対策
娘が不登校になって早3日、妻の恵子は思いの他元気がない。
相当ショックだったのだろう。
まあ、普通の母親なら当たり前の事であり、寧ろ私の神経の方が飛んでいるのだろう。
娘が不登校になって初めての私の会社の休みの日に、妻と、美穂の今後についての話し合いをした。
『恵子、先ずはあまり気にするな。無理して学校に行かせることはないよ。無理して登校させて、いじめで自殺されるよりは断然ましだろ?』
妻は悲しそうに項垂れている。
『いつまでも不登校を気にしていても仕方ないだろ。』
私は続けて話しかけた。
すると、妻の恵子がパッとこちらの方を向いた。
『あなた、ごめんなさい。』
妻が涙をぽろぽろ流して謝っている。
『おいおい、だから気にすることないってば。それよりも、これから美穂のために何ができるのか、何をするべきなのか一緒に考えようよ。』
私も妻があまりに参ってしまっているので、少し焦っていた。
『私どうしたら良いの?美穂の将来はどうなるの?』
妻が泣き崩れている。
『全部私が悪いんだわ。私の子育てがいけなかったんだわ!』
妻がわんわん泣き出した。
全部自分の責任だと思い込んでいる悪いパターンだ。
『落ち着いて、落ち着いて。別に良いじゃないか不登校だって。俺は全く気にしていないんだから。そんなに悲観すること無いよ。』
私も私なりに一生懸命宥めた。
『あなた、何で気にしないのよ!美穂の将来はどうなるのよ!あなたがそんなに呑気なこと言ってるから、美穂がこんなことになったんじゃないの!』
恵子は癇癪を起こしてしまっている。
今度は全部父親の責任に移ってしまう最悪のパターンだ。
『落ち着いて恵子、誰の責任でもないし、そもそも責任が生じるような悪いことなんて何も起こっていないんだよ。』
私は、お前の血筋が全ての原因だと云う、的を得た言葉を飲み込んで続けて話した。
『取敢えず、美穂の今後について、俺はある程度考えてあるんだ、先ずはそれを聞いて欲しい。』
私は一生懸命説得した。
すると恵子はキッと私を睨んで叫んだ。
『何を言っているのよ!美穂はもう終わりなのよ!学校に行けなくなった時点で、もう何もかも終わりなのよ!社会に適応できない不適合者のレッテルを貼られたら、もう一生何をやっても駄目なのよ!それは私が一番良く分かってるのよ!あなたには分かるはずも無いんだから!』
恵子は私をキッと睨んでいる。
恵子は本来そんな事を言うような女ではない。
しかし、美穂の将来を少しでも明るくしようと思わない、そんな言葉自体に私はついカッとなった。
『何で終わりなんだ?学校に行けなかったら、何で終わりなんだ?人生の無限にある選択肢から、そのどの選択肢も選ばないで、終わりを決め込んでいるのは、他の誰でもない母親であるお前じゃないか!』
私はかなり頭に血が昇っていた。
『何で、あの子に合った人生を、あの手この手で探してやろうとしないんだ!学校に行かせることだけに拘って!美穂の不登校をお前が気にしているのは、お前が家に不登校の娘がいることを恥だと思っているからじゃないのか?お前が、自分の世間体ばかりを気にしているからじゃないのか?』
私はかなり強い言葉で話した。
私にも恵子にも、少しはあったであろう、不登校に対する悪い考えを、敢えて言葉にすることで、私も恵子も、改めて美穂の事だけを考えて、この先の事を考えようと云う気持ちになった。
恵子はまた少し項垂れて、
『あなた、ごめんなさい。もう大丈夫だから。この先のあなたの考えを先ずは教えて。』
そう言って、妻はとても冷静になった。
女は時として、敢えて言葉にして叱って欲しい時があると、わざと悪態をつくときがある。
私は、女のそんな所を見落とさないようにし、しっかり叱ってあげるようにしている。
今回も、私が不登校なんて気にするなと叱った後、恵子は、(良いもの聞けたな)って顔をしていた。
私も(この欲しがり屋さん)と少し思って叱っていた。
何はともあれ、ようやく私の考えを恵子に聞いてもらう機会が来た。
『先ずは、無理してでも学校に通わせるべきだと思う。』
そんなボケを咬ます絶好の機会ではあったが、これ以上本題からそれるのはもう避けたいところであったため、私は自分の考えを落ち着いて話した。
先ずは以前から考えていた私の不登校に対する考え、
【不登校が必然的な理由】
【不登校を気にしない理由】
を説明し、その上で今後のプランを説明した。
『先ずは無理して学校に行かせるのはやめよう。不登校は世間体的には大きな問題ではあるけれど、美穂の人生に於いては然程問題だとは思っていない。社会不適合者と言えばそうかもしれないが、無理なものは無理だと言う部分に時間をかけるよりも、美穂が出来る部分に沢山時間をかけたいんだ。俺たちの世間体を良くすることが目的ではなく、美穂の人生を幸せにすることが目的なんだから。』
私は続けて話した。
『しかし、人間関係が無理だからと言っても、義務教育は受けるべきだと思う。他の子達が一生懸命勉強しているんだから、そこは美穂もするべきだと思う。』
恵子が深々と聞いてくれている。
『具体的には中学3年生までは、学校で交付されている教科書を使って、学校に通っている子達と全く同じ内容を、恵子と二人で一緒に勉強して欲しい。』
恵子がうんうんと聞いている。
『もともと、恵子も美穂も人間関係はまるで苦手ではあるけれども、頭は良いと思っている。人間関係の無い我が家に引き込もって、中学三年生までは思う存分二人で勉強して欲しい。』
私が一通り意見を言い終わると、暫く考えていた恵子が話してきた。
『まあ、それしかないでしょうね。』
以外に素っ気なかったが、意見が一緒で良かった。
『取敢えずまだまだ先の話にはなるけれども、高校生になった後のビジョンも話しておきたい。その方が、恵子も美穂も先が見えないまま勉強するよりも、明るい未来に向かって勉強出来ると思うから。』
私は更に先の話も話し出した。
『結論から言うと、美穂が幸せになるには、恵子と同じ道を辿らせるのが一番だと考えている。つまり、早くに結婚して、専業主婦になって欲しい。恐らく社会に出て働くのは無理だと思うから。
そうなると、どこかに嫁いで生きていくしか無いと思うんだ。』
恵子はうんうんと聞いている。
『そのために、15才までは他の子達と同じように、しっかり義務教育を勉強して、16才からは、専業主婦の勉強を我が家でしっかり学ばせたいんだ。』
私が大まかなプランを一通り説明し終わると、恵子は少し安心した様子になった。
『あなた、色々ありがとう。気持ちがとても楽になったわ。何か、これからもっと頑張れる気がする。』
そう言って恵子は急に元気になった。




