最強の営業スマイル
オレの名前は板中順平、62歳だ。大卒後、地元の企業に就職してサラリーマン生活も早40年。
明日は定年退職日。退職金は微々たるもので功労金という名目になっている。
入社してずっと窓際が特定席。定年時の役職は防嫌事業本部担当事業本部長である。みんなが嫌がる仕事を片付ける専門の部署である。他部署からは「尻ぬぐい部署」とも呼ばれている。勿論、部下はいない。三日前までは防嫌課係長だった役職が、定年退職するので担当事業本部長になった。役職が付いたので役職手当てとして2000円増えた。この昇給は27年ぶりの快挙である。部下は累計すると数百人いたが全員殉職した。
防嫌本部の仕事は過酷だ。依頼があれば何処にでも行く。社外は勿論、県外、国外、まれに大気圏外へも参上する。
仕事は「誰にでもできる簡単な清掃作業など」と求人広告に昔から記載している。
実際は、入社試用期間は総務課のお手伝いとしてトイレ、エアコン掃除など、事務所周辺のポイ捨てタバコのゴミ拾い、空き缶集め、色々ある。空き缶集めの後はなぜか特別手当てが500円付いていた。毎日毎日、情報端末タブレットから指示されたことをこなすのみ。拒否権はない。拒否したら翌日、殉職する。
ちなみに知っていると思うが、業界では転職のことを殉職と呼んでいる。
業務上、色々やった。
自動販売機下のコイン集め清掃、海水浴場での金属探知機を使った危険物探索。現場では金目のものを危険物と呼んでいる。
頻繁な緊急仕事依頼は線路上の清掃である。現場ではスプラッターさんと呼んでいる。生前のお姿とはかなり違う形になっております。以前はメンタルにきていたが、今では営業スマイルで克服した。先日は任務完了と思いきや、目の前でスプラッターさんができると、さすがにめげたよ。
たまにあるのが、宇宙ゴミの清掃。大気圏外まで出てレーザーで粉砕。一週間の任務後は体調が芳しくない。F原子力発電所汚染漏れの清掃後と同じ感じ。
深海で釣糸の清掃や中東での反政府軍の清掃などは、今となってはいい思い出。
そんなこんなで、もうすぐ定年退職。会社をでて自宅はすぐ近く、徒歩数分で帰宅できるはずだが、オレは突然死んだ。。。




