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 パタン、と小さな音を立てて扉が閉まる。

昨日の夜出て行った部屋は、昨日のまま。

開け放した窓からは明るい朝日が差し込んでいる。


本当なら一人でほっと息をつく場面なのに。

キョロキョロと後ろで興味津々に部屋を見回している燈哉さんのせいで、全く気が休まらない。


他人、それも好きな人が自分の部屋にいるこのソワソワ感。

趣味嗜好を丸裸にして見られている気分だ。


「……あの、もういいよね…?」


なんだか恥ずかしくて、早く部屋を出て行ってほしいと、遠回しに伝えたつもりなのに。

燈哉さんはにっこりと笑った。


「いやー、もうちょっと見たいかな」


ははは、と燈哉さんは、笑いながら、机の上を見る。

あ、そこはヤバい。

私のいつも勉強する場所。

その目の前に、私は推しの祭壇を作っている。


私の推し、つまり燈哉さんの祭壇。

羞恥で火が出そうになりながら、急いで机の前に移動する。

その不自然な動きに、燈哉さんはピクリと眉をつり上げた。


「なに隠してんの?」


「え、えー……そんなこと、ない、よ?ね?」


ポンコツーーー!!!

こんなの、何か隠してます、と言っているようなものだ。

案の定、燈哉さんは私を押し退けて、机の上を見る。


あ、あああー…………!

終わった…!


「………推し…」


自作の祭壇には、正面にデカデカと『推し』の文字、その下には燈哉さんの学生時代の写真。

因みに写真は学生時代のものしかない。誓って、体育祭とか、文化祭とかの、写真販売で買えるものだけだ。隠し撮りはしていない。

その横には『好き過ぎて滅』とか『顔面国宝』とか『マジ尊い』とかの推しへのメッセージシールがベタベタ貼ってある。

一部は彩希が面白がって貼ったものもある。


「一生推せる…神ってる………へー…」


興味津々といった様子で燈哉さんはまじまじと自分の祭壇を見つめている。

いたたまれないから、止めてほしい…。


「……すみません…」


「別にいいよ。でも、そうかー…俺って推しなんだな」


しげしげと祭壇を眺めてから、燈哉さんはくるりと私の方を向く。

私は顔を合わせられなくて、パッと横を向いた。


「そんな照れなくても。ほらほら、推しの顔だぞ?」


「…本当にやめて…」


「いやー、使えるものはなんでも使わないと。…でもこれ、面白いな。俺もやろうかな」


祭壇を?誰の祭壇を作るつもりなんだ。

え、自分?自分で自分の祭壇作るの?

なんなんだ、そのトンチキ祭壇は。


燈哉さんが嬉々として自分の祭壇を作る想像をして、それすら何だか可愛いと思ってしまう私は多分、既に末期だろう。


「自分の作るの?…写真いる?」


「なんでだよ。自分の祭壇なんて葬式だけで十分だ。…そうじゃなくて、俺も日乃の祭壇作ろうかなって」


「え、絶対嫌」


間髪入れず拒否すると、燈哉さんはけらけらと笑った。


「ブーメランじゃん。俺も嫌だよ」


「うっ……いやでも、私のは大分昔からあるやつだし。時効で!」


「こういうの、時効あんの?…っていうかさ、この写真、学生時代のじゃん。なんで持ってんの?俺、いつから推しなの?」


ああ…墓穴を掘っていく…。


「………黙秘権を行使します…」


ぶんぶんと首を横に振ると、燈哉さんはブフッと変な声を出して吹き出した。

肩を震わせて、暫く笑った後、はー、と苦しそうに息をついていた。


いや、もういいけど。

推し活もバレたし。

もう今後はコソコソせず、堂々と推し活しよう。

うん、それがいい。


私が一人で開き直っている間に、燈哉さんも落ち着いたのか、ちょいちょいと私を手招きする。

大人しくそれに応えると、燈哉さんは機嫌よく、私の背中に腕を回した。

急に抱き締められる形になって、ピタリと固まってしまう。


いい匂いがする…!

洗濯物の匂いは嗅ぎ慣れているものなのに、何かが違う。

あたふたする私の肩口に顔を埋めて、燈哉さんは深いため息をついた。


「……日乃、勝手に居なくなるなよ」


その声は、寂しそうで、なんとなく心細そうな気配がした。


「心配したのがご両親だけだと思うなよ?」


ぎゅう、と背中に回る腕に力がこもる。

そこにいるのを確かめるように、深く身体が密着する。

温かい体温は、私のものとは違う、男の人のものだ。


「…離れで暮らしてる俺が言える立場じゃないけど…一番に頼ってくるのは俺が良かった」


拗ねたような声に、思わず期待してしまう。

こんなの、まるで、私の事を好きみたいだ。


「……あの、ごめんね…?」


「…いや、俺が悪い。日乃」


じっと燈哉さんは私を見つめる。

私は期待を込めて燈哉さんを見つめ返した。

でも燈哉さんはそんな私からふいに視線を離した。


「…やっぱいいや。今は止めとく」


はー…と深いため息をついて、腕の力を緩めて、私と距離をあけた。


「……生殺しだ…」


ぼそりと呟く。

いやいやいや…そんなの、私も一緒ですけど!?

止めとくって何!?

そこまで言ったらもう言ってほしいのに…!


でも、私もそれ以上言う勇気はなかった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!

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