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王都剣魔学校-3

 王都剣魔学校、今年で百五十年を迎える大きな学校だ。そんな学校の大きな行事と言えば、互いの実力を見せ合う試合であろう。これは単に強者の見せ合いと思っていた方が良いだう。この試合に出て良い成績を残せた者は魔法騎士団に入隊したり、騎士団に入れたりする。そしてこの試合に出るというだけで自身をアピールできる場面を作れるチャンスと言っても良いだろう。もし優勝すれば教師達からの評価も変わってくるだろう。

 今回でることが決まっている生徒の数は三十二人。一対一の模擬試合である。今年は例年より比べて一・五倍の人数が参加しており、貴族や王族の観戦者も増えていた。その中には引き抜きを考えている騎士団や領主、貴族がいることも生徒達は知っている。そして今日がその模擬試合がある日だった。

 学校はそこそこの広さがあったのにも関わらず沢山の観客で賑わっていた。


「地下に闘技場があったとは……。俺が持ってるアイテムでもあそこまで大きい地下は作れませんね。三賢者が見に来ているからか多いですねぇ~」


 レインはその闘技場の観戦場の椅子に座って喋っていた。その横にいるのはレインの肩で寝ているリリだった。ただ眠っているだけではない。ちゃんとレインの話は聞いているし、今日も何があるのかを知っている。リリはレインに聞かれた時にこう言った。雑魚が集まって眠りを邪魔する、と。間違っているようで間違っていない。リリからしたら、今この場にいるレインを覗いたら、三賢者ですらも雑魚と変わりはない。

 そんな茶番を見るのに付き合えというレインを殺そうとしたが、そんな気すらも失せてレインに付いてきたのだ。


「少しくらいは見ませんか?」


「……眠いけど、最後くらいなら……」


「はぁ、眠るのは良いですが、次の試合は面白そうですよ」


 レインはそう言って模擬試合を見た。

 入ってきた生徒はレインが知っている人物だった。一人は廊下で話しかけてきた男子生徒、もう一人は魔法科の教室前に立っていた女子生徒だった。その模擬試合のアナウンスで男子はシュール、女子はアウラと言った。シュールはその肩に大剣をつけており、アウラはレインが見た時の剣ともう一つの剣を腰に下げていた。


「アウラ、今までの俺と思うなよ?今回は俺が勝つ!」


「勝つ?それって私にいってるわけ?雑魚はさっさと負けてくれない?」


 二人が喋り終えた瞬間が模擬試合の合図となった。二人は――ステータスと異能(スキル)だけ――自身の脚力だけで踏み込んだ。速いのはやはりアウラであった。シュールの大剣が振り下ろされる前に、二本の剣を一閃させた。狙ったのは胴体であった。しかしギンっという見えない壁に弾かれたと思うと、アウラの場所が変わっていた。

 (アーツ)の一つである〈壁〉を発動させていた。そしてそこからマジックアイテムの〈臆病風〉の効果が発動したもだ。抵抗(レジスト)のおかげで弱体化(デバフ)まではかからなかったが、退避させることには成功させた。

 場所は変わったが初めと同じ体勢に戻ってきていた。その事にアウラは眉間にシワを作った。それは怒り。


「貴様ぁ、私に何をしたぁ?」


 異能(スキル)である〈闘気法〉を爆発的に身体中に流し込んだ。それは〈威圧〉と同じ効果を生み出していた。

 もちろんこの模擬試合はマジックアイテムの許可は出されてあった。それすらも計算に入れた戦いは、まさに戦争と同じようなものだ。しかしそれがアウラには気に食わなかった。マジックアイテムに頼った勝ちには価値がなく、それどころか相手を侮辱する行為、そうアウラは考えていた。闘気はまた強くなった。


異能(スキル):〈威圧〉が〈闘気威圧〉へ進化しました》


 アウラの頭の中にそんな言葉が響いてきた。両手に持った剣を構え直すと、闘気を脚力に向けていった。闘気とは身体を強化する気のようなもの、それは(アーツ)の〈一点集中〉に――力を一箇所に集める技――似ている。闘気を両脚に込めたことで力が増した。

 〈闘気威圧〉、これは闘気から威圧を発する異能(スキル)だ。今のシュールにはアウラの足から放たれる力強さに怯えを感じた。

 アウラが地面を割って飛び込んだ。


「〈斬撃〉」


「はやッ!?〈鉄壁〉」


 豪風を発しながら二つの斬撃が放たれた。シュールはそれを大剣で防いでいた。先程よりも強力な壁を身に纏いながら。マジックアイテムの効果が発揮しないのは抵抗(レジスト)が成功しているせいだろう。

 シュールはその大剣を回転させ、その刃をアウラの腹に叩き込んだ。大剣を持っている戦士を超えた速さにアウラは一瞬だけ硬直した。しかし身体は動いていた。一本の剣を腹の前まで持ってきて盾の役割とした。


 ヒュン、という音がなったと思うとシュールの頬が少し斬られていた。


 それでも大剣の勢いを殺すことは出来なかった。大剣を振りかぶり、アウラは中空を勢いよく飛び試合会場の壁――と言っても少し前に防壁が貼ってある――に激突した。


「やっぱりか無理か……」


 シュールは服の中からペンダントを取り出すと、それを握り潰した。それは魔力の残滓を流しながら効力を失っていった。ゴミとなったペンダントをそこら辺に捨てると大剣を構えた。ツゥーと頬から血が流れる。

 防壁に激突したアウラは、それをなかったかのようにむくりと起き上がった。その目には闘志が宿り、口角が片方だけつり上がっていた。さっきの行いを見ていたのだろう。女性だと分かっていながらも、そこには男勝りなものがあった。二本の剣をクロスさせると、そこに闘気を流し込んでいた。威圧感が足から剣へと移り変わっていた。そこから溢れ出る威圧はシュールを身震いさせた。


(武者震い、ではないな。かぁ〜流石に追いつけてないな。次は――いや、今だからこそお前を倒す!!)


 シュールは続けて(アーツ)を発動させていった。〈重装〉〈渾身〉〈加速〉〈重装二式〉の計四つ。〈重装〉は中段の技で、身にまとっている効果を重ね合わせて強化する。〈重装二式〉は重装をもっと強化したシュールのオリジナル技だ。

 アウラは一度下がり、もう一度体重の乗った攻撃を放とうとした。しかしそれよりも速く大剣が迫る。進もうとした身体は前のめり、下がろうにも、左右に避けようとしても、確実にどこかへは直撃する。そう感じ取ったアウラは剣を盾にした。

 二本の剣を盾にするまでは良かった。そこまでは。盾にして気付いたのだ。それが大剣ではないことに。それは高速で移動してきた硬い壁。それがより一層強くなって向かってくる。人には力で勝てるかもしれない。しかし人為的に硬くするために作られた壁を壊すのは至難の業だ。


「これで勝ったつもりか?〈物理反転〉」


 壁を壊すことが出来なくとも、力の向き、流れを変えることはできる。アウラを吹き飛ばすだけあった力はその矛先をシュールへと変えた。その一瞬だけ力は無くなりゼロとなる。そして力を変えられた流れは、シュールに向かい土砂のように流れ込んでいった。シュールにそれを止められる力はない。足が浮き、大剣にはヒビが入りそこから割れる。アウラが飛んでいた時よりも速く中空を飛んで、背中から防壁へと激突した。

 シュールはそのままの態勢で頭から――本来ならそうなるはずの一撃だった――ではなく、足で着地した。


「〈物理強化(フィジカルブースト)〉〈肉体美(マッスル・ビューティフル)〉〈肉体重圧(マッスル・プレッシャー)〉。かぁぁぁ」


 シュールの一族は沢山のオリジナル魔法――(アーツ)を持つことで有名になった一族だ。こと無ノ魔法に関しては特殊なものを持つ者が多くいた。膨れ上がった筋肉は、着ている装備を圧迫し、持っていた大剣は地面に捨てられていた。


「我が大剣は剣にあらず。我が肉体は守りにあらず。俺がこうなった事に畏怖せよ!」


「貴様の言葉を何度も聞いた。私に勝てるといいな」


「俺は何度もお前に負けてきた。だがな……お前の戦闘を見てきた俺には負ける気がしない」


 メキメキとなる音は、決して骨ではなく筋肉である。その強度はすでに鉄を超えており、並の剣では分厚い筋肉だけでなく皮膚ですら通さないだろう。

 アウラはマジックアイテムを嫌っていた。自身の力だけで戦わないのが自身の無い腑抜けと戦っている気分になるからだ。もちろん、心の中ではそれは違うと思っている。女性という男を頼りにしなければならない存在に、どこか嫌気がさしていたのかもしれない。そして強くなろうとした。マジックアイテムにも頼らない強い存在にへとなるために。シュールがマジックアイテムを壊した時、自身でも予期せぬ笑みがこぼれていた。

 シュールは大剣すらも捨てた今、本気を出そうとしていた。それは身体内から溢れ出る力の放流に身を任せて。


「〈武椀(ブワン)〉。お前に負けてばかりの俺じゃないことを証明してやるぜ!!」


 本来は〈武脚(ブキャク)〉という足を武器にする技だったが、それは改良されオリジナル技として完成した。両腕から発せられたオーラ。それは最も多く戦ってきた双剣となって形を成した。その強度は鉄を連想させるほど硬くなる。

 アウラが防壁近くに立っているシュールの近くまで接近すると、そこから大きく回転するように跳ね頭部を狙った一閃を放った。それと同時にシュールも一本の腕でそれを防ごうとし、もう一本の腕で突きを放った。もちろん当たれば本物の刃と同じ効果を叩き出すだろう。

 それをアウラは防御もせずに、ただ無防備にその攻撃を受け止めた。


「これで勝てると思ったのか?」


「お、お前……マジかよ」


 腹に突きを放ったシュールだからこそ分かる。腹の一歩手前で硬い何かがその攻撃を止めていることに。バキバキと〈武椀〉のオーラに亀裂が入る。オリジナルとして作られた(アーツ)は、完璧に作られるわけではない。そのほとんどが失敗し、弱体化させることで完成した技でもある。それは簡単に異能(スキル)で壊されるほどに弱いものだ。

 シュールは今まで以上にアウラとの力の差を感じていた。彼女という魔法剣士を生み出したのは、まず間違いなく意志の強さ。断固たる意志が異能(スキル)を獲得していき、彼女を強く至らしめた。


 シュールが咄嗟に放ったパンチも剣で受け止め、シュールの腹に回し蹴りを食らわせた。その威力はシュールをくの字に曲げ、体内では内臓破裂を引き起こしていた。歯を食いしばったそこから血が出てくる。


「――ゴホッ!?」


 シュールを飛ばすまでの威力は無かったが、それでも試合場で膝を付かせるほどの威力はあった。例え鎧となる筋肉でも限度がある。アウラの蹴りはすでに生半可な鈍なら簡単にへし折るだけの脚力が身についていた。


 異能スキルには様々な能力がある。強化、変化、防御、攻撃、特殊など異能スキルには沢山の種類がある。〈鑑定〉〈鉄皮膚〉〈威圧〉、これなんかはまだ可愛いものだ。〈毒皮膚〉、人類には獲得することが出来ない魔物モンスターだけのものなんてのがある。それが意図して取れるものも、取れないものもある。そして意図して取れないもの――運や生き方で取れるもの――が強かったりする。意図して取れないものが〈暴走する魔力〉などだ。


 シュールにもう立てる力は残っていなかった。魔法の効果も切れてしまい、その少しだけ膨張した筋肉も少しずつだが元に戻っていった。その場に倒れこむと、審判――教師による負け判定が下り医療班に運ばれていった。

 例えどんな重傷になろうとも回復魔法は、物理を超えて治してくる。そのためにこんな血みどろの試合だったとしても、ギリギリまで試合は続く。勿論だがその程度で死ぬヤワな体を持った戦士は参加していなが。


「良い勝負だったわ……」


「ボコボコにした相手に言う言葉かよ」


「あら、私に負けたのだから仕方ないでしょ?」


 シュールはその重傷になった身体を担架に運ばれて、この試合会場から出て行った。その場から出て保健所に行けば回復魔法の使い手がいる。そこに行けば時間で言うなら一時間も掛からずに完治するのは分かる。

 この世界は残酷だ。この世界の命という測りは非常に無価値で、強くなければ軽く重くなることはない。人は自身の身体を傷つけながら強くならなければならない。その為にこの世界での治療は、技術では真似できない常識外れのものと進化していた。

 試合会場の直しを行う――雇われた魔法使いたちが入ってきた。

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