Stargazer
「どうしたのだね?」
スコップさんはいきなり慌て出したムギーに首を傾げ、目敏いヘリオは彼女の相棒がいない事に気付き、どこで見失ったか振り返っています。
「すみません、私の家族のようなペットの……テラコッタくんが居なくなってしまって!えぇと、こ、心当たりはありませんか?!」
動揺しまくりなムギー。無理もありません、あんな話の後で、精神的な支えの一柱が不在なんですから。スコップさんは「ペット。ペットか……そのテラコッタくんは、どんな子かね?」と訊きます。
うっかりヤモリである事を伝え忘れたのに気付いて「すみません、テラコッタくんはヤモリで、体の色は薄い茶色で」と説明する横でヘリオがぼそりと「額に星の模様がある……?」何かに気付いたように呟くと、それを拾ったムギーは「はい!」と頷きます。
「おそらくその子は魔女の目じゃな。魔女が特に気に入っておる人の傍にいて、情報を集める役割を持ち……きっと、お嬢さん。君を守る為に、井戸の外で待っているんじゃろう」
長く白い髭を撫でながら話すスコップさんに、ムギーは(魔女の目?!そんな筈ない。だってテラコッタくんは小さい頃からずっと傍にいてくれた大事な!)と反発しかけますが、守る為と聞いて落ち着こうとします。
ヘリオが「魔女の目って、墓守と似たように魔女から選ばれるんですか?」と訊き「左様。本人の意思ではないよ」とスコップさんが頷いたのも大きいです。
ヘリオは自信がなくなっているとはいえ、今までの経験全て忘れた訳ではないので「メテオラもだ」と言い「あ!」とムギーも思い出します。
「たぶん、君と……コトホギも魔女に気に入られてる」
此処にきて世界のスケールが少しだけ縮まった気がしました。何せムギーにとっては「お祖父ちゃん?も……?」と首を傾げます。
スコップさんは驚いて「コトホギ……コトホギ・アイザック・ドルチェで間違いないかね?」と何やら知っている様子。
「ご存知なんですか?」と不思議がるヘリオに「知ってるも何も、あのヤンチャ坊主を育てたのは神父をしていた頃の儂です」と笑うスコップさん。
ヤンチャ坊主、神父。このフレーズで祖父が育ての親と記憶が混ざっているのかもと繋げるにはムギーの冷静さが足りないようですが、あのコトホギ、スケアホラーこそが祖父であるのだと多少なりともわかりました。
「いやぁ、長生き……ではないけれど。するものですなぁ。あのヤンチャ坊主の孫を拝める日が来ようとは」
ヘリオは冗談めかして「失礼ですけど、長生きなのでは?墓守ですし」と言いますが「いやいや。恐らく君達以外は皆過去の人間であり、現世では故人でしょう。魔女の夢は、人間と同じようでいて少し規模が大きいのでな」と笑われます。
ムギー達は今まで逢った人達が個人的と聞き、納得できるような、偶然とはいえ2人でとんでもない事態になっているなと頭を抱えました。
「ふふふ。奇跡はある、なんぞ言いおったヤンチャ坊主が懐かしい。本当にあるかもしれないと、思ってしまいそうだ」
ヘリオは実際は幼馴染ではなかったけれど、この世界ではそう思い込んでいたコトホギが自分の敬愛する神父に否定された事を気にしていたのを思い出し「スコップさんは奇跡はないと思われていたんですか?」と訊き、頷かれます。
「ええ。待つだけの奇跡はね。あるのは奇跡ではなく、執念だと思っておりました」
スコップさんはクリスマスに贈り物を貰った子供よりも嬉しそうな表情で、眩そうに目を細めました。
「それでも坊主の孫を拝めたのは執念なんてものではない、これは確かに奇跡のようだ」
ムギーはそんな光景を見て、仮にこれが夢で、全てなくなってしまっても。無駄なんかには絶対ならないと思えました。胸がココアを飲んだ時同様、或いはそれ以上に熱くなります。
「──さて、折角だから色々見て回りなさい。この墓地は星がよく見れる望遠鏡もあるのでな」
2人を墓地に送り出すスコップさん。ヘリオは彼が感無量で目が潤んでいたこと、ムギーはその声色が震えていたことから大人しく小さな観光をする事にしました。
魔女の起こし方や帰り方。気になる事は山程ありますが、焦っても仕方ないと今までのやり取りで察したからです。
それに、2人にも判明した情報と向き合う時間が必要でした。何せ、非現実的すぎますものね。




