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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
7章 ACT2

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第20話 エルフがいないならこんな森にはなんの用もないよ!

 花川はまた白い空間の中にいた。

 寝た記憶はない。

 つい先ほどまで、エルフの森の中をヨシフミたちと歩いていたはずだった。

 意識だけがこの夢の中らしき場所へと来ているのだろう。

 身体はそのまま歩いているのか、あるいはこの空間では時が止まるかしているようだった。


「またでござるか……」


 きょろきょろとあたりを見まわす。

 また使徒候補がやってきたのかと探してみたが、それらしき姿は見当たらなかった。


「後から来るんでござるかね? もう何をやっても無駄なんじゃないかと思っているのでござるが……」


 即死能力対策の相談にはいろいろと乗ったが、けっきょくどうにかできそうな感触はまるでない。

 殺意を感知し、任意の相手を殺せる。

 いったいこんな相手にどうやって対抗しろというのか。花川にはもう想像もつかなかった。


「けっきょくのところですね。即死能力を無効にできるとか、そーゆー確実に相手を上回る存在でないとどうしようもないかと思うのですよ」


 どれだけ防御力を上げようと、即死耐性を身につけようと、夜霧の力の前では無意味だった。


「当初は殺意の感知のほうが問題かと思ったのでござるけどね。けれど、いろいろと試してみると、やはり回避不能、防御不能の必殺攻撃というのは甚だ厄介でござる」


 必ず死ぬし、死ねば蘇生できない。

 アンデッドだろうと、ロボットだろうと、夜霧が殺そうと思えば殺せてしまう。


「ですので、もう放っておくというのが大正解かと思うのですよ! 関わらなければ、向こうからやってくることはないのでござるからして!」

「それは駄目だよー」

「そうだよー。ここまでくるともうどうにかしてもらわないとー」


 マルナとリルナが唐突に現れた。

 花川も、これが夢だとわかっているので今さら驚きはしなかった。


「これはどうも。で、今度は誰を送り込むのでござるか? 異世界の魔女のミランダさんも逃げちゃったようなのですが」

「他所の世界に逃げられると私たちでもどうしようもないねー」

「私たち、この世界の神様だからねー」

「そういうもんなんでござるか? てっきり誰かが挑まないと死ぬという呪いでもかけられているのかと思っておったのですが」

「違うよ。挑んだかどうかとか曖昧だから、私らの判断しだいだよ」

「誰も挑んでないなぁ、と思ったらそのときに私らが直接手をくだすよ」


 別世界にまでマルナリルナの力は及ばないし、掟破りの制裁は自動的ではなく、手動で行われるらしい。

 役に立つ情報かはわからないが、花川は心に留めておくことにした。


「しかしそうなると次の使徒をどうするかなのでござるが。彼女以上の切り札でも?」

「んーん?」

「そろそろ花川に行ってもらおうかなって」

「みんなの相談に乗って、いろいろ考えたわけでしょ?」

「拙者でござるか!?」

「だって最初からそういう話だったでしょ?」

「やるって言ったよね?」


 確かに、マルナリルナが最初に現れたときに、夜霧と戦うと約束していた。

 その後、アドバイザーなどをやらされてすっかり忘れていたが、いずれは花川が戦うという話だったのだ。


「やっぱり嫌! とかは……」

「あはは。なしだよー」

「神との約束を反故にしようだなんて勇気あるねー」

「ですよねー!」


 相手は神を名乗る者たちだ。今さら約束をなかったことになどできるはずもなかった。

 約束は無理やりにでも履行されるのだ。


「じゃあ、どんな能力にするか決めた?」

「考えた?」

「あー、その、考えてはいたのですが、もう少し時間を……」

「だめー!」

「次が花川は決定事項だよ!」

「今すぐ決めて!」

「すぐ言って!」

「五分以内ね!」

「決めなくても、五分後にタカトーヨギリの近くに転送するから!」


 もうわずかな猶予もないようだった。


 ――いや? 転送されたとしても、わざわざ戦わなくてもよいのでは?


 けっきょくのところ、夜霧を殺そうとするから殺されるのだ。

 ならば最初から何もしなければいい。

 近くに転送されて出会ってしまったとしても、友好的に振る舞えばいい。

 これまでの所業を考えると現時点で友好関係にあるとは思えないが、そこは得意の土下座でもなんでもして許しを請えばいいのだ。


「もしかして逃げようって思ってる?」

「戦わなきゃいいやって思ってる?」

「ま、まさか!」

「戦わなくてもいいけど」

「使徒の残りは、花川を含めても三人だからね」

「一日一度は誰かが挑まないと全員死ぬってルールだから」

「すぐ死んじゃうよ?」


 このままでは、あと三日程度の命だ。

 死にたくなければ、どうにかして高遠夜霧に勝つ方法を五分以内に考え出さねばならない。


「って! どうにかできるなら、これまでに誰かがどうにかしているのでござるよ!」


 この局面から脱する方法などすぐには思いつかないが、運命の時は刻一刻と迫りつつあった。


  *****


 漆黒の魔女が去った後は、しばらくは何もやってこなかった。

 これで使徒が打ち止めならいいのだが、遠距離からの攻撃に対して自動反撃したケースも含めれば、使徒は十二人を超えている。

 なので、まだまだやってくると想定しておいたほうがよさそうだった。


「あと二キロほどというところか」


 上空に飛んで偵察してきたもこもこが言う。


「とりあえずの目的地が近づいてきたのはいいけど、行ったからって何があるかもわかんないんだよね」

「エルフがいるかもしれないよ?」


 夜霧は気休めを言った。


「いるのかな、エルフ……」


 だが、エルフの森という名の割にはエルフ要素が欠片もないし、出てくる気配もまるでなかった。


「高遠くんが、全部殺しちゃったのかな?」

「エルフ全員がイゼルダって可能性か。あるかもしれないけど、生き残るために分散してたみたいだから、民族全部がそうってことないんじゃないかな」

「エルフの森なんだから、まったくいないってことはないと思いたいけど」


 そう言いつつも、知千佳はもう諦めているようだった。

 もこもこが森を切り拓き、その後を進んでいく。

 もうすっかり慣れてしまった工程だ。


「む? なにやらの気配!」


 もこもこが立ち止まった。

 目的地である石造建築物群へあと一キロほどの所だ。


「殺気は……多少はあるような感じだな」


 夜霧はうっすらとした殺意を感じていた。

 本腰を入れたものではなく、とりあえず狙いをつけているといった雰囲気のものだ。


「どうせ、また神の使徒とかなんでしょ?」


 知千佳は飽きたと言わんばかりだ。

 夜霧もうんざりとしていた。


「上だな。木々の枝葉の中を伝ってきているようだ」


 言われてみれば、かすかな音が前方の樹上から聞こえてきていた。そして、その音は少しずつ大きくなっているようだ。


「今までにないパターンだな」

「うん。自信満々に出てくるか、遠距離から攻撃してくるかだったよね?」


 即死攻撃など自分には効かないと思っていれば堂々と出てくるし、慎重に遠距離から気付かれることなく攻撃しようと思えば姿は見せない。

 どちらでもないなら、使徒でない可能性が高かった。


「……エルフ……聖地……侵ス、人間、許サヌ……、死ネ……結界ガ……来ルナ……神殿……巨樹……死ネ……死ネ」


 そんな途切れ途切れの声が聞こえてくる。

 翻訳の魔道具も、どうにか単語を拾って翻訳するのがせいいっぱいという様子だ。

 どうやら、相手は無理をして標準語を喋っているらしい。


「こ、これは! 来たか!? とうとうやってきたのか!」


 知千佳のテンションが上がった。


「壇ノ浦さん。どう考えても敵意を持たれてるのに喜ばないでよ」

「でも、自分でエルフって言ってるし!」


 すぐに殺すことになるかもしれない。夜霧は知千佳よりももう少し深刻にこの状況をとらえていた。


「どうする?」


 敵意が強まっていく。

 先ヘ進むなと言うなら、受け入れるべきかもしれない。

 だが、問答無用ということなら反撃する必要がある。


「話ができるならしてみてもいいが……こそこそとされるのは気にくわぬな。どれ」


 槐が、枝葉を切るために操っていた触丸を延長した。

 そして、大きく振り回す。それは何者かの姿を隠している枝葉を次々に切り落とした。


「ゲゥ、ガァ!」


 驚きの声を発しながら、謎の声の主たちがその姿を現した。


「うん?」


 知千佳が首を傾げる。

 それはなんとも形容しがたい姿をしていた。

 夜霧が知る動物に譬えるなら、テナガザルに近い。

 ただし、腕は四本だ。長い二本の腕は枝を掴んで移動するためなのだろう。残りの二本の腕には黒い打製石器らしき物を持っている。

 足はあるようだが、細く短い。樹上生活に適応した結果あまり使われていないようだ。

 全体の印象としては猿に近いのだが、その表皮は緑色で硬質的だ。顔は逆三角形で目玉が極端に大きく、カマキリのようだった。

 簡単にまとめると猿のような蟲のような生き物らしい。


「どこがエルフやねん!」


 知千佳が逆上した。

 エルフと言われて想像したものからあまりにもかけ離れていたのだろう。

 だが夜霧は、こんな森に棲んでいるのだからこんなものだろうと思っていて、それほど衝撃は受けていなかった。


「耳が尖ってる?」

「あえて探してもそれだけやろ!」


 顔の側面に耳らしき器官があり、長く尖っていた。


「返せ! 私の期待を! ロマンを! ファンタジーを!」

「そんなこと言われても、あいつらからしたら理不尽だよな」


 知千佳が勝手に期待していただけなので、エルフたちにすれば知ったことではないだろう。


「襲ってくる気配はない?」

「だが、これ以上進ませる気もなさそうだな」


 エルフたちは前方に広く陣取っていた。

 夜霧たちが建物群に近づいてきたから、妨害にやってきたのかもしれない。


「てことは、やっぱりあの建物はエルフの街なのかな。よかったね」

「何にもよくないよ! 住んでるのがこれで、どうしろってのよ!?」

「俺たち、この森を抜けたいだけなんだけど」


 夜霧はエルフに話しかけた。


「立チ……去レ……」

「話が通じる気がしないな。どうしたもんだろう?」


 第一印象としては原始的な民族に思える。

 そんな存在を邪魔だからと殺してしまえるほど夜霧は傲慢ではなかった。


「もう帰ろうよ! エルフがいないならこんな森にはなんの用もないよ!」

「いや、別にエルフに用があったわけじゃないと思うんだけど……通したくないっていうなら無理に行く必要はないんじゃないか?」


 だが、そうなると他に行くべき場所もないし、第一この森からどうやって脱出すればいいのかの手がかりもない。

 どうするべきかと考えていると、前方の地面が光りだした。


「エルフの攻撃?」


 直径一メートルほどの光の円。

 内部に複雑な幾何学模様が描かれたそれは、魔法陣のようだった。


「グォ、ギャ!」


 エルフによる魔法攻撃かとも思ったが、その現象はエルフたちにとっても予想外だったようで、見るからに慌てている。

 夜霧が光の円を見ているとそこに人影が現れ、エルフたちは泡を食って逃げ出した。

 その光景はエルフたちにとっては信じがたいものだったのだろう。


「あれ? 花川くん?」


 光の中から現れたのは、クラスメイトの花川大門だった。


  *****


「まずは!」

「まずは?」

「まずは落ち着いてほしいのでござる!」


 突然現れた花川はそう言った。


「いきなり現れてこいつ何言ってんだ? そうお思いかもしれませんが! まずは深呼吸でござる! 急いては事をし損じるのでござるよぉ!」

「いや、落ち着いてるけどね。慌ててるのは花川のほうだろ?」

「では、いきなりエターナルフォースブリザード! 相手は死ぬ! みたいなことはなさらないということですな!」

「そっちから攻撃してこない限りはしないから落ち着けよ」


 花川には夜霧の能力を説明したことがある。

 実演もしたので怯えるのはわかるが、無闇に使わないこともわかっているはずだ。


「とにかくですな、敵対する意思はないわけでして、こんなことになっている事情を説明したいのでござるのですが!」

「わかったよ。もこもこさん、テントを出してよ。休憩しよう」

「うむ」


 もこもこが触丸でテントを作り出し、夜霧たちはその中へと入った。

 テントの床に座り込み、花川と対面する。


「さて。事情なのですが。高遠殿はここ最近、神の使徒とやらに襲われておったはずですね」

「うん。来てたね」

「それはマルナリルナ神が高遠殿を殺そうと送り込んできた刺客なわけです。で、ここからが重要でして、誤解を招きはしないかと細心の注意を払うべきかとは思うのですが、その……話を聞いた途端に怒ったりしないでもらいたいのでござるが……怒らないでござるよね?」

「内容によると思うけど」

「あの、ですね……。拙者も、その使徒とやらにされてしまったのでござる……」

「ということは、花川くんも、高遠くんをやっつけに?」

「そうなんだ。可哀想に」


 襲ってくるなら返り討ちにするしかない。少しばかり心苦しい気がしないでもない夜霧だったが、やるとなれば躊躇わないだろう。


「まさか! まさかまさかでござるよ! 高遠殿に敵わないということは十分に承知しているのでござる! 今さら敵対したりはしないのでござるよ!」

「じゃあ何しに?」

「マルナリルナ神に、戦ってこいと無理やり転送されたのでござる」

「でも、戦う気がないってんならいいんじゃないか?」


 使徒だとしても襲ってこないなら、なんの問題もなかった。


「だよね。でも、花川くんはこれからどうするの? 森を彷徨うの?」

「ちょっ! なぜ一人で放り出すことが前提なのでござるか!」

「あのさ。なんにもなかったかのようにしてるけど、この世界に来て最初のことは忘れてないからね?」


 知千佳が、半閉じの目で花川を見る。

 花川は、異世界に来た直後に、二度目の異世界転移のアドバンテージを利用して好き放題しようとしていたのだ。

 その過程で知千佳も襲おうとしていたのだから、そう簡単に許されはしないのだろう。


「え? いや、その、いつのまにかふんわりと許されてはおらんのでござるか?」

「許さないけど?」

「あ、はい」

「さすがにここに置いていくのはどうかと思うから、森の外ぐらいまでは一緒でもいいんじゃないか?」

「おお! さすが高遠殿! 拙者をいきなり魔獣の森に放置したころよりは丸くなっているのでござる!」

「そういや、そんなこともあったっけ」

「拙者あそこで死にそうになってたのでござるが! 拙者も寛大ですので今さら蒸し返したりはしませんが、神の使徒についてはまだ問題があるのでござる!」

「なに?」

「そのですね。神の使徒は、一日に一度以上高遠殿に挑まないと、全員死んでしまうのでござるよ!」

「そうなんだ。そういや使徒って何人いるの?」

「いくらでも増やせはするのですが、先ほど聞いた最新情報では拙者を含めて三人でござる」

「ということは、そのままならあと三日の命ってことか」

「そのとおりなのですが、もう少し深刻になっていただいてもいいでござるかね? 拙者は死にたくないのでござるよ!」

「うん、みんなそうだね」


 知千佳はどうでもいいと言わんばかりだった。


「軽っ! もうちょっと拙者の命についてこう、なんというか重みを感じていただきたい!」

「でも、それはそっちのことだしなぁ」


 夜霧たちにはどうしようもないことだろうと思う。


「なのでですね! 拙者と戦っていただきたいのでござる!」

「今、まだ三日ぐらい大丈夫って言ったばかりだろ?」

「その、今すぐ戦ってこいと転送されたので、戦わないわけにもいかないのでござる! なので、なんだか必死に戦ってるような雰囲気を醸し出しつつも、その実なあなあな感じにして、いやぁ拙者頑張ったんですが、敵いませんでしたなぁ! さすが高遠殿でござる。ふっ。お前も中々やるじゃねぇか! 気に入ったぜ! ここは引き分けだな、ナイスファイト! って感じで、どうにか期限を延長できるのではないかと目論んでおるのでござるが!」


 花川は、ずいぶんとめんどくさいことを言いだした。

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