139.あと1つ
鉱山の町を経由して宝飾の町に戻ってきた。
途中、トトさんの住処に寄って来たんだけどトトさんはまだ戻って来ていなかった。
いったい何処まで飛んで行ってしまったのか。
仕方ないので人形は巣に置いてきた。
そしてマッチ売りの少女アンネに今日までのマッチの売れ行きを報告すると目を丸くされた。
「お兄さんは『商売の勇者』様でしたか!」
「違うよ?」
そんな勇者が居たら万単位で売るとか、1箱1万ジェニーで売るとかしてたと思う。
その点、僕はただ良縁に恵まれただけだ。
「それではお兄さんにはマッチの在庫と、あとこちらは今回のお礼です」
そう言って渡してくれたのはクリスマス人形だった。
ただし僕の、ではない。
「これは誰?」
「私の旦那様。『灯の勇者』ハンス様です」
「へぇ、この人が」
身長よりも長い松明を杖のように持った優しそうなおじいさんだ。
この表情を見れば仲間の勇者を助けたというのも頷ける。
でもそれなら従者の少女がここで1人マッチを売ってるのはなんでなんだろう。
「無事にマッチが売れた訳だけど、アンネはこれからどうするの?」
「旦那様の好きだった甘酒を買って、墓守に戻ります。
それではお兄さん。今回はありがとうございました。
縁があったらまた来年お会いしましょう」
ちょこんとお辞儀をしたアンネはふわりと宙に浮くと壁をすり抜けながら去っていった。
アンネの正体は幽霊とか人魂的なものだったのかな。
ともかくこれでクエスト完了だろう。
じゃあ後やるべきことは1つ。
うん、実は渡したいけど渡せてない人形が1個残っているんだ。
渡せない原因はどこに行けば会えるのかが分からないから。
誰かと言えばガンマさんだ。
運営に近い立ち位置の人だとは分かってるけど、以前質問した時に会いに行く方法はあると言っていたので、時間もあることだし探してみようと思う。
その為の手がかりと呼べるものに1つ思い当たるものがある。
それはズバリ勇者だ。
この世界で女神の使徒になれる程の存在って元が人だったとしたら勇者と呼ばれていても不思議では無いと思う。
それを調べるために冒険者ギルドへとやって来た。
「すみません。過去の大戦で活躍した勇者について情報が欲しいのですが」
「申し訳ございません。ラキア様。
ギルドの規定で先日の『灯の勇者』様のように何か関連したものをお持ちの場合か『○○の勇者』とお名前を伝えて貰った時しか情報を開示することが出来ません」
流石に質問すれば全部教えてくれる程、機密レベルは低くなかったか。
でも教えられないって事は、裏を返せば情報はあるって事なんだよな。
ただガンマさんに関連したものは何も持っていない。
であれば別の情報源を探ってみるか。
「確か教会にも勇者関連の情報があるんですよね?」
「はい。王都の教会に行けば過去に活躍した勇者に関する情報が一部閲覧できるはずです」
「一部?」
「はい……」
随分と歯切れの悪い回答だ。
やっぱり教会とか宗教が絡むと色々面倒なことが多いんだろうか。
ここで深堀しても受付のお姉さんを困らせるだけだろうし、教会に行けば分かる話か。
「じゃあちょっと教会の方に行ってみます」
「はい、お気を付けて」
え、街の教会に行くのに気を付けることがあるの?
一応これでも神様に逆らった事は無いし、異端だと言われそうな行動もしてないはずなので大丈夫だよね。
若干不安になりながらも僕は王都の教会へと向かった。
「……おっきいなぁ」
お城程じゃないにしても大貴族の屋敷くらいには教会は大きな建物だった。
やっぱり宗教って儲かるんだろうか。
中に入れば広々とした礼拝堂があり、その奥には女神様と思われる像が立っていた。
他には町の人とシスターが数人居るだけ。
時間帯が悪いのかプレイヤーの姿はない。
僕はシスターの1人に話しかけることにした。
「すみません」
「はい、何でしょう」
「勇者に関する書物があれば閲覧させて頂きたいのですが」
「それでしたら隣の書庫室に資料がありますのでご利用ください」
「ありがとうございます」
お礼を言って書庫室に行ってみればそこには20人ほどのプレイヤーの姿があった。
なるほど、みんな求めるものは同じということか。
これだと僕の探している資料も他の人が読んでいる最中で待たないといけないかもと思ったけど、その心配は無かった。
なんと僕らが欲しい情報をまとめた冊子が山積みされていたのだ。
「この世界ってコピー機とか無いよね?」
「はい。こちらは新人シスターによる手習い品となっております」
僕のつぶやいた疑問に答えたのはこの部屋の管理人っぽい人だった。
試しに冊子を1つ手に取ってみると、そこには若干右上がりに文字が書かれていた。
また別の冊子を見ればそちらは字が汚くて読みにくい。
これはかなり当たり外れがあるっぽいな。
僕は幾つか見比べて一番字の綺麗なものを選ぶと近くの椅子に座って内容を確認していった。
(えっと、序章の世界の成り立ちについては飛ばして、女神についてもパス。
勇者の紹介はこの辺りからか)
ふむふむ。……ん?
ざっと目を通した僕は、見落としたかなと思ってもう一度じっくりと読み返してみて冒険者ギルドで『一部』と言っていた意味を理解し始めた。
(『灯の勇者』も『戦車の勇者』も載ってない)
偶然かもしれないけど、僕が知ってる勇者の記述が見当たらなかった。
載っているのは『光の勇者』『千剣の勇者』『火炎の勇者』など聞いたことのないものばかり。
更に載っている勇者についても序列があるのか、紹介に1ページ使っている勇者も居れば、最後の1ページに纏めて名前と一言コメントだけ記載されている勇者も居る。
そして僕が探していた名前はその最後のページに記載されていた。
【『導きの勇者』:大戦の際、人々の避難誘導に貢献】
【『千里眼の勇者』:傍観者として大戦の最後を見届けた】
多分だけどこの『導きの勇者』がガンマさんの事なんじゃないかな。
で『千里眼の勇者』というのは闘技場の穴から落ちた先に居たあの人の事だと思う。
もちろん全然違うって可能性もあるけど。
「すみません、この『導きの勇者』についての詳しい資料ってありますか?」
管理人さんに尋ねれば、じっと記憶を掘り起こした後、ゆっくりと首を横に振った。
「残念ながら教会には残っていません。
もしかしたらダンジョンの奥に行けば何か見つかるかもしれませんが」
「分かりました。ありがとうございます」
ダンジョンか。行ってみる価値はあるな。
どこのダンジョンかは冒険者ギルドで聞けば情報を得られるかもしれない。
「ちなみに『千剣の勇者』についての資料はありますか?」
「それでしたら、向こうの棚の上から3段目にありますよ」
試しに1ページ使って紹介されていた勇者について聞けば、そちらはしっかりと資料が残っているらしい。
やっぱり一言に勇者と言っても待遇の差が激しいな。
何か理由があるんだろうか。




