なら壊して入ってくるかも」
私の言葉にすぐさっきの質問の理由がここなんだと気付いてくれました。
相変わらず頭の回転が速いです。
でも出て来た答えを聞いて問題が解決しないことも理解できました。
塞いでもダメ。かと言って開けっ放しにしておく訳にもいきませんし。
「こういう時はラキアに聞くと何か変な答えが返ってくるんじゃない?」
「なるほど?」
いやそこで納得してしまう私もどうかと思いますが。
そのラキア君は……あ、ログインしてますね。
メールを送ったらすぐに返信が来ました。
すぐに案が出てくる辺り流石です。
私はそういうの苦手だから尊敬します。
その案を採用しアイテムボックスから適当な木の板を取り出して表に注意書きを記載します。
「ラキアは何て言ってたの?」
「『猛毒ガス発生中。立ち入り禁止』って立て札を立てれば良いんじゃないかって」
「確かに。『通り抜け無用』じゃなくて良かったわ」
その古典落語、いや川柳?は中学の教科書にありましたね。
通るなって言ったつもりが逆に通行量が増えてしまう罠。
ともかくこれを見てわざわざ入ってこようと考える人は居ないでしょう。




