158.1周年記念
<○○視点>
夜空に浮かぶ巨大な円卓。
それを囲むように12の鏡が置かれ、そのうちの2つを除いて人物が映し出されていた。
ただしその姿は靄が掛ったように不明瞭ではっきりとはしない。
『ふむ、セルマとシャーティーは来ておらぬのか』
『いつもの事。むしろベリデンディが来てることに驚き』
『ま、たまにはな。
聞いたぜ。あのバカ女が異界から来た奴らに傷を負わされたんだって?』
ベリデンディと呼ばれた人物がニヤリと笑う。
それを聞いた数人からもクスクスと笑いが起こる。
『まああ奴にとっても良い薬であっただろう』
『どうかな。馬鹿は死んでも治らないっていうし、女神なら100回くらい死なないとダメなんじゃない?』
『いや500回は必要だろう』
どうやらこの場にはバカ女(女神)を擁護する者は居ないらしい。
『それよりその異界から呼び込んだ者たちはどうなんだ?』
『うむ、期待以上じゃ。早くも我らが授けた祝福に気付いた者がおる』
『それは凄い。想定よりも半年近く前倒しじゃないか』
『こういうのは波紋のように広がって行くからな。
他の者たちも近々気付くことになるだろう』
『各地の守護者たちも目覚め始めておるぞ』
『こりゃあ賑やかになるな!』
そう言った彼らの眼下に広がる大陸の様子が映し出された。
ある所では巨大なクジラが空を飛び、ある所ではケンタウロスの一団が探検家と宴を開いていた。
深い森の中で魔女が笑い、どこかの工房で熱した金属が火花を散らした。
更に映像は流れ、最前線の攻略プレイヤーが喜びそうな激しいバトルシーンもあれば難解なパズルで塞がれた大迷宮の中を駆け抜けるように景色が流れ最奥の巨大クリスタルが姿を現した。
そのクリスタルから滴った水が地面に吸い込まれると場面は深い闇の中へと切り替わった。
暗闇の中に響くのは複数の人の声。
『くっくっく。神々にも遊び心はあったんだな』
『異界の冒険者か。なかなかに個性的らしいじゃないか』
『自身の先を求めるのなら遠からず俺達の元にも来るだろう』
『僕達もしっかりと歓迎の準備をしておかないとね』
『先へ進む資格があるのかわし等がきっちり見定めてやろうではないか』
『私は面倒だから寝てるわ』
無秩序に交わされる言葉にはどのような意味があったのか。
それを知るには彼らの元に行って直接問いかけるしかないだろう。
答えてくれるかは分からないが。
『ほれ、準備が出来た。早速点火するぞぃ』
シュッと何かを擦る音と共に小さな火が灯る。
その火が導火線に伝わり、数秒後にドドーンと爆発音を轟かせて2つの火の玉が飛んでいった。
火の玉は大地を突き抜けて空へ空へと上昇を続け、遂には最初の円卓が見える位置までやって来て華々しく爆発した。
【究極幻想譚】
【真の祝福に至る道】
……
…………
………………
夜空に浮かぶ火文字を映して究極幻想譚1周年記念PVは終了した。
それを見て絶叫する男がひとり。
「うぉ~~~。俺がPVに出演してる!!」
サービス開始以来、ずっと世界の果てを求めて冒険を続けていた彼は自室でガッツポーズをした後、緊急で配信を行った。
配信内容はもちろんPVに出ていたことの報告。
すぐに飛んでくる大量のお祝いコメントに応えて、それがひと段落したところで咳ばらいを一つ。
『え~先ほど、運営から情報の解禁許可が出ましたので報告させて頂きます。
皆さん1周年記念PVは最後まで御覧になったでしょうか。
その中で出て来た【真の祝福】。これの第1号が何を隠そう私です!
取得したのは秋イベントが終わった直後くらいです。
私の配信を観てくれてる人はある時期を境に一気に強くなったので何かがあったのは気付いてましたよね。
運営からは大っぴらに広めるのは控えて欲しいって言われていたのでスキル解説とか全然してこなかったですが、今後はフルオープンで公開していくのでよろしくお願いします』
この報告を受けて更におひねりが飛び交う事になった。
コメントの中には「どうやって【真の祝福】を開放したのか?」というのも多く寄せられたが、そこはネタバレになるからという事で別枠で伝えることになった。
そして他の特に攻略プレイヤー達はと言えば、それまで行っていた活動を中断して【真の祝福】を開放することに注力するように方針を変換していった。
「例の女神に一撃を加えたプレイヤーも気にはなるが後回しだ」
「PVの内容からして守護者と呼ばれる存在を探せって事だよな!」
「どこに居るのかは全然分からないけど複数居るっぽいし、自分たちの祝福にあった守護者が居るはずだ」
「高難度ダンジョンの奥しかいないってなったら生産職には手が出せないことになるし、実は街中にも居たりしてな」
「よっしゃ、まずは街で聞き込みからだな!」
こうして新年祭で注目を集めた謎のプレイヤーに対するヘイトは下がっていったが、肝心のそのプレイヤー達はそんな騒動など気にも留めずに自分達のやりたい事を続けていたのだった。




