18
家に帰ってきた私を見て、両親はへろへろと床に座り込んだ。
いなくなって、右往左往していたのは明白で、一緒に帰ってきた燈哉さんに、よく連れ戻してくれた、と泣いて感謝している。
でも違う。
私は私の意思で帰ってきたのであって、正直燈哉さんに説得されたわけじゃない。
両親は今度こそ私を家から出さないと、固く誓っているけれど、私はそれをどこか客観的に見ていた。
リビングに燈哉さんと連れ立って入り、普段は離れにいる筈の志麻さんが4人分のお茶を入れてくれた。
志麻さんは私を気遣わしげに見つめて、でも何も言わずに、リビングを後にした。
「日乃ちゃん、心配したのよ!もう…どうして…」
母は理解できないものを見る目で、私を眺める。
心配してくれたのは、本当だと思うし、有り難いとも思う。
でも私は、親に守られなくては生きていけない程、子供ではなくなった。
それを、両親はまだ理解してくれていない。
「……私、この家を出る」
両親がこのまま、私が成長したことを認められないのなら。
私の自由を、取り上げるというのなら。
私はここには居られない。
「…なにを言っているの…?」
「日乃、落ち着きなさい。そんな事軽々しく言う事じゃない」
「落ち着いてるよ」
これ以上ない程。
私は私の決めた道を進む。この当たり前の権利を、決して誰にも奪わせない。
それを意識したら、私の心が乱れることはなかった。
「日乃ちゃんが、一人で生きていけるわけない…!ここにいたらいいのよ!そうしたら」
「『母様と父様が守ってあげる』?」
前に聞いた台詞をそのまま告げると、母様はピタリと固まった。
その顔は信じられないものを見る顔だ。
同じ人間なのに、中身が違う人間になってしまったかのような違和感。
それは、以前に私が両親に感じたものと同じだ。
「……なにが、不満なの?学校に行けないから、そんなわがままを言うの…?」
「違うよ。学校に行けないからじゃない。私は、私の事を認めてほしいんだよ」
なんでもしてあげなきゃいけない子供じゃなく。
一人の同じ人間として、私の意見を認めてほしい。
たったそれだけの事が、こんなに難しくて、大変だ。
「日乃、認めてるよ。ただ日乃の事が心配なんだ」
父が取りなすように言う。
心配、という言葉がまるで免罪符のように聞こえる。
「…わかってる。心配してくれてるのは、有り難い事だって、それもわかる」
私の事を本当に大事にしてくれている。
それがわかるから、こんなにややこしい。
「でも、私はもう守ってもらわなきゃいけない子供じゃない」
魔法がなくたって、ちゃんと生きて帰ってこれた。納得いかなければ、自分の身体一つでどこにだっていける。
その責任も、取れる。
「まだ子供だ。お金も稼いだ事がなければ、生活の全てを誰かが支えているから、お前は何不自由なく生きていられるんだ!」
父の言う事はもっともだ。
私は両親の庇護のもと、お金を出してもらって、生活の面倒を見てもらっている。
「わかってる。…だから、出ていく」
私の自由を認められない両親に、今まで通りの生活を保障して、更に自由を求めるのは、それは、ただのわがままだ。
私が本当に自由になるなら、自分で生活する他ない。
それはきっと大変だろう。
学校も行っている暇なんかないだろう。
でも、それが、私の求めた自由だ。
彩希の強さを思い出す。
あの、何ものにも屈しない、唯一無二の親友。
彩希にできて、私にできない道理はない。
「そんな…そんな簡単じゃない!」
「日乃ちゃん!もう…もう、わかったから!学校に行っていいから!好きにしていいから、だから、お願いよ。出ていくなんて…そんなこと…」
私に向かって大声をあげる父と、泣き崩れる母。
その光景は、まるで私が親不孝だと突きつけてくるようだ。
「燈哉くん、燈哉くんからも、何とか言ってくれ」
父が縋るように燈哉さんを見る。
黙って事の成り行きを見守っていた燈哉さんは、漸く口を開いた。
「…日乃は、聡明な子です」
淡々とした、低く落ち着いた声に、父と母が訝しげに燈哉さんを見る。
「行動力もある。そして何より、根性がある」
「……突然何を…」
「魔法がないからって、大人しくしているような人間じゃないんです。自分の手足を使って、理不尽に立ち向かっていける。そして決して諦めない根性もある。とても、格好いい女性です」
ふ、と燈哉さんは笑う。
そのどこか慈愛に満ちたような笑顔を、私に向けてくる。
「でもそれは、ご両親の子育ての賜物なんだと思います。愛情深く、大事に育ててきたから、日乃はこんなにも、人の気持ちに寄り添えて、自分の気持ちも大事にできるんだと思います」
私を見て、燈哉さんは言う。
それは、両親の愛情をきちんと受け入れなさいと、そう言われているようだった。
それから、燈哉さんは両親に視線を向ける。
「日乃はきっと、どこでも生きていけるでしょう。…でもそれは、今じゃなくてもいい」
「そう、そうなんだ!」
「わかります。でも、だからって檻に閉じ込めて仕舞っておけるような、そんな子供でもない筈です」
両親は燈哉さんの言葉に反論できなかった。
それはそう。
だって、部屋に閉じ込めたのに、出て行った事実があるのだから。
「家出は、やりすぎだったと思います」
ちらりと燈哉さんは私を見る。
私は慌てて燈哉さんから目をそらした。
「でもそれは、日乃が自分で決めた道を進める一つの事実でもあります。だから、家を出るまでいかなくても、もう少し、手を離して見守ることはできませんか?」
燈哉さんは真摯に両親に伝えてくれている。
その真摯な態度は、私と、両親の意見の違いを少しだけ繋ぐ架け橋になる。
「日乃も。家を出るのはもう少し後でいいだろ?」
「………ちゃんと、見守ってくれるなら…」
心配で家に閉じ込めるなんて、突き抜けた方法ではなく。
ほんの少し、一歩引いて見ていてくれたら。
そうしたら、私達は、また一緒に暮らせるだろう。
両親は燈哉さんの言う事を噛み砕いて咀嚼して、そして、ここがこの親子喧嘩の落としどころだと納得したんだろう。
不満そうではあるものの、頷いた。
「…わかった。…燈哉くん、そこまで言うなら、君にもしっかり見守ってもらうからね?」
「勿論です」
じろりと睨む父に向かって、燈哉さんはにっこりと頷いた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!




