157.もう1つの祝福
安眠の魔神ホレスさんへの謝罪も済んだのでここでの用事も終わりかなと思ったのだけど。
「じゃあここから本題ね」
ホレスさんは寝そべっていた姿から姿勢を正して座りなおした。
それを見て僕らも背筋を伸ばす。
「今回の件であなた達は資格を得たわ」
「うんうん。まぁお兄ちゃんは前からだったみたいだけど」
資格って何だろう。
これだけの情報でコロンにはピンと来るものがあったらしい。
「もしかしてラキアの祝福の件ですか?」
「それも関係してるわね」
僕の祝福?
トトさんに預けたこと、というよりもその結果【視力?】に変化したことかな。
でもトトさんは特に資格とか言ってなかったと思うけど。
ホレスさんは特に気にせず順を追って話の続きをしてくれた。
「まず勘違いしてるかもしれないけど、女神はこの世界における絶対神でも無ければ唯一神でもないの」
「神様は他にも居るし、女神より上位の神様がいるって事ですね」
「そう。そして表向き女神が好き勝手やってるように見えるけど、裏ではこっそり上位の神が手を出してるのよ。私達にも女神にも気付かれない様に。
その中の一つが祝福ね。
祝福って女神が直接授けるのではなく、使徒が代理で授けているのは知ってるわね?
実はその際に細工が施されているみたいなのよ」
私達も魔神になる時に初めて知ったわと笑うホレスさん。
この場合の使徒ってキャラメイク時にお世話になったガンマさんのことだよね。
ということはガンマさんはその上位の神のスパイってことなのかな。
もちろん悪い意味ではなく、悪の組織(女神陣営)に潜入してる秘密警察的な意味だけど。
「それでどんな細工が施されてるんですか?」
「簡単に言うとあなた達には女神の祝福とは別にもう1つ祝福が授けられてるの。
でもそのまま2つ授けたら流石に女神に気付かれるでしょ?
だから女神の祝福で被せて隠ぺいしてるのよ」
「あ、その隠されてた祝福が僕の【視力?】って『?』が付いたやつなのか」
「そういうこと」
トトさんに女神の祝福を預けたことで、隠されていたもう1つの祝福が表に出て来たらしい。
以前コロンが変だって言ってたことの答えがこれか。
僕達は最初から2つ祝福を持たされていたなら説明が付く。
「でもどうしてそんな面倒なことを?」
「さぁ。女神に限らず神様の考えまでは分からないわ。
ただ私達ならその隠された祝福を引っ張り出してあげれるわ」
「そうそう僕達上位存在は祝福に干渉出来るんだよ。凄いでしょ。
ということで、えいっ」
トリフがさっと手を振るとフォニーとコロンが一瞬光った。
どうやらそれだけで終わりらしい。
ステータス画面を確認したふたりがじっと祝福欄を確認している。
「本当に祝福がもう1つ追加されました」
「前の祝福は残ったままなのね」
「別に元からある祝福を取り上げた訳じゃないし残ってるに決まってるよ」
つまり僕とは違って両方の祝福の力を使っていけるって訳だ。
それが普通なんだろう。
トトさんに預けた僕の祝福は、まぁ元から返ってこなくてもトトさんの役には立ってるなら良いと思ってるので問題ない。
「じゃあこれで私からの話はおしまい。
話疲れたし寝るわ」
真面目な様子から一転、ホレスさんはあくびをしながら別室に去って行ってしまった。
え、まだ色々説明不足な気がするんだけど。
資格がどうとかいう話は?
「じゃあお兄ちゃんたち。気を付けて帰ってね」
後はトリフが説明してくれるのかと思えば、彼も窓をすり抜けるようにして出て行ってしまった。
残されたのは僕達と配膳人形だけ。
いや僕達ってこの家の住人では無いんだから放置されても困るんだけど。
もちろんこれ幸いにと家探ししたり泥棒したりはしないけどさ。
せめて玄関に送ってくれるくらいしても良いと思う。
『……』
「え、あ、飲み終わったら出ていけと」
配膳人形の無言のジェスチャー。
この人形も雪像と同じ原理で動いてるのかな?
見た目は無機物だけど、機械的に動いてるのではなく、何となく意思のようなものを感じる。
付喪神って可能性もあるけど追求するのは止めておこう。
お茶を飲み終えた僕らはお礼を言って屋敷を出た。すると。
「モンスターが普通に徘徊してる」
「元々、高難易度ダンジョンですから」
「ま、今の私達なら突破するくらい何とかなるでしょ。
むしろ新しい祝福の試し撃ちに丁度いいわ」
なるほど、そういう見方もあるか。
気合を入れるふたりに気付いたのかモンスターの集団が左右から挟み込むように向かってきた。
「左が弓と魔法の混成部隊、右が重装備の歩兵ですね」
「なら私が左を相手にするからフォニーは右をお願い」
「はい」
一切気負うことなくそれぞれの相手に向かって行くふたり。
僕はここで待機かな。もしヤバそうだったらボウガンで援護しよう。
まぁ見た感じ心配する必要は無さそうだけど。
「ところで新しい祝福ってどんなやつなの?」
「私のはこれね」
言ってコロンが右手をかざすと、コロンとモンスターの丁度中間くらいの空間がズレた。
いや透明なガラスの盾を生み出したことで光の屈折が起きてズレたように見えたのかな?
多分モンスター達も同じように考えたんだろう。
ガラスの壁を粉砕しようと魔法や矢を撃ちまくってきた。
「女神の魔法を見た後だとしょぼく感じるわね」
「まぁその分、数が多いから」
流石に女神と一般のモンスターでは比較するのも可哀そうだ。
それにパワー100の攻撃1回とパワー30の攻撃10回ならどちらが強いかは条件次第で変わる。
へなちょこパンチを何度打たれても痛くない場合もあれば塵も積もれば強固なガードを崩せることもある。
まぁ今回は塵は積もっても塵だったパターンだ。
コロンの生み出した壁に当たった攻撃は全て鏡に反射するように速度を落とさず放った本人達に返っていった。
透明な壁には傷一つ付いていない。
「以前は盾で撃ち返してたけど、これはその進化版みたいなものね。
物理も魔法も反射出来るみたい」
「敵はこれを突破しないと僕らに手も足も出せないんだね」
もちろん反射できる強さの限界はあるだろうけど、それ以下の相手にはほぼ無敵なんじゃないだろうか。
視認性も悪いし使い方によっては凶悪なトラップにもなりそうだ。
これで左側は問題なさそうなので右側のフォニーはと見れば。
「……」
『……』
なぜかお見合い状態で止まっていた。
特に糸で縛ってる訳でも凍らされてる訳でも無さそうだけど何だろう。
「フォニー。これはどういう状況?」
「あ、ラキア君。私の祝福は音に意思を乗せられるようになったみたいなんです。
なので試しに『止まって』って伝えたらこうなりました」
「伝えただけ?」
「はい」
改めて対峙している重装備のゾンビタイプのモンスターを見れば自然体で立っているだけだ。
そこへフォニーが追加で声を掛けた。
「『回れ~右』」
ザッザッ
「『全速前進』」
ダスダスダス……
まるで訓練された兵士のように後ろを向いたモンスター達は走り去っていってしまった。
いや呼びかけるだけで相手をコントロール出来るって、強すぎない?
「自我の無いタイプだったから良く効いたんだと思います。
多分群れのボスみたいな意思の強いタイプや、逆にゴーレムみたいな無機物系には効かないです」
対象が限定的だから強力なのか。
でも今後レベルが上がったらその制限も徐々に解除されるんだろうなぁ。
ともかくふたりの新技もあって廃都から無事に出ることが出来た。
あとは真っすぐ王都に戻るだけだけど、コロンから待ったが掛かった。
「みっちゃんに確認してみたけど、いま王都に行くのはマズそう」
「やっぱり『女神に突撃したのは誰だ』って騒ぎになってますよね」
あぁそっか。
武闘大会で勇者チームに目を付けられた時もそうだったけど、あの時と同じかそれ以上に注目を集めてしまってたのか。
今回は高速で空を飛んでいったから個人の特定まではされて無さそうだけど。
じゃあどうしよう。
僕達が東の空に飛んでいったのも見られていた筈だから最初の街にもすぐに手が回るだろう。
って、僕らは指名手配犯か!
何も悪いことしてないのに追いかけ回されるのも、囲まれて問い詰められるのも御免被りたい。
「近場がダメなら、いっそ旅に出る?」
「王都でのイベントも終わりましたし、それもありですね」
「なら南に行かない?
そっちの方が暖かいし、ちょっと遠いけど港があるらしいから」
港。それはつまり海があるってことか!
コロンの案に満場一致で賛成した僕らは馬に跨ると一路南へと駆け出すのだった。




