165.砂嵐の中で
アイテム整理を終え、雑談をしていたところで冒険者ギルド内にブザーが鳴り響いた。
どうやら何か事件のようだ。
この砂嵐で誰かの家が倒壊したとか? と思ったけど違った。
「皆さん大変です。先日の盗賊団がまた攻めて来たそうです。
動ける方は至急守備隊の応援に向かってください!」
駆け込んできたギルド職員の言葉を聞いてその場にいた冒険者たちは顔を顰めた。
その原因は襲撃そのものと言うよりも、この天候のせいだ。
「マジかよ。せめて嵐が過ぎてから来いよなぁ」
「今外に出たら髪がバッサバサになるんだけど」
「あのハゲ共、掴まえたら炎天下の砂漠に生き埋めにしてやる!」
物騒なことを言いながらテキパキと装備を整えた彼らは臆することなく砂嵐の中へと飛び出していった。
その後ろ姿はあっという間に見えなくなる。
あの思い切りの良さ。こういうことは今回が初めてではないんだろうな。
「よし、僕らも行こうか」
「はい」
「あまり気乗りはしないけど」
昨日の買い出しで揃えた、ターバン、マスク、ゴーグルの3点セットで頭部をガードして工事現場の人のようなツナギと長靴、手袋と完全に肌の露出をゼロにした装いに着替えた。
「この前見た映画の銀行強盗がこんな格好してたわ」
そんな感想を頂戴しつつ、僕らは冒険者ギルドの外に出た。
途端全身を横殴りの砂塵が襲う。
「気を抜くと吹き飛ばされそうだ」
「あ、ちょっと待って。ここをこうすれば」
コロンが何かするとさっきまでの暴風も砂塵も僕らを避けて行くようになった。
多分コロンの透明な盾で僕らの周りを隙間なく覆ったのかな。
お陰で凄く楽になった。
「ありがとうコロン」
「ん。道案内は任せるわよ」
「オッケー」
相変わらず1メートル先は砂嵐で視界が遮られているので慣れていない僕らでは西も東も分からない。
音を頼りにしようにも砂嵐がゴォゴォとうるさいので他に何も聞こえない。
じゃあどうやって襲撃の現場に向かうのかと言えば考えていることは2つ。
(未来が視えるなら過去だって視えるんじゃないかな)
むむむっと目に力を籠める。
普段モンスターと戦う時は相手の行動を先読みしようと意識してたからその逆。
僕達より先に出て行った冒険者たちがどっちに向かったのかを考えてそれを視ようとする。
すると。
(お、視えた)
「こっちみたい」
薄っすら半透明で走り去る冒険者たちの後姿を追いかけて僕達は通りを走り抜けた。
少しすると街の防壁が見えてきて、その上から魔法と思われる光が砂嵐に反射していた。
僕達も防壁の上に登ってみれば、街の守備隊の人と先ほどギルドを出て行った冒険者たちが街の外に向けて魔法や槍を放っていた。
敵の盗賊団の姿は砂嵐に隠れてほとんど見えないのに凄い。
「ラキア君。私達も加勢を」
「いや、僕らじゃこの状況で有効な攻撃手段が無いよ」
僕のボウガンもそうだし、フォニーの音にしても砂嵐に遮られて届かないだろう。
じゃあここまで来て何もすることが無いのかと言えばそうではない。
僕は守備隊で指揮を執ってる人に声を掛けた。
「あの、ここの防衛は皆さんだけで大丈夫ですか?」
「ん?あぁ。
この嵐だ。奴らの動きも鈍いしもう少ししたら諦めて引き下がるだろう。
全く、嵐なら防備が薄くなるとでも思ったのかね。
こちとらこれくらいの嵐は慣れてるってのに」
そんな頼もしい返事を聞けた僕は振り返ってフォニー達に移動するように促した。
「ここは皆さんに任せて僕達は別の仕事をしよう」
目指すは街の外。
襲撃してる盗賊団に見つからない様に少し離れた所まで防壁の上を移動してから飛び降りた。
そしてぐるっと回って奴らの背後に陣取る。
これで後は奴らが撤退し始めたら後を追って、そのアジトの場所を突き止められれば万々歳だ。
「でもこれだけ離れてると盗賊たちの姿が全然見えませんね」
近づきすぎると巻き添えを食うので離れる必要があるんだけど、そうすると逆に砂嵐で盗賊の姿が見えない。
防壁の上からなら見下ろす形だったのでまだ何とかなってたんだけど、地上からだと地面の砂も巻き上がってるので余計に視界が悪い。
この状況で盗賊を監視するためにはやっぱりもう1つも試してみる必要がある。
「むむむむ」
「何をしてるんですか?」
「この砂嵐の壁を透視出来ないかなと思って」
眉間にしわを寄せてじっと気合を入れる。
う~ん、後もうちょっとだと思うんだ。
以前から僕の祝福は物理的に阻まれるとその先が視えないという問題があった。
いや、視えないのが当たり前なのは分かってるんだけどね。
でも未来や過去など目の良さでどうにかなるはずのないものが視えるんだ。
壁の1枚や2枚突破出来ても良いんじゃないだろうか。
砂嵐なんて壁に比べたら密度が低い訳だし。
「視たいのはここから防壁までにいる人型の生き物。
それに限定すれば……」
じっと見つめてると段々と砂嵐の向こうに人影が浮かび上がってきた。
代わりに砂が薄く半透明になっていく。
なるほど、視たいものだけじゃなく視る必要のないものも意識すれば良いんだ。
今は砂は視なくて良い。
そう考えた瞬間、足元から地面が消えた。
「ラキア君!」
ガシッ
倒れそうになった僕をフォニーが慌てて押さえてくれた。
僕は頭を振って視界を元に戻しながら自分の足で体勢を元に戻した。
「大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう。
集中しすぎて平衡感覚を失ったみたい」
今の感覚を例えるなら、目を開けた状態で片足立ちをしたらある程度バランスは取れるけど、目を閉じてすると急に不安定になるようなそんな感じ。
視える視えないに関係なく水平や上下の基準となるものがないと上体を維持するのは難しいのだ。
ただ、今のは一瞬本当に落ちるような錯覚を受けた。
もしかしたらこの世界では認識できないものは物理的に存在するものでも触れられないのかもしれない。
いや流石にそれは無いか。無いよね。
ともかく今は盗賊の監視だ。
(今度は盗賊7割、砂を3割。これなら)
うす靄のようになった砂嵐の向こうに、今度こそくっきりと盗賊たちの後姿が確認出来た。
よし、これなら見失う心配も無さそうだ。




