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王都剣魔学校-1

 王都剣魔学校、それは王国では騎士団しかないことが分かる学校だった。いや、それでは語弊があるだろう。魔法騎士団、それが王国の最強が揃って作られた魔法剣士だった。そして王国では魔法と剣を両方使う風習があったため、そんな騎士団として作られたのであった。それでも魔法使いとなる者はいるし、剣士となる者もいた。しかし質だけなら魔法剣士は近隣国家でも一位を取ることが出来るだろう。

 ちなみにだが、この学校には魔法科がある。しかし近年は魔法使いとなる者が一人しかおらず、ガラリとした風景になっているだろう。


 アメ、イタ、エミール、レインの四人は馬車から降りると、そこの学長が待っていた。その隣には何人もの教師が待っていた。その誰もが剣を持っており、魔法に関しても詳しいだろうが、あまり詳しそうには見えなかった。剣に自身ある者は多いのだが、魔法に関しては専門の者に任せた方が、魔法剣士も育つというものだろう。


「長旅ご苦労であったな、三賢者の皆様方。そしてその師匠と思っても構いませんかな?」


「いえ、俺はただの三賢者の供だと思っていただければ良いですよ。魔法使いとしての才能ならありますが」


「は、はぁ。いや、それよりも三賢者の皆さんには急いでいただきたいですな」


 三賢者の教師としての仕事は完璧だった。生徒の心を鷲掴みにしているというか、ゲームから異世界に来たプレイヤーは、そのほとんどが美男美女になっている。ただその顔だけで近づいてくる者もいなくもない。そんな輩はプレイヤーの強さを実感する。

 アメはあまり喋ることのない教師となりすぐ飽きる。イタは方言が出て生徒には聞きづらい。ここではエミールが一番教師むいていた。趣向うんぬんは置いておいてだが。


「凄い人気なんですね。生徒の皆さんが俺を敵を殺す目で見られてますよ」


「自分で言うんもなんやけど、うちら人気やけんな」


 その後は三人とも担当教室があるということでバラバラになり、レインはこの校舎を見回ることとなった。もともとそのつもりでいたレインには結果オーライというものだろう。


 校舎はレンガで作られたような頑丈なものだった。U字型の校舎で、その真ん中には中庭――試験場や鍛錬場として使われることがある場所があった。レインが見ている場所、その場所は大きく黒いカーテンで覆いかぶされており、ただえさえ日が当たりそうにもない場所なのに、だ。そこから感じ取ったのはレインとは反対の魔力だった。視認できる場所なら〈転移テレポーテーション〉が出来るが、此処は校舎の中で使わない方が良いだろうと判断した。


 レインはそこから歩いて行こうと、廊下を歩いているとエミールが教師をしている教室が目に入った。


「さて、此処では前の宿題をやりますが、覚えていますか?」


「魔法での魔力の消費を抑える方法です!」


 エミールの言葉に答えたのは、後ろの方の席に座っている少女だった。その少女は他の生徒と違い件を持っておらず、その代わりに何かの木で作られている杖を持っていた。彼女がこの学校で唯一の魔法使いであった。それでも彼女は浮いていなかった。その理由は彼女の実力であり、この国で魔剣士率が高いにも関わらず上位に組み込める魔法使いだった。


 王国は異能スキルを見ても分かるように魔法剣士に特化した構成をしている。そんな魔法剣士は、身体を強化するための魔法を取りがちだった。しかし有能な人材を作るためには、それだけではダメだった。魔力消費が少ない魔法を獲得しなければ、国家の力が低下してしまうのだ。そのため学校では、毎年のように腕利きの魔法使いを雇っていた。


 その教室を見ていたレインに気付いたのか、生徒の何人かが生徒レインをチラチラと見出した。いや、仮面を被って顔を隠している不審者のような人物を、見ないという事はないだろう。

 そのことにエミールも気付いたようだった。


「先生、あの人は誰ですか?」


「あの人は先生と一緒に来た魔法使いですよ。あれ、魔法使いで良いんですよね?」


「えぇ、あってますよ。別に刀を使った戦い方だってありますけど、本職は魔法使いですよ」


 刀という武器を知らなかった生徒達だが、尊敬する教師が連れてきた仮面男と戦ってみたいという情動で、剣の柄を手に持った。一人だけ、その仮面男には興味がないような素ぶりを示した。それはエミールの質問に答えていた少女だった。


 顔つきは学級委員長を思い出すような、真面目を象ったようなものだった。そして視力でも悪いのか眼鏡をかけていた。ザ・魔法使いを思い出させてくれるような黒いローブを着ており、マジックアイテムを数個ほど自分に身に着けていた。その少女は他の生徒とは違い完全な“魔力操作”を行っていた。


 そんな少女を見ていると、無機質な――授業が終わることを知らせるチャイムであろう――音が校舎中に鳴り響いた。すると、レインかエミールの方へ一斉に生徒達が集まり出した。


「あんた本当に強い人なのか?そこまで強そうに見えないんだよな、あんた」


「ははは。子供には分からない強さというのは、この世界で沢山あるんですよ」


「俺は子供じゃねぇ!それにそのくらい俺だって知ってるし」


 レインと他の男子生徒が同じように話していると、さっきまで見ていた女子生徒にまた視線が映った。

 女子生徒は、チャイムが鳴り終わった後も本のようなものを取り出していた。勉強をするのかと思ったら、その大量の本を抱きしめるように持って教室から出ようとした。


「あの子はいつもあんな感じですか?」


「あぁ、あいつか。あいつはあの部屋――見えるか?」


 男子生徒が指を指している場所は、レインが行こうとしていた暗そうな部屋だった。そこに女子生徒は、また行こうとしていたのだ。


「俺はこれで失礼しますね」


「あんたも……いや、魔法使いってのは変わったのが多いだけか?」


「別に気になって行ってるだけですよ?それに彼女が何をしているかは、俺は全く知りませんしね」


 そんな会話をしていると、その会話を聞いていたのか女子生徒がレインを見ていた。


「あの何か、私に用事でもあるんですか?私はこれから用事があるんですよ」


「いや、あの部屋が気になってしまいまして」


 そう言ってレインはその部屋を指差した。すると女子生徒は付いてきてくださいと一言だけ言って、廊下を歩いて行った。それにレインは付いて行った。少しすると、他の扉よりも少しだけ大きい部屋の前まで来た。そこの扉の上には“魔法学”と書かれてあった。

 その扉を開けると、他の校舎から覗いたように黒いカーテンで閉ざされていた。真ん中に大きな丸テーブルに、その周りを埋め尽くさんばかりの本と本棚で囲まれていた。その大きいな部屋にはマジックアイテムであろうランプが数個置いてあるだけだった。それがこの部屋だけの明かりであると分かるほど、他のものは壊れていた。その奥には大きなソファがあった。

 その上にはすぅすぅと寝息を立てながら寝ている少女がいた。


「昏睡……。何故こんなところに居るんですか」


「お知合いですか!?」


「まぁ、古い知り合いというか何でしょうか?何か迷惑をかけてませんか?」


「ないですよ!それどころか魔法に詳しくて参考になるんですよ」


 その話声を聞いてむくりと少女が起き上がった。

 魔女と言われても不思議ではない服装だが、その至る所にモフモフの毛皮のようなものが付いてあった。その体型ははやせ型で、細い腕や足は簡単に折れそうだった。目は垂れて、白い肌はまるで死人にも見えた。しかし美形と言われて、男にモテそうな顔つきをしているのは確かであった。ソファの上に置いてある杖――拳が四つほどの――を手に持った。その表情を見ると、寝ていたのに邪魔されたことを起こったうような顔だった。

 魔法から作り出した〈魔法球マジックボール〉が無詠唱で計四つほど生み出した。


「はぁ、発動。〈魔法封印領域マジックシール・フィールド〉」


 レインが何処からか出した、結晶から最上級魔法を発動させた。この部屋を覆いつくすほどの魔法陣が現れて、四つの〈魔法球マジックボール〉を掻き消した。それは魔法の耐性が高い者でも、簡単に封印してしまう効果だった。


 それに驚いたのは他でもない女子生徒だった。一度も名前を聞いたことのない魔法を、すぐ傍で発動させたのを見ていたからだ。“魔法学”、それは魔法を追い求め、魔法の真理、魔法の神髄を覗き込もうという研究者向けの学だった。身体を動かすことに長けたこの学校には不向きな学問だ。それゆえ、一度のめり込んでしまうと簡単には出られない。

 そこで発動させた魔法に興味――情熱という心が反応した女子生徒の顔は真っ赤だった。レインの首を――絞める勢いで――掴み取った。身長差のせいで女子生徒がつま先立ちをしているが、気にしていないようだった。


「そ、それは何ですか!?そんな凄い魔法を見たのは――リリさんの次です!!」


「俺はキーワードを言っただけですよ。これが魔法を封じ込めることのできる魔法結晶の効果です」


「――ください!」


 声を大にしてまで欲しかったのだろう。リリと呼ばれた者が不機嫌そうに顔を歪ませて、寝させろ、と訴えかけてきた。それにはレインもどうすることも出来ずに苦笑いをするだけだった。


「此処では何をするんですか?一人で――出来ることですよね?」


 レインはその話を変えようと、此処で何をしているかを聞いた。


「話を逸らしましたね。まぁ良いですが。此処では魔法の真理を追究しています。何故、人間以外の物にまで魔力というものが宿るのか、宿らないものには何が足りないのか……魔法とはもっと別の何かを示しているのではないか?それを日々研究する場所です」


 この世界の研究者――魔法学総魔法学者と呼ばれた男――はこう言った。“魔法の真理を見たければ歩みを止めてはならない。戦士が使う魔法は人間の限界に過ぎず、我らが追い求めるものは神に挑む者なのだから”と。その男は四十五と早くに亡くなった。

 そういう仕事関係につく者は何故か早く死ぬことが多かった。しかしそこには魅了されるものがあった。しかし悲しいのが現実だった。それをやると遅かれ、早かれ人生という短い期間では導き出せないという事に。彼女も気付いたその一人だった。


 しかし今になって彼女の研究は順調に進み出した。昏睡の魔王リリと出会ったからだ。魔法使いじゃなくても使える無属性魔法――無ノ魔法を使いこなす存在によって。


「あ、お名前は何と言うんですか?俺はレインと言います」


「私はスワネット、魔法の真理を覗く者です!!」


 そう堂々と宣言したスワネットは確かな気持ちを秘めているのは、その目を見れば分かった。

 その熱意を感じ取ったのかレインは心打たれていた。彼女の手伝いをすればもっと面白いことができるのでは、こういう人間が天才と呼ばれるのではないだろうか?そして決まった。彼女という人間を育ててみたいという欲求に任せて。

 レインが魔王としての力を揮っていたのは弟子のためが多かった。もしくは調教の魔王のためもあった。彼の悪い癖は――良い人材を見つけると育てたくなってしまうところだ。そして育てられた者のは必ずと言っていいほど成長する。悪く言ってしまえば弟子の欲望、趣向、暴力、が進化するのだ。“螺旋郷の亡者使い”がいい例だろう。


「くくく、面白くなってきましたね。俺と一緒に研究しませんか?代価はリリと同じ――いえ、それ以上の魔法、アイテムを差し出します」


「――乗りました!」


 スワネットの決断に数秒という時間を有することはなかった。レインから差し出した手をスワネットは両手で握り返した。仮面を被った男を信用することは容易ではない。だからこそ、天才と呼ばれるのかもしれない。




 そんな茶番劇じみたことを見ながら横になっているのは“昏睡の魔王”のリリであった。その手に持っていた杖を抱き枕のようにして寝転んでいる姿は猫のようだった。寝ぼけていた顔を何度かさすって眠気を取ろうとしていた。それでも大きな欠伸を一度した。

 リリはそれを見ながらただ一言思った。


(眠いのに、うるさくなりそうだな……)


 リリは何度でも眠っていられそうな場所を探し求めて此処に辿り着いた。スワネットがたまに喋ることは眠気を増進させる子守歌に聞こえた。しかし今は非常に不機嫌になっていた。

 リリは知らなかった。こういうバカがいる場所というのはバカが集まりやすいことに。

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