おまけ
おまけが一番長いです・・・
『だから、忙しいところ悪いけど、中央署に行ってもらえない?杏樹ちゃんがそこに居るのよ。迎えに行きたいのは山々なんだけど、私、今、日本に居なくて。』
珍しく夕里から連絡が来たと思えば、物騒な内容に陽斗は眉間にしわを寄せる。
「中央署って、警察関連施設を指してるよな?」
冷ややかな声音を自覚しながら陽斗は確認する。
『そう。』
「だから、杏樹がなんでそんなところに居るんだ?」
春からはオヤジの会社で受け付けをしていると聞いていたが。
普通のOLには縁遠い話に、陽斗は心拍数が早くなるのを感じる。
『店の手伝いをお願いしてたんだけど、そこのごたごたに巻き込まれて、被害者として連れて行かれたらしいの。誰か行けばすぐに帰ってこれるみたいなんだけど、すぐ連絡着くのが陽斗だけなの。』
「わかったよ。」
とりあえず、警察署なんかに、義妹を置いておくことはできないと、帰って来たばかりのマンションを後にする。
車を出して、言われた通りに中央署に向かうと、出入り口近くに陽斗の後輩が出てきていた。
「佐伯先輩?」
傍らに疲れ切った杏樹が座っている。
「お疲れ、お前が担当だったのか?」
陽斗は杏樹の様子を確認しながら後輩の肩をたたく。
「杜さんのお迎えは先輩?」
どういう事だと首をかしげる後輩に、陽斗は杏樹の目の前にしゃがみ込む。
「オヤジの再婚相手の娘。書類は後でもいいだろ?疲れてるようだし、連れて帰るよ。」
放心状態だった杏樹は、目の前に現れた陽斗の顔に気が付いて、瞳に光を戻す。
「陽斗兄さん?あれ、夕里ちゃんに・・・」
「夕里は日本に居ないらしい。優斗も留学中だしな。」
母親に心配かけたくなくて、本業を弁護士としている夕里に連絡したのであろう杏樹は申し訳なさそうな顔を陽斗に向ける。
「忙しいのに、ごめんなさい。」
青い顔をしているが、自力で立ち上がる姿をみて、陽斗はほっと安心する。
事の中身は後で確認する事にして、この重々しい空気の中から、とりあえず杏樹を引っ張り出そうと歩き出した。
トコトコと昔と変わらない距離感で杏樹は陽斗の後をついてくる。
車の助手席のドアを開けてやると、おとなしく乗り込んだ。
「杏奈さんは?」
運転席でシートベルトを締めながら陽斗が尋ねると、「出かけてる」との答え。
車が警察署の敷地から出たと思えば、杏樹が恐る恐る声をかけてきた。
「駅で、良いよ。うちまで来たら、陽斗兄さんが大変になるから。」
後は大丈夫だし、ときっぱり言われて、陽斗はしぶしぶ最寄りの駅へと車を向かわせる。
そういえば、実家が新しくなってから行ってないな・・・と思いながら、ありがとうと言って車を降りる杏樹を見送った。
詳しい話は、とりあえず夕里に聞くことにしようと、マンションに戻る。
あまり接点のない自分より、母親と水入らずで一晩過ごした方が心安らぐだろうと。
*********
『え、駅?』
何があったのか、夕里に電話をしていて駅まで送っていったと伝えたらいきなり声が大きくなった。
「本人が、言うんだ。仕方がないだろう・・・」
陽斗としても、自宅まで送りたかったのだが、それはもうキッパリと駅と言われてしまえば、追求できない。
『~はぁ。杏樹ちゃん、まだ言ってないのね。』
ため息まじりの言葉に、陽斗は反応する。
「何が?」
『おじさまたち、イタリアに春から移ったのよ。優斗がアメリカ研修2年間だから、実質1年半ほど、杏樹ちゃん、一人暮らしすることになってるわね、今。』
「はぁ?」
『陽斗には伝えておきなさいと言ったんだけど、やっぱり伝わってなかったのね。』
その言葉に、陽斗はイライラとし始める。
「なんで、お前が知ってるんだよ。」
『今回の事件が、杏樹ちゃんのストーカーが犯人なんだけど。不審な動きをし始めた時に、報告は受けてたから。』
あっさりと答えられて、陽斗は絶句する。
夕里は義理の従姉妹、自分は義理の兄。
そういう話を相談するには、自分の方がいいのではないかと。
『早く大人になりたかったのね・・・様子、見に行ってあげれば?車で小一時間でしょ。』
そう言われて、陽斗はテーブルの上に目を向ける。
「飲んじまった・・・」
『・・・・もうすぐ終電よ。場所は、元の家と変わらないけど。警備会社がついてるから・・・。
』
陽斗は着の身着のまま、駅へと向かう。
週末の終電ともなれば、人は多くて。
こんな中、杏樹は無事に家に着いたのかと連絡を取ろうとして、メアドしか聞いていなかった事に気が付く。
公共の交通機関の中で通話するわけにもいかずに、陽斗はイライラしながら電車の中をやり過ごした。
実家の最寄駅を降りて、呆然とする。
閑散としていて、一言で言うと物騒。
街灯も少なく、駅からの距離を考えるとため息しか出ない。
早足で歩いて、見知った場所にたどり着くと、昔より幾分広がった敷地に、新築間もない住宅がどんと佇んでいた。
一人暮らしにしては、いろいろな部屋に明かりが灯っているのが不思議で、あわててチャイムを押す。
もしかして、不審人物が他にも居て、押し入られて家を荒らされて居てはと思ったのだ。
『陽斗、お帰り。今、杏樹が出てくるから、もうちょっとソフトな顔で対面しろよ。』
向こうから聞こえる声は、アメリカに居るはずの弟の声。
「・・・・・?」
『こっちでも、来客チェックができるようになってるんだ。あんまり、怒るなよ。』
ひときわ眉間にしわが寄ったのを咎められている内に、門の向こうに杏樹が現れた。
「どうぞ。」
中の人間が門を開かなければならない設定なのだろう。
開いた門の中に足を入れると、広いアプローチの両側にカーポートが6台分あつらえられている。
「お帰りなさい。」
正面に見えていた玄関に入ると、杏樹はそう口を開いた。
スリッパを勧められた後、案内される通りに進むとそこはリビングで。
キッチン横のパネルを操作しながら「コーヒーでも、入れましょうか?」とぎこちなく尋ねられる。
まともな会話は、オヤジの再婚してすぐの頃の、杏樹の中学入試の家庭教師の時ぐらいだったから、よそよそしさは仕方がないのだが。
陽斗はいつもより早いスピードで歩いてきたので、冷たいものがとりあえず欲しくて小さくため息をつく。
「簡単な物で良いよ。冷蔵庫に入ってるもので。」
ダイニングテーブルにとりあえず腰を下ろすと、リビングを見回した。
「お茶と、水。ビールぐらいしか無いですが。」
若い女の子の一人暮らしには色気のないラインナップ。
一人じゃ買い物も大変だろうと、ビールをリクエストしてみた。
缶とグラスが揃えられて、まだ何かをしようとする杏樹に陽斗は声をかける。
「取りあえず、座れ。」
向かいの椅子に腰を掛けた杏樹を見て、呼吸を整えて忘れそうになっている優しい声色を思い出す。
「オヤジは?見るからに、他に人が居る様子はないけれど。杏奈さんは?優斗は研修留学でアメリカなのは聞いてるけど。二人は何処?」
杏樹が息を飲む音が聞こえたけれど、気付かないフリをして言葉を続けた。
「優斗の研修と前後して、ヨーロッパに本格的に拠点を構える事になったので春から二人そろって移住しました。」
一瞬、口を開け閉めしたかと思えば、震える声で杏樹は答える。
どういう事だ?オヤジとは定期的に連絡を取っていたはずなのだが、そんな話は一つも出て来なかった。
「数年前から、向こうに居る事の方が長くなっていたから、今更かなと言うのもあるし。社会人になるから一時的な一人暮らしの延長だと思えば問題は無いかと・・・。」
無言になった陽斗を不審がって、杏樹は懸命に説明してくるのだが、陽斗にとって問題は底ではない。
「問題が有るか無いかは、杏樹が決める事じゃないだろ。確かに、社会人にもなれば問題ないだろうけど、オヤジが一言もなく移住してるのは腑に落ちない。」
名門の女子校へ通わせて、蝶よ花よと育てた義理の娘の杏樹に、一人暮らしを許すのが腑に落ちないと陽斗は思っているのだ。
当然、陽斗自身も反対するのだが。
「その点に関しては、申し訳ありませんが、口止めさせて頂きましたので。」
動きを止めた杏樹は、淡々とした口調でそう告げてきた。
「口止め?」
その言葉に、陽斗のこめかみがピクリと動く。
「意図的に、皆が隠していたということか?」
「そういう事になりますね・・・。」
そう返されて、陽斗は残っていたビールを一気に煽った。
家族に隠し事をされていると言うのは、気分が良く無い。
「理由は?」
もしや何か理由があったのかと、一応聞いてみる。
「三者三様ではあったけれど、現状を聞いた陽斗兄さんは、マンションを引き払って戻ってくるという結論が出ましたので。せっかく謳歌されてる独身ライフをここで崩すのは申し訳ないのと、北斗さんが、早く孫を見たいと期待されていましたので、その為にも独身ライフを過ごしていただいた方が良いと皆を説得しました。」
何だその理由は?
いつまでも嫁を貰わないと時折口にしていた事は知っていたが。
それと、杏樹を一人暮らしさせるのは違うだろう・・・。
陽斗はゴクリと喉をならす。
そもそも、陽斗が実家に近寄らない理由はオヤジが一番知っているはずなのだが。
「唇は噛むな、傷になる。」
考え込んだ事で流れた沈黙に耐えられなかった杏樹はぎゅっと唇を噛み締めている。
「杏樹の言い分は解ったよ。気を利かせてくれてありがとうと言うべきなんだろうな。」
椅子の背もたれにもたれながら、どうしたものかと考える。
閑静な住宅街と言えば聞こえは良いが、一軒一軒が無駄に大きいこの地域は治安が良さそうで、実は物騒だ。
路上で事が起こっていても、近隣住民が気がつくかと言えば、気付けないのが正解な状況で。
「けれども、こんな物騒な時代に無駄に広い一軒家。最寄りの駅からここまで街灯が少ない上に若干の距離もあり、民家もまばら。一人暮らしの状況を知ってしまえば、この生活を続けさせる訳にはいかないよ。」
テーブルの上に手を組み直すと、杏樹を覗き込む様に選択肢を二つ並べる。
「街中のマンションに杏樹が引っ越してくるか、俺がここに戻ってくるか。杏樹が決めて良いよ。」
早くに自立しようとして居た事にも気付いていた陽斗は、杏樹が本当は寂しがりやである事にも気付いていた。
そして、母親の再婚相手の娘と言う立場に遠慮をしていた事も気付いていたのだ。
だから、おそらく、自分がココで家を維持管理する位は、と思ったのだろう。
「は、陽斗兄さん。そんな選択をしなくても、ほら。うちは警備保障入ってるし、基本的に優斗とネットでつながってるから異変はすぐに警備に伝えられるし。夕里ちゃんのお手伝いだって頻繁に行く訳じゃないしね。」
慌てる杏樹は首を横に振りながら言葉を繋いで来る。
「マンションなら、最寄り駅まで徒歩5分で、職場まで電車で二駅。夕里の手伝いが発生したとしても、店まで地下鉄で二駅だ。遅くなってタクシーに乗ったとしてもそう金額はかからない。」
通勤の事を考えると、マンションに呼んだ方が便利だなと打算した陽斗はもう一押し何かが必要だと理由を探し始める。
「確かに、この家の警備保障は、確かに異変が起きれば10分で到着が警備会社のウリだが、10分あれば人は死ぬぞ?ネットで優斗とつながっていても、ネット回線の先で優斗に杏樹を見殺しにしろと言う事か?」
そうそう、と警備会社の売り言葉を思い出しながら杏樹を見つめる。
「夕里の店のイザコザって、アイツは言っていたが、イザコザは杏樹がらみだったんだろ。だからしばらくは手伝いを控えていたのに、夕里が長期海外出張に行く事になったから杏樹が店に顔を出した。そこで、加害者に手を出された。俺の仕事、知っていたよな。その辺の交番に言っ行ったって、ストーカー事件の大半は解決に至らないことぐらい気づいているよな?」
移動中に受け取ったデータで、事のあらましに気付いた陽斗はため息をつく。
「何で、相談して来ない?」
頼りにならないのか?
「夕里ちゃんには、お店のお客様だったのもあるから言ってたけど。時期的に北斗さんたちが向こうに行く準備していたのもあって、そうなれば陽斗兄さん、戻ってくるとか言いかねないし・・・。なるべく、帰るルートが何時も同じにならないようにしていたし、本当に遅くなったら、送ってもらうようにもしていたし。何しろ相手は・・・・」
「女だから気を許していた?あの女が、男をそそのかして杏樹に襲ってきたらどうする?それこそ10分あれば息の根を止める事も出来るだろ。」
危機管理の無さに、イライラして来る。
思わず身を乗り出して、逃げかけた杏樹の腕を捕まえた。
「・・・・・・ゆ・・・」
面白くない、弟の名前が真っ先に出て来て、陽斗はムッとする。
「優斗は海の向こう。で、いざという時はどうするつもりだったんだ?」
ふと、杏樹の目から涙があふれる。
「怒っているわけじゃないよ。どうして、俺を頼ってこないのか、聞きたいんだ。家に寄りつかないから、頼りにくいなら、マンションを引き上げて来るし。」
突然の涙に陽斗は慌てて、右手を伸ばす。
昔は頭を撫でてやると涙は止まっていたのだが、なぜか柔らかそうな頬へと手が伸びていく。
「ち、違うの・・・陽斗兄さんの彼女が・・・。・・・・・、か、かわいそう・・・。ここ、住んだら、あ、会うの・・・不便で・・・。」
杏樹からとぎれとぎれに紡がれる言葉に陽斗は首をかしげる。
彼女がかわいそう?ってどういう意味だ。
ひっく、ひっくとしゃくりあげる杏樹に、このままだと呼吸が苦しくなるだろうと頬を撫でながら微笑みかける。
「泣かなくていいから、落ち着いて?」
居もしない彼女がかわいそうだから、実家に帰ってくるなと言われる義理の兄。
と言うのは、どういう存在なんだろう、と不安になる。
「と、とにかく。私は、大丈夫だから。北斗さんやママが帰ってくる回数が減ったようなものだから。」
確かに、オヤジたちは年の半分以上が海外に居る状態だったが。
それでも、常々優斗が一緒に住んでいたはずである。
完全な一人暮らしになったことはなかったのではないだろうか。
「そんなに、俺の事が嫌い?俺がここに戻っても、生活リズムが違うから顔を合わす事は無いと思うよ?休みもバラバラだろうし・・・。どのみち、帰宅しても、寝に帰るだけだから、杏樹に迷惑はかけないと思うけど。」
めったに顔を合わさなくても、人の気配で物騒な事を回避できるだろうと陽斗はマンションを引き払う予定を考えながらあふれ続ける涙を拭う。
「ち、ちが・・・う。」
「違う?何が?」
頑なに同居を拒否する杏樹の言葉に、陽斗はむっとして幕を張った瞳を覗き込む。
「見たくなかったの。」
一瞬、ゴクリと固唾をのんだ杏樹がそう言い切ると、さっと体を引いて杏樹は立ち上がる。
カタンと椅子が音を立てた。
「陽斗兄さんが、彼女を連れて来て仲良くしている姿を見たくなかったの。優しい声で、彼女と電話している声を聴きたくなかったの。一緒に居ることになったら、我慢できる自信がなかったの。だから。北斗さんを説得して秘密にしてもらったの。」
瞬時に扉まで移動する杏樹を見て、疲れ知らずなんだなと陽斗は思いながら、言葉の意味を解釈する努力をする。
彼女と一緒に居る姿を見たくない?
「好きすぎて、一緒に住むことになったらどうしたら良いのか解らなくなるから。おかしくなっちゃいそうだから、内緒にしてたの。陽斗兄さんが誰かと結婚するまで、内緒にしてって。」
勢いがついた杏樹は本人が自覚しているのかどうか、告白としか受け取れない言葉を言い放って、扉を抜けて出ていこうとする。
ずっと、蓋をしていた自分の気持ちと。
ありえないと思っていた現実が一致している・・・。
そう陽斗が気づいた瞬間、杏樹がノブに手を伸ばしているのが目に入って。
陽斗は慌てて、杏樹を引き寄せた。
「言い逃げか?ずいぶん暴走した告白に聞こえたけど。」
にやける顔を見せる訳にはいかないので、杏樹の頭を抱きかかえて身動き取れないようにからめ取ってしまった。
一瞬、身をよじった杏樹だか、あきらめたのか、陽斗のシャツにしがみついてきた。
夢に見ていた状況に陽斗は息をのむ。
杏樹のつむじに顎を軽く載せて、陽斗は腕の中の存在を確かめるように深呼吸をした。
「優斗、優斗って、優斗にべったりだから、優斗が好きなんだと思って心配していたんだよ。あいつの八方美人な所に泣かされやしないかって。歳の差と言い、懐き具合と言い、俺の出る幕は無いと思って家に寄り付かなくしていたら、こんな事になってたとは思わなかったよ。」
愛おしい義理の妹の頭を撫でながら、陽斗は初対面の時を思い出す。
日に焼けすぎて色が抜けた短髪に、傷だらけの足。
小学六年生の女の子にしては、ガリガリで、纏う空気がトゲトゲしくて。
それでも、グリーンがかった瞳を覗き込んだ瞬間に、体の中に、トンと何かが投げ込まれたあの日。
「ずっと見守ってきたんだよ、一人前になるまで。夕里には、それこそストーカーだと笑われながら。」
複雑な環境で、育ててきちゃったから・・・と杏奈が後ろめたそうに説明した時。
ろくに学校に通っていなかったらしい杏樹はかろうじて英語の読み書きができる程度で。
下手をすれば、杏奈が育児放棄で訴えられるのではと言う状態だったのだ。
ガリガリに痩せた懐かない野良猫、と言えるような杏樹を、とりあえず中学受験までの数か月間で日本語を使えるようにしてそれなりに間に合わせたのは陽斗だ。
「こっちは歳の差がある分、悩んだんだ。ロリコンなのかってね。でも、中学生になる前から、慈しんできた子を誰かに取られるの見たくなくて、忙しいのを口実に距離を置こうと思ったり。それでも気になって、事あるごとに自分の好みのオンナにならないかと望みをかけてプレゼントをしてみたり。悪あがきもいいとこだ。」
「プレゼント?」
クスクスと笑いながら杏樹を見下ろすと、あの時と変わらない首をかしげるしぐさ。
「それはおいおい、意図と共に説明するよ。」
にやけ顔を隠している場合ではなくなる。
「パニックになった勢いだけど、熱烈な告白、嬉しかったよ。」
右の、左の目じりに、頬に、耳たぶに・・・唇をつけると止められなくなってどうにか唇と唇を重ねた後に理性を総動員して一度、口づけを止める。
「いつか嫁に行くと思えば、心苦しくてね。どうやったら、俺の手元から離れないかないかばかり考えてしまって大変だったんだ。」
覗き込んだ杏樹は身動きもせずに固まっていて、口をパクパクと動かしていた。
「あれ、もしかして初めてのキスとか?お互いに、好きすぎて、距離を置こうとしていたなんて間抜けすぎる気もするけど。杏樹、安心して?俺も、杏樹が好きだから・・・」
力強く抱きしめると、杏樹はクタリと崩れ落ちる。
「危ないなぁ。」
抱き上げると、杏樹は眉間にしわを寄せた。
「キャラ違いすぎ。」
「構いたくて仕方がなかった義妹に嫌われないように我慢していただけだけど。」
クスクスと笑いながら腕の中の杏樹に頬ずりをする。
「自分の好みに育て放題と言って、夕里にドン引きされたけど。」
膝の上に杏樹を座らせて、頬に手を寄せる。
「杏樹。好きだよ。おやじに殺されるかな?杏樹の事、溺愛してるから・・・。」
それは、ちょっと勘弁だなぁと陽斗は思いながら手触りの良い頬をなぞる。
「は・・・る・・・。好き。もう、置いて行かれるのはいや・・・。」
そんなつもりはなかったのだが、中学生の少女には置いて行かれたと思えたのだろうか。
首にしがみついてきた杏樹の背中をトントンと擦ってやると、ふわりと腕の力が抜けていく。
「・・・・、お・・・い・・・。」
顔を覗き込むと、そこには杏樹の安心しきった寝顔が見える。
陽斗はくっと息をのんだ。
「ま、仕方がないか・・・・。緊張しっぱなしだっただろうし。」
幸いなことに、人が寝ても差し支えないほどの大きなソファにそっと杏樹を寝かせる。
あの時から変わらない寝顔。。。
陽斗はクスクスと笑いながら、夜が明けるまで、その寝顔を眺めていた。
思いついた勢いで終わらせてしまいました。
お読みいただき、ありがとうございます。