第1回 執事でございます
執事とお嬢様の日常を、1話あたり数百文字のひとくちサイズに切り取りました。
お茶の合間に、筋トレ中に、華麗に優雅にお楽しみ下さい。
執事のお仕事は、お掃除から始まります。
本日はお屋敷中すべてのお掃除をいたします。
本来、それはメイドたちの業務ではございます。
が、なにぶん、メイドたちはいま、皆そろって休暇を取っております。
そのため、このお屋敷のお掃除ができるのは、わたくしだけでございます。
このお屋敷、いわゆる豪邸というものでございます。
玄関ホールは広く、廊下はどこまでも長く、お部屋はいっぱいございます。
ですが、問題はございません。
執事たるもの、魔法の一つは使えます。
人差し指を静かに立て、指先に意識を集中いたします。
すると、指先から3センチメートルのところに、黒っぽい霧のようなものが見えて参ります。
大きさは、ピンポン玉くらいでございます。
さらに続けますと、霧は見る見る色濃くなって参ります。
大きさは変わりませんが、わたくしが手首をちょっとひねりますと、キュッとしまってお米粒くらいの大きさに凝縮されます。
空気中の元素を一点に集め着火し大爆発を起こす、本来は攻城兵器にも使われる禁断の大魔法でございます。
が、わたくし、それをお屋敷の維持管理に使用しております。
と、いうわけでこちら、お屋敷中より集めました、埃でございます。
これぞ執事魔法――
≪執事掃除≫!!
あとはそれを、窓の外からひょいっと浮かせ、安全な高さになりましたところで――
指をパチンと鳴らします。
本日も小粋な花火が上がり、こうしてお屋敷の朝は始まります。
日々のお掃除も指一本。
一家に一台、貴方の執事でございます。