序章:ハイウェイの苦い残響
1980年代初頭。札幌、平岸。
地下鉄が地上から地下へ潜るあの街で、僕は18歳だった。
これは、実体験に基づいた、あの頃の僕と、街と、少し奇妙な大人たちの記録だ。
1980年代の初頭、札幌の夜は今よりもずっと暗く、そして鋭かった。
愛車のセリカの助手席には、名前もよく思い出せないが、髪の長い、サンローランの香水を漂わせた女の子が座っている。郊外の洒落たレストランで、僕はツェッペリンの『天国への階段』のような、仰々しくも美しい時間を演じていた。
事件は、帰り際の駐車場で起きた。
ドアの開け閉めが、ほんの少し、隣の黒いセダンの境界線を侵犯したらしい。
「おい、小僧。面貸せや」
降りてきたのは、組バッジを光らせた二人の男。一人は安物のポマードの匂いがし、もう一人は蛇のような目をしていた。
小説なら、ここで僕は隠し持ったナイフで相手の喉元を切り裂き、冷徹にアクセルを踏むところだ。しかし、現実はもっと泥臭い。
僕は女の子の震える肩を感じながら、脳内のインデックスを高速でめくった。そして、金を借りに来た姿と歳をとって形の崩れた背中の般若の刺青の記憶しかない「極道の叔父」の名前を口にした。
「……○○組の、××は僕の叔父貴ですが」
空気が変わった。男たちは舌打ちをし、煙草の火を消して去っていった。
女を守り抜いた。形式上は僕の勝ちだ。
しかし、アクセルを踏み込む右足は、自分でも情けないほどに小刻みに震えていた。借り物の威光で生き延びた自分への、吐き気のするような不満。ツェッペリンの重厚なドラムが、頭の中で虚しく響いていた。
「ねえ、どこか寄っていかない?」
何も知らない彼女が、甘えた声で言う。
僕は、逃げ込むように地下鉄沿線の馴染みの場所へ車を走らせた。
昼は珈琲を、夜は酒を出す、あの店だ。
カウンターに座れば、粋なマスターがウィットに富んだ軽やかな問いかけをしてくれるはずだった。




